『演劇 【読み切り】』作者:rathi / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角871文字
容量1742 bytes
原稿用紙約2.18枚
 私は三つ指をついて入ってきたお客様を出迎えます。
 「お帰りなさいませ、ご主人様」
 ご主人様、と呼ばれたお客様は大層に満足したような笑みを浮かべ、私を見つめます。
 「お風呂の致しますか? それとも……」
 その後の言葉は、お客様の口づけによって遮られました。お客様の舌がまるで触手のように私の口内に侵入し、粘液と粘液を交換しようとてきます。
 私は積極的にではなく、消極的に舌を絡ませます。まるでこの行為を恥じらう、淑女のように。
 「そんな…いきなりなんて困ります…」
 頬を赤らめ、視線を下に向けました。そんな私の仕草に興奮したお客様は、私を押し倒しました。
 私を蹂躙すべく、あちらこちらをまさぐり始めます。
 「ぁっ……!」
 胸を触られ、私は短い喘ぎ声を上げました。その喘ぎ声を恥じらうように、私は自分の口を手で押さえます。
 私は淑女。こんな事は『イケナイ』と思いながらも感じる自分を押さえることが出来ない、そんな淫らな淑女。行為の最中も、私は自分にそう何度も何度も言い聞かせます。
 それがお客様の望んだこと。ここに居るのは『私』ではなく、お客様が望んだ『人格』。お客様が理想としている女性像を私に宿らせ、演じる。
 四畳半にも満たない狭い部屋で行われる『ままごと』。それが私の仕事。私に与えられた役割。
 「夏芽……!」
 お客様は忙しなく私の身体をまさぐりながらも、喘ぐように『私の名前』を呼びました。
 「ご主人様……!」
 要望された名称を喘ぎながら呼び、お客様との行為も頂点を目指して走り出しました。
 
 ――そして、お客様と私はほぼ同時に頂点へ辿り着き、爆ぜました。
 
 時間を告げるベルが鳴り響き、お客様は名残惜しそうな顔をしながら服を着始めました。
 私は再び三つ指をつき、深々と御辞儀をします。
 「いってらっしゃいませ、ご主人様」
 最後まで演じきるのも私の役割。ここはお客様にとっての理想郷。最後の最後で崩してはならないのです――。



2004-09-30 19:33:02公開 / 作者:rathi
■この作品の著作権はrathiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、久しぶりです。
やや官能的に書いてみました。
つい先程突発的に書きたくなり、書いてしまいましたよ、これを。
……規約違反ではないですよね、これ?
本当に短いし、ちょっとヤバめな表現入ってるし…。

短編ホラーの方を期待していた方、今暫くお待ち下さい。
現在練っております故。

【近況報告】
長編ホラーで考えていたのが二つ程潰れてしまいました……。
アイデアは固まったんですが、如何せん知識不足でした。
生物学とか発生学とかその辺の知識は個人ではどうしようもなかったので、諦めました。
かなり残念。
ではでは〜
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。rathiさんのタッチとは思えない作風に、ちょっとビックリです(笑 官能的な描写が多用されておりますが、決して猥褻な表現ではなく、文学的な、上品な味わいさえ窺えますので、その点に関しては規約違反を気にせずとも大丈夫ではないでしょうか。rathiさんの作品だけに、最後になにかを仕掛けてくるのかと思いましたが、今作は直球でしたね。妖艶な揺れ方をする直球ですが(笑 少し短めで物足りない(もっと読みたい)という気もしますが、独特な妖しいムードは伝わってまいりました。この掌編の内容とタイトルを照らし合わせると、やはり巧いと感じてしまいますね。短編ホラー、めちゃめちゃ期待しておりますのでっ!!と言うか今作も、ハンドルネーム”rathi”を見た瞬間、きたーっ!!ホラーきたーっ!!と思ってしまいました(爆
2004-09-30 20:13:12【☆☆☆☆☆】卍丸
読ませていただきました。ストーリーは正直、寂しいかなと思いました。なにかどんでん返しがあるはず、なんて構えながら読んでいると、素直にエンディングへ。ちょっと虚をつかれたような気分になり、もしかして何もしないというギミックか?なんて思ったり(苦笑)。単純に文章としてみれば、たぶん必要な要素がこの短い文章の中に全部入っているんだろうな、と思い、改めて読むと無駄な文章の少なさに「おぉー」とうめいてみたり。洗練された文章は僕の勝手な期待通りでした。次回もすっごく期待しております。
2004-10-01 14:09:49【☆☆☆☆☆】ドンベ
卍丸さん、ドンペさん、ありがとうございます。卍丸さん>今回、ホラーでなくて申し訳ないです。次こそは短編ホラー(ご期待に添えるようなホラーかどうかと問われると、ちょっと疑問…)を載せますので、待ってて下さいな。ドンペさん>卍丸さん同様、やはり短いのがネックでしたかね? この作品のコンセプトとして、如何に短くストーリーを紡ぐ事が出来るか、というのがあったもので。  お二人ともお気づきかも知れませんが、これは、ある風俗嬢のお話です。イメージソングは「りんごの歌」(笑 よくよく考えてみたらピッタリでしたよ。風俗店は二十歳になったら行きましょう(笑 ちなみに、私は行ったことはありません。あしからず。 ではでは〜
2004-10-02 13:04:50【☆☆☆☆☆】rathi
うぅっ・・・すっきりしていて読みやすいうえにオチがまた・・・。さっき投稿した自分のショートと比較して・・・溜息しかこぼれません。ただ、「お客様」と「ご主人様」に分けたことでなんとなく読めてしまうような・・・。そこだけ残念でした。タイトルも出来たらオチが読めないようにして欲しかったです。では。
2004-10-03 02:43:20【☆☆☆☆☆】夢幻花 彩
 僕はこのお客様が最高に羨ましいです。
 それと言うのも、僕の場合、女性と対面した瞬間から、表情や仕草から現実感を垣間見てしまい、どうもその世界にのめり込めない。結局頂点に到達できずに終わってしまうのです。
 酷い時には、普通に雑談だけして出た事さえあります。
 なので、このお客さんが最高に羨ましいです。それだけ楽しんだのなら、きっと奉仕した方も達成感があるのだろうなと。最後に女性から謝られたりする僕には、このお客様は理想です。
 作品自体は、官能小説なんて部類に入らないくらい、さわやかだと思います。寧ろ全てがすんなり行き過ぎて、ファンタジーな感じがする。が、すんなり行き過ぎるが故に物足りなさがあるような気もします。それは、リアルに実在するものであるがゆえに、僕が何処かにリアリティーを求めてしまうからかも知れません。しかし、現実に実在するものでありながら、ファンタジーのような感覚を味わう小説として見れば、秀逸だと思います。これで完璧。現実の切り抜きだとしたら、物足りない感じがします。
2007-09-28 03:25:49【☆☆☆☆☆】石田 壮介
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。