『power!』作者:流空パパ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約8.27枚
EASY 1

 自由な風にその身をゆだね、たなびくマントと――紅い髪。

 利き腕である左手には背丈大の杖[舞い踊る星屑]が、そしてもう一方の手には、しっかりと手綱が握られている。まっすぐ力強い閃光を放つ、(自分で言うのもなんだが)瑠璃色の美しい瞳の周りには――至る所に宝石をちりばめた、髪と同じ色をした仮面。そして――

 その身を包むのは瞳とは対照的な、邪悪な閃光を放っている――所々に金の糸でいろんな模様が刺繍された『いかにも』って感じの――漆黒の詰め襟。

 ……っていうのがオレの、今現在の格好。

 まったくもって恥ずかしいこと、この上ない。いくら仮面で顔半分が隠れるからっていっても、これはないよなぁ……。

 上空1200Mの爽やかな風に重いため息を乗せ、オレは手綱を引き寄せた。その先には――金色の体毛を優雅にたなびかせている大きな身体。この世界ではもはや想像や本の世界でしかお目にかかることのない存在――翼龍。

 オレにくいと引かれた翼龍――[ヴァリアーツ]が、それに応えるかのように大きな咆哮を上げる。それを合図に急降下。目指すは眼下に広がる自由都市[未知への発掘・ニウロン]。

 全長15Mを超えるその身体が大地に落とすシルエットと先程の咆哮に、何事かと上を見上げた一般市民の瞳にオレの乗ってるヴァリアーツのお腹が映る。

「なんだ、あれは!?」「きゃあぁぁ!!」

 ただ事ではないと悟った善良な市民達がお約束のような台詞で騒ぎはじめた。が、そんなことにはお構いなくバヴァリアーツは下降を続け、街の象徴である巨大公園[出会いの予感]の中央に位置する巨大な大理石で出来た彫像『ある女神の微笑み』の、ちょうど杖の頂点に降り立った。『ある女神の微笑み』と[ヴァリアーツ]が作り出す影はさながら、英雄伝承歌に頻繁に出てきそうな[使い魔とその主人]といったところだろうか。とにかく――

 オレは徐々に眼下に集まりつつある民に向かって、その威厳を示すためにこう叫んだ。……本当は嫌なんだけど。

「皆の者、静粛にするがいい。我こそはかつて世界を混沌の闇に陥れた『108の魔王』の頂点に立つ存在、偉大なる大魔王[ヴィルヴァロッサ]の生まれ変わり――[紅蓮の疾風・アルファ=ジェルサード]なるぞ」

 

EASY 2

「なぁ、アルファ。お前……俺のために[魔王]になってくれへんか?」

 ――ぶっ。

 とんでもないことを平然と言う、目の前のサーヴァ。それと打って変わって、一人驚き口に含んでいたミミ牛のミルクをテーブルの上にハデにぶちまけるオレ。それが少し頬にかかったというのにサーヴァは気にした様子も見せず、眼前のオレを見据えた。およそ、今の――というかオレの、おちゃらけた雰囲気とは不釣り合いな真剣な眼差しで。

「魔王!? ――オレが、か?」

 汚れた口許を伸ばしたローブの袖で拭った後、少し気持ちを落ち着けるために時間をあけてから、オレは改めて聞き直した。自分で自分を指差しながら――。しかし、それに対するサーヴァの反応は――

「そうや。悪の魔操士連中の間では神のような存在として崇められている偉大なる死霊導師、[彷徨える運命]の二つ名を持つ、フィリアル=ジェルサードの子孫であるアルファ、お前や」

 ――[Yes]。

 どうやら聞き間違いではなさそうだ。しかもご丁寧にウチのご先祖様の名前まで持ち出してこちらを指名してきてる。それに加えて大きな身体までもこちらに迫り出し、まるで獲物に挑みかかる百獣の王のような姿勢になっていた。そのせいでオレは危うく唇を奪われるトコだったが、抜群の反射神経のおかげでそれを回避することに成功した。……ふぅ、危ない危ない。

