『明日の敵は今日の友?』作者:ずっぽぱ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約29.32枚
―――守人、大丈夫? また怪我して。お母さんは心配で心配で。
―――大丈夫だよ! ちょっと練習に熱が入リ過ぎただけ。心配しないで。
―――ならいいのだけれど、本当に気を付けて、ね?
―――うん。わかってる。無茶はしないよ。

 一日目

「んぁ……」
 眠っていたらしい。気が付くと茶色っぽい白の天井が見えた。
「あら、やっと起きたのね。かれこれ三・四時間は寝ていたわよ」
「雪……。えっと、何があったんだっけ?」
 僕は寝ぼけた頭を最大限に回転させて、寝ぼけ眼でかろうじてとらえたその人物に事の次第を尋ねた。
「おう、なんだなんだ。だらしねえなあ。忘れちまうたぁ、困ったもんだぜ」
 尋ねた人物のいる方とは違う方向から返事が聞こえた。いや返事になって無い。
「あ……熊……」
 僕はその人物の、うっすらと見えるシルエットを見て、素直な感想をポロリと口に出してしまった。
―――まずかったかな?
 そう思った瞬間、その思いは当たった。頭に物凄い衝撃が走り、目が覚めた。寝ぼけていた頭が急速に回転し始めた。
「あ、ラウリーじゃん、それに雪も……」
 ああ、思い出した。僕の名前は山咲守人。で、この女の人は五月雨美雪。そして、この熊……じゃ、ないな。この人は……そうだラウリー・ラウドとかいう大先輩だ。それでえーと……。
「何で僕は寝ているのでしょうか?」
 二人は一瞬驚き、すぐに呆れたような顔になった。
「草の毒にやられたのよ。全く、忠告も聞かないでずかずか森に入っていくんだもの……。でもこれじゃあ、学習してなさそうね」
「全くだ。見知らぬ土地に予備知識もなしに突っ込む奴があるか」
「あら、あなただって、守人を追っかけてすぐ森に入っていってわよ。わたしの話を聞かずにね」
「そうだったっけか?」
「そうでしたよ」
 二人の掛け合いを見て、笑ってしまった。色々と、霧が晴れるように記憶が戻ってくる。
 そうだ、僕は「護国戦隊」と言う名前そのまんまの組織に入って、ここにいる人たちのチームに入ったんだ。一番最初の仕事で失敗しちゃったのか。新人は一年の基礎トレと勉強を経て、初めて隊に配属される。情けないなぁ。戦隊の本拠地を「ホーム」と呼ぶのも教わったな。
 そしてここに居る二人の事も思い出した。
 五月雨美雪―――僕は雪と呼んでいる。は、確か二十三歳くらいの面倒見の良い、お姉さんの様な、お母さんの様な人で、長い黒髪がきれいで、いつもつい見入ってしまう。―――確か、何か拳法みたいなのが強くて色々と叩き込まれた。
 ラウリー・ラウドは、体も大きく心も大きい、と言うと聞こえがいいが、実際は大ざっぱな性格だ。色々質問とかされたとき、「よい、よい」と了承してしまう。―――ラウリーはやたら長い棍棒を使って戦っていたな。よくあんな思い棒を振り回せるものだといつも感心する。ホームではほとんどいつも酒を飲んでいるのに。
「守人、食堂へ行きましょう。そろそろ晩ご飯よ」
 随分長い間考え込んでいたらしい、晩ご飯の時間になっていた。たしか七時だ。
「ねえ、僕って何歳だっけ?」
「十六よ。それくらい憶えていてもらいたいわ」
 会話を交わしているうちに、食堂へ着いた。ラウリーは既に二人前ほど食べていた。ご飯を食べて、一日は終わりへ向かう。各人、部屋へ戻り、思い思いに就寝時間までの時を過ごす。


