『電話ごしにて』作者:時里 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.34枚
 数回のコール
 引き寄せた画面に映る名前は良く知った人のもの
 懐かしい音。懐かしい口調
 懐かしい口癖。懐かしい笑い声
 ベッドに寝転んでいるせいか体はほんわかと温かくなり
 かけふを胸に抱いて、穏やかなお喋りに興じる

「がんばってるんだなぁ」
「そうでもないって。先生に甘えてるだけ。ってか、絶対おまえのほうががんばってるよ。知らない人ばっかなんだろ?」
「そうでもない。小学校からのもちあがりのやつらも何人かいるし、何より日本語だし、授業」
「あ〜。英語の授業はちょっときついものがあるぞ」
「だって国語が英語なんだろ〜?」
「だからそうだってば。めんどくせ〜。数学の文章題まで英語だぞ?ありえないだろ」
「うわ、なにそれ」

 時々笑って
 時々眠くなって目をこすって
 いつのまにか時間が過ぎて
 お互いの声が頼りなくなってきた頃

「颯汰」
「ん?」
「がんばれよ」
「・・・・・・・」
「颯汰?」
「浅葱も、がんばって・・・」

 『がんばれ』
 ただその一言だけで涙が溢れる
 嗚咽にもならない。声にも影響しないほど微かな涙だけれど
 確かにその言葉は静かに静かに胸に染み込み、響きわたる

 お互いに泣いているなんてさとらせない
 だって恥ずかしいから。親友に対しての唯一の強がりだから
 会いたいよとも言わない
 それは自分だけの言葉ではないと知っているから。信じているから

「がんばってるよ」「がんばってる」

 そう伝えるだけでいいんだと思う
 いろんなことが辛いけど、体に篭ったぬくもりは次に話しができるまで心を暖め続けてくれるはずだから

 それでも涙は止まらない
 嬉しすぎて、安心しすぎて
 あの頃のようにお互いを励ましあっていた日々に戻ったように
 けれどそれはない。あの頃は嬉しくて泣くなんてこと、無かった
 心の成長のあかしだ

 そんなふうにぼくらは、あの、夢を見るだけだった日々に別れを告げなくてはならなかった
 離れ離れになって、大人にならなくてはならなかった

「がんばれよ」
「がんばって」

 お互いに相手が泣いているのは知らない
 けれど、確信を持つ
 あの子は泣いている。鏡といわれた僕等だからこちらが泣けばあちらも泣く。そういうふうになっているんだ

「颯汰」「浅葱」

 最後にいつでも声をそろえて
 指先でそっと頬を拭って

「「おやすみ」」

 そう言ってふたり同時にボタンを押す
 胸に残ったぬくもりをかけふと共に抱きしめて
 二人はしばし目を瞑る





『おやすみ!』
『浅葱、明日は公園いこーね』
『うん。ブーメランとかバドミントンとかやろう!』
『みんなさそって遊びにいこ!』
『そだね。じゃぁ、おやすみ!』
『おやすみ。僕が起こす前に起きてなきゃだめなんだからね』
『わかってるったら!』

 あの頃を思い出しながら

「あしたあそぼーよ」

 約束なんかしなくたってそれが当たり前だった日々はもう遠い遠い過去のこと
 
2004-11-22 17:41:23公開 / 作者:時里
■この作品の著作権は時里さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
私が書いている、とある連載の登場人物2人に登場してもらいました。
優しい言葉と雰囲気になるよう努力した短編です。
未熟な点を思ったとおりにバシバシ指摘して貰えると嬉しいです。
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして!千夏といいます!優しい雰囲気が出てて良かったですvv切ないところも個人的に好きでしたvvちょっと言わせてもらうと、少し二人の関係がわかりにくかったかなと思います。私が読解力ないだけかもしれませんが;でも雰囲気はホントとても好感が持てますvvでは!
2004-11-22 18:28:49【☆☆☆☆☆】千夏
はじめまして、ですね。卍丸と申します。読ませていただきました。雰囲気としては伝わってくるものがあるのですが、これを完結の短編として捉えた場合、最初の盛り上げどころである、「『がんばれ』〜 ただその一言だけで涙が溢れる・・・」が若干唐突に感じられてしまいました。そこに至るまでに、読者が登場人物に対してもっと感情移入できるほどの、準備段階としての文章をじっくりと描いて頂きたかったです。何と言いますか、中篇、長編作品の一部を抜粋した短編といった印象を受けてしまいました。しかし、ふわりと優しい文体自体には惹かれるものがあります。今後のご執筆もぜひぜひ頑張ってください。
2004-11-23 00:43:03【☆☆☆☆☆】卍丸
千夏さん、卍丸さん、感想、ご指摘ありがとうございます
確かにこの短編は長編の登場人物を引っ張り出していた物なので、前設定がないとキツイですよね。自分の中では完全に人物像が確定している子達なので、それに甘えすぎていたようです。自己満足だけでなく他者に読んでもらうということも意識しなければならないんだなァ、と痛感しました。……優しい雰囲気が伝わったことはとても嬉しいです。
2004-11-23 12:07:26【☆☆☆☆☆】時里
読ませていただきました。日常の一場面をそのまま切り取ってきた様な自然な印象がありました。独特の優しいタッチはとても良いと思います。確かに皆さんのおっしゃっているとおり、二人の友人の設定が曖昧な気がしました。敢て、その辺りをぼかす事も演出かとは思いますが、やはり、二人に対してもう少し説明があっても良かったのかなとは思います。頑張ってください。
2004-11-23 16:05:07【☆☆☆☆☆】オレンジ
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