「そりゃまぁ……オレの、ジェルサード家の――確か六代目なんかは西方のソルティアーナ大陸を丸ごと消し去っちゃったとかで変人扱いされてたらしいけど、遙か昔にあった【漆黒の朝日】ん時には勇者様御一行に加わって、世界を混沌の大地に変えようとしていた『108の魔王』を封印した人もいたんだぜ? ……いくら昔のことだからって、正義の味方には変わりないんだから、その子孫たるこのオレが全く正反対の存在である魔王になる、だなんて……なぁ」

「せやかて……こないなこと頼めるんはお前しかおらへんのや……」

 オレの冷や汗垂らしながらの台詞を聞き終えた後、サーヴァは突き出していた身体を椅子に収め、情けない独り言を消え入りそうな声でオレに聞こえるように呟いてから、がっくりと肩を落とした。同時に――その口から重たいため息が漏れた。

 ――その一瞬後。

「親友の、年に二回くらいの『一生のお願い』なんやで。……頼む、この通りや、な?」

 何を思い立ったか、サーヴァは椅子から降りて素早くオレの足下に近づくと、周囲の視線もなんのその、額を板張りの床につけるくらいに頭を下げた。

 ――いわゆる『土下座』というやつだ。

 ハッキリ言ってこいつは当の本人よりもやられた相手の方が恥ずかしいシロモノときてるから、こっちとしてはたまったモンじゃない。頬の紅潮と耳の温度変化をはっきりと感じながら、オレはその場に凍りついた。

 さらに、倒れた相手にダウン攻撃を加えるかの如く、あちらこちらからくすくすとかみ殺したような笑い声が聞こえ始めたもんだから、もう――限界だ。

「わ、理解った。理解ったから、ひとまずここを出よう。詳しい話はそれから、だ」

 狼狽たえた様子で言うオレは、何かを言おうとしているサーヴァの手を、文字通り有無を言わさず鷲掴みにすると、その場から逃げるように素早く出口に向かった。途中、「あの……お代金を」と言ってきた、肩口で切り揃えられた鳶色の髪とそばかすが可愛いウェイトレス(その顔にはやはり、かみ殺したような笑い)に、ミルク一杯にしてはかなり多めの硬貨が入った麻袋を渡して、オレは脱兎の如く雑踏の中へと消えた。

「またいらしてくださいね☆」

 麻袋の重さに気を良くしたウェイトレスが、よせばいいのに店の外に出てきてオレ達にそう声をかけてきた。

 その声が聞こえて余計に恥ずかしくなったオレの耳が、ますます赤みを帯びていく。

 

 どこかでカラスが鳴いていた……。

 

EASY 3

【漆黒の朝日】――

 人間と魔物が世界の覇権を競って争った、遙か昔の超大戦の通称である。

【漆黒の朝日】は、世界を混沌と闇が支配する大地に変えようと異世界から降臨した『108の魔王』と、それを統括する、俗に言う大魔王、正式名称――[滅びゆく悦楽の城塞・ヴィルヴァロッサ]を、光の勇者【ミシャルハ=ツァーグ】と、その他の皆さんが各地に[封印]することによって、事実上終結したことになっている――が。

[倒された]ではなく[封印された]というところからも理解るように、魔王達は滅んだワケではないのである。そのため、いつ復活するかもわからないような魔王達の存在に常に脅えながら人々は暮らさなくてはならなくなってしまったのである。

 このことから【漆黒の朝日】の勝者は、勇者様御一行ではなく『108の魔王』及び[ヴィルヴァロッサ]である、と唱える学者さんたちが少なくないのも、これまた事実なのである。

 ――ま、なんにせよ――

 それから幾多の歳月を重ねた今――

 各地に【漆黒の朝日】が真実であったことを、そしてそれが大地を揺るがすほど凄まじかったことを証明するかのように、いくつもの廃墟や奇形な地形が存在している大地。各地に点々と存在する街を取り囲む高い塀から一歩でも外に出れば【漆黒の朝日】の忘れ物とでも言うべき魔物の徘徊するそんな時代でも、人はその恐るべき環境適応能力を最大限に発揮して、そこに生活しているのである。

 何一つ、昔とかわらず……

 
2004-12-08 23:28:28公開 / 作者:流空パパ
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