 二日目・朝

 今日、また夢を見た。お母さんが僕を見て、何か言ってる。聞こえない。なぜ?……お母さん?なぜ僕は、この女性をお母さんだと思ったのだろう。顔を知らないはずなのに。
 僕の家は、お母さんと、お父さんの三人家族だった。お母さんは、僕を産んですぐ病気で死んじゃったんだ。お父さんは、「お前のせいで」が口癖だった。僕が何をしたというの?それとも、僕が知らないだけなの?何も、分からない。でも、お父さんは、僕が何も知らない事を知らない。きっと、自分の母親を殺したくせにのうのうと生きてるくそガキ、位のことを考えていたのかもしれない。何も、分からないけど。そう、僕は何も知らない。お母さんのことも、お父さんのことも。何も。
「守人、起きてっかぁ?」
 ドアをノックする音がほとんど聞こえなくなる位の大きな声がドアの向こう側から聞こえてきた。まあ、そのおかげで嫌な夢から覚める事が出来た。声の主はラウリーだ。
「なんですかぁ、こんな朝早くから」
 と言ってももう八時半だ。普通なら起きて活動を始めている時間だ。
「なんですかって、お前。今日は九時から雪んとこで勉強会開くって、昨日言ったろうが。忘れちまったのか?」
―――勉強会?……思い出した。僕があまりにも隊やホームの事を分かってないからって、雪が提案したんだ。行かないと。大変な事になってしまう。
「はい。今行きます。あ、でも朝ごはん食べてないです。どうしましょう」
「飯なら俺が残りもんをもらってきてやったよ。早く着替えて雪ん部屋に来いよ」
 そう言って、ラウリーは去っていった。僕はちゃっちゃと着替えを済ませて雪の部屋へ走った。ホームの各隊員の部屋は間隔が結構広い。音楽とかが隣の部屋に聞こえて、眠れない、とかでけんかにならないようにするためだ。移動が大変だと言う意見は「これも特訓だ」ということで聞き入れられなかった。
「すいません。遅れました」
 息を切らせて入って来た僕に、雪は多少驚いたようだが、すぐに真顔に戻り「全く、先が思いやられるわね」と、言ってプリントやら写真やらを配り始めた。と言っても、受講者(?)は僕とラウリーしかいなかった。そのことを言うと、「あなた達のために開くんですもの。余計なのはいらないわ」とさらりと言ってのけた。
 こうして三人だけの勉強会が始まった。僕はついていけるだろうか……。
「そういえばラウリー、ご飯は?」
 僕は思い出して聞いた。ただでさえお腹が空いているというのに、走ってきたのでそろそろ危険だ。
「おお、そうだったな。ほれ」
 そう言ってラウリーは何処に付いていたのか、上着のポケットからビニール袋を取り出した。袋の中にはパンの耳がどっちゃりと入っていた。
―――まあ、無いよりましか。
「すぐ食べ終わりますんで、ちょっと失礼します」
 そう言って、急いでパンの耳を口に入れていく。砂糖がかかっていて結構おいしい。心の中で、食堂の係りの人にお礼を言った。
「そういえばよ。なんで俺は雪と向き合って座ってんだ?」
 確かに、雪が前に立ち、僕とラウリーが、雪と向かい合う形で座っている。
「決まってるでしょ。あなたも教わる側なのよ、ラウリー」
「なっ」
 ラウリーは詰まったような声を出した。
「俺はてっきり教える側かと……一体どういうことだよ」
 怒鳴るような、諦めているような、よく分からない喋り方で言った。
「あなただって、結構抜けている所があるのよ。自分じゃ気が付きにくいけど、周りから見ればよく分かるわ。お酒を飲んだり、ご飯を二人前食べたり。敵の奇襲に対する警戒心が欠けているわ」
 雪が「それに……」と続けようとすると、「分かったよ……」と言って、静かに座った。その間に僕は朝ごはんを済ませた。
「それでは、まずこのホームについて……」
 雪が壁掛けの地図を棒で指しながら説明を始める。長くなりそうだ。
 
 二日目・昼

「やっと……終わった……」
 長かった。もうお昼になってしまった。何か言われそうになったのでノートを見返す。
・ホームのイロハ
 ・設立 一九**年(護国戦隊結成の十年後)
 ・創始者 大神猛彦(現在その孫が入隊中)
 ・広さ トウキョウドーム10個分(位だと思う)
 ・人数 隊員数二〇〇〇人 その他補助員一〇〇〇人(一九*+年現在)
 ・一年で来る仕事の量 一チームあたり約一〇〇件(平均・一九*+年)
 この後も色々言っていたが、ノートをとる暇が無かった。雪はあんまり教えるのは上手くないようだ。ラウリーは眠ってしまっている。

「さて、続きを……」
 雪が話し始めようとした時、ドアをノックされた。そして、「失礼するよ」と男の人が入って来た。スーツをピシッと着こなしている。
「大神さん、どうしました?」
 この人が大神……創始者殿の子孫ってことか。
「いや、ちょっとそこの坊やに用があってね。借りていいかい?」
「坊やって、もう十六なんですけど」
 少し、語尾を強めて、怒りを表現したつもりだ。
「用があるのは僕じゃなくて……入りなよ」
 大神サンの後ろから男の子が一人出てきた。よく顔が見えなかったが、大神サンが横にずれると、見覚えのある顔が現れた。
「彰……!」
 出てきたのは、護国戦隊入隊前からの親友である「白斗彰」であった。
 彰は軽くお辞儀をして、僕の方を向いて話し出した。
「えと……ちょっと大事な話があるから、来てくれない?すぐ終わるから」
 よほど深刻な事なのか、彰の顔は、いつになく真剣そのものだった。
「じゃあ、ちょっと出てきていいですかね?」
「まあ、行ってらっしゃいよ。大事な友達なんでしょ」
 僕は「ありがとう」とだけ言って、部屋を出た。「俺を一人にするのか?」と聞こえたが、いや、聞こえなかった事にしよう。うん。
「そういえばさ、さっきのお兄サンはどういった経緯で一緒に?」
 少し気になっていたので、思い切って聞いてみた。彰は初対面の人とすぐ仲良くなれるタイプじゃなかったはずだけど……
「ああ、猛流さん?ドアの前でもじもじしてたら会っちゃってね。ドア、ノックしてもらったんだ」
 おおがみ・たけると言うらしい。彰はちょっと赤くなっていた。
「猛流さんはすごい人だよ。僕も、入隊当時は「期待の天才」なんて言われてたことがあったけど、僕が天才なら、猛流さんは超天才さ。文武両道だし……」
 彰はいつになく、他人をほめている。ちょっとなんか、煮え切らないというか……
「にしてもさ、守人はすごいよ。配属されて、まだ二・三週間なのにもう先輩と仲良くなってるなんて。僕んとこなんか、すっごいムード悪くてさ。息詰まっちゃいそうで、気軽に話し掛けられないよ」
「んー、僕んとこは先輩が親しみやすいタイプなんだと思うよ。面白いっていうか、こう、一緒に居てすごい楽しいんだ」
 つい話が逸れてしまう。早く戻りたかったので、僕は話を戻した。
「それで、大事な話って言うのは……何?」
 彰の顔から笑みが消えた。僕は、話を戻した事を一瞬後悔した。
「言っておこうと思って……最近僕、変なんだ。気が付くと、剣を握っているんだ。あと、下の階に行こうと思ったのに、いつの間にか屋上のドアの前にいたり。自分が、自分の知らない所で、違う活動をしてるんだ。二重人格って奴なのかなあ、よく知らないけど。そうなら、裏の自分に負けてるんだよね。それとも守人と話してる今の僕が、裏なのかな。分かんないよ、何にも」
「彰……」
 こんなに落ち込んでいる彰は初めてだ。何て声かけたらいいんだか分からない。こんな気持ちは、ケンカした時だけだったのに。本気で、悩んでいるんだろう。彰の気持ちは、彰自身にしか分からない。いくら僕が、親友だからと言って、人の心まで、完璧に理解するなんて、できっこない。
 僕が黙ってしまうと、彰は申し訳なさそうに、
「じゃ、じゃあ僕は、これで。ありがとう、話を聞いてくれて。大分楽になったよ。こういう事話せるのは守人だけだから……」
 そう言って、走り去っていった。僕は彰の背中に向かって叫んだ。
「僕は、今、この時の彰が好きだぞ!」
「ありがとう」
小さく、しかしはっきりと、そう聞こえた。なんだか、とても寂しい気持ちになった。明日は、世界が闇に包まれるのではと、本気で考えてしまった。「ふっ」と、笑いとも、ため息とも取れる声を出して、僕は雪の部屋へと戻るため、歩を進めた。

「ただい……」
 目の前の光景に、言葉を続けることが出来なかった。雪とラウリーが床に倒れ、二人の脇には大神猛流がたたずんでいた。雪とラウリーは、必死に立ち上がろうとするが、体に力が入らないのか、ガクッとまたうつぶせになってしまう。そんな二人に冷たい視線を送っている大神サンはかなり恐ろしく見えた。
「な……何が……何したんですか、二人に」
 僕は恐る恐る大神サンを問いただした。もし、何らかの理由で戦い、二人が負けたのであれば、自分にかなう相手じゃ到底無い。
「やあ、お帰り。早かったじゃないか。もう少し、引き付けておいても良かったのに……」
「え……?」
 何を言ってるんだ?彰が僕を部屋から連れ出したのは、大神サンが二人と戦うため?そんな、彰はそんな事する奴じゃない。
 しかし、その時、彰がやけに大神サンをほめていた事を思い出した。この二人はどこかで繋がっているのか?しかし、なにも理由は無いし……
「いくよ……」
 あれこれ考えているうちに、大神サンが攻撃してきた。何故!?
「うわあ」
 紙一重で何とか拳をかわした。が、大神サンは右足で踏み込んで拳を振っていた。そして、右足を軸にして左足の回転蹴りが見事に僕の腹に入った。
「が……あ……」
 僕は全く力を入れていなかった腹への一撃に、目を白黒させて倒れ、腹を抑えた。
「かぁ……はあ、はあ……くそお」
 立ち上がろうと腹に力を入れると、激しい痛みが走り立つ事が出来ない。そして、大神サンの姿を見上げながら、僕は、気絶した。

 二日目・夜

 三人が目を覚ました時、既に夜になっていた。なんとも言えない沈黙が続いている……
「一体……なんだって言うんだよ」
 ラウリーが八つ当たり気味に言った。皆、同じ気持ちだ。
「やっぱり、夢じゃなかったんだ。夢なら良かったのに」
 僕は未だに残っている腹の一撃の感触が気になってつい押さえてしまう。
「お腹、痛いの?蹴られたでしょ?」
「見てた?」
「……すぐ気絶しちゃったけどね」
「そう……」
 会話が続かない。英語で言うとyesとかnoだけの返答。また沈黙が続く……かに思われた。しかし、ラウリーの一言が沈黙を破り、僕らを立ち直させる事となる。
「……よし、飯でも食いに行くか。パーッと行こうぜ、パーッとよぅ」
「……」
「いつまでもうじうじしてても先には進めねえ。明日、一番に友達んとこにつっこんで、胸倉掴んで聞きゃあいい。後は強くなって大神の野郎を地面にへばりつかせてやるんだ。そうだろ!?」
「すごいね。ラウリーは。へっちゃらなの?あんな負け方して。お気楽熊さんはいいね」
 もう、自分が何言ってるのか分からなかった。半分は八つ当たりだった。僕も混乱してる。しかし、右の頬に衝撃が走った事で、正気に戻された。
「バカ。本気で言ってる?一対一で負けたあなたよりも、二対一で負けたラウリーの方が何倍も苦しいの。あなたよりも力も強いし場数もこなしてきた。あなたみたいな新米が……!!」
 またしても沈黙が流れた。さっきよりも何倍も重い。雪がこんなに怒鳴るなんて、そうとう傷は深い。
「ごめん……二人とも。ちょっと、甘えてた。二人は優しいから、色々、気軽に話せて、心にも、無い事も……」
 僕はそう言って立ち上がり、ウーンと背伸びをした。
「ご飯、食べに行こう。明日のために、勝つために力を付けなきゃ。ね」
「……そうね、行きましょうか。出遅れても、困るのはわたし達ですもの。早く、前に進まないとね」
「なんだよ、結局守人が締めやがって。言い出しっぺは俺だっての!俺に感謝しなさい!」
 二人にも元気が戻った。良かった。
「おい、早くしねえと食堂閉まっちまうぞ」
「えっ……」
 時計を見ると、確かにもう八時になろうとしている。ここの食堂は八時までにメニューを言わないとご飯を食べさせてもらえなくなる。
「そんな長い時間、あの部屋にいたのね」
「でも、結構意味のある時間だったよね」
「ああ」
 僕ら三人は食堂までの廊下を競走した。僕がビリだった。

 なんとか滑り込みセーフでご飯を食べる事が出来た。係りの人は嫌そうな顔をしていたけど、この際、気にしない。この時はやけにうれしい気持ちで一杯だった。
 ご飯を食べ終え、「じゃあ」と言ってそれぞれの部屋に入った。皆、笑顔だ。僕は込み上げるうれしさに、眠れるか心配だったけど、いざ布団に入ると、スーッと眠りに落ちてしまった。疲れているんだなあ……朦朧とする意識の中で、そう思った。

 そして、三日目に事件は起こる……



 三日目

―――どうしたの?なんで泣いてるの?言ってくれなきゃ分からないでしょ?
―――友達がね、友達をいぢめてたの。でもね、やめてって、言えなかった。嫌われたら嫌だったから。ねえ、僕って悪い子なの?
―――……できれば、やめてって言って欲しかったかな。悪い事してるのを止めてあげるのが、本当の友達なのよ。たとえ、相手に嫌われても、いえ、嫌われることを怖がっちゃダメ。友達を助けようって、本気で想わなきゃ……

「うん……頑張る……って夢かあ。寝言言っちゃったよ」
 最近母さんの夢を見るなあ。何でだろ。
「たっ大変ですっ。山咲さーん!!」
 大きな声と共に、ドアが勢い良く吹っ飛んだ。まさかドアを破ってくるとはラウリーも過激になって……あれ?
「ラウリーじゃ無い……だれ?」
「えっと、はい!自分は護国戦隊伝達・諜報部隊所属、疾風麻耶と言います。以後、お見知りおきを」
「ああ……はい」
 いきなり漢字がいっぱい出てきたので、理解に時間がかかった。えーと。
「あ!用件を言わなければいけませんね。いやあ自分はいつも肝心な所をスパッと忘れちゃうんですよ。小学校の時なんか忘れ物ナンバーワンでして、ランドセルを忘れた事もあります。いやあお恥ずかしい。あ、用件ですけどね、白斗彰がですね、隊員十名を殺傷し逃亡しました。あなたには白斗を追ってもらいます。現在は西の方角にあります、二番街にいるとの情報が……聞いてます?」
―――は?何言ってんだよ、彰が十人殺傷して逃げてる?んな事ありえねえって。情報がちゃんと伝わってないんじゃないの?冗談もほどほどにしてくれよ。
「いえ、紛れもない事実でございます。白斗彰は隊員十名を殺傷して二番街に潜伏中です。お気を確かに。聞こえてますか?」
 心を読まれたのか、口に出していたのか、聞きたくないことをさらりと言われて、僕は混乱状態になりかけた。しかし、これはやはり、事実なのか。
「……聞こえ……てる……よ」
 やっと絞り出した一言だった。まさか、本当に?あの彰がか?あいつだぞ、昨日話した。そんな素振りは全然……
「まさか……!!」
「ええ、そのまさかで……と言いますと?」
 僕はこの諜報員の言葉を無視して雪とラウリーの部屋へ行った。雪の部屋に行くとラウリーも一緒にいた。話は伝わっているらしく、悲しそうな目で僕を見ている。
「守人……」
 沈黙が続いた。この沈黙が一生続いて、今起きていることが終わってしまえと、僕は願った。が、その沈黙を破るかのように、誰かが部屋に入って来た。大神だった。三人は無意識に大神を睨んだようだ。大神が驚いたような顔で言った。
「おいおい、そんな怖い顔するなよ……山咲守人。君には白斗彰を追ってもらう。いいね?」
「おいっ親友に追わせる気かよ。それに、守人じゃあ奴に敵うかどうか、危険だろ」
 ラウリーは怒鳴るように言った。僕と彰はそんなに実力に差があるのか……
「分かっているさ。だけど、友達を止めてやるのが本当の友達……そうだろう?君のお母さんも言ってるだろう」
「……そう……だよな。僕が行かなきゃ。他の奴になんか、彰は傷つけさせない」
「守人……本気なんだな。後悔するなよ」
「……うん。言ってくる」

 僕はそう言って、勢い良く部屋を飛び出した。待ってろ、彰。僕がお前を止めてやる!

 勢い良く飛び出したものの、二番街まではかなり遠い。
「どうしよ……」
 その時、不意に外を見ると、ラウリーと雪と、疾風がいた。
「車はあります。運転はラウリーさんが、ナビは私と美雪さんがいたします。お乗り下さい。急ぎ、二番街へ急行します。おっと、くどかったですね」
「いくぜ。早く乗れ」
「行きましょう」
「……ありがとう」
 僕は車に飛び乗った。なぜ、この二人はこんなにも優しいのだろう。なぜ、こんなにも、暖かい気持ちになるのだろう。今は答えを出さず、快感に浸ろう。
「守人、これ、戦う時は使いなさい」
 渡されたのは、大きな箱。開けると、中には石の甲が入っていた。指貫で、手首までしっかりと覆われ、手首から、肩の辺りまで石が伸びている。大きさの割りに重くなくて、使いやすそうだ。
「ありがとう」
 僕は、この言葉を、一体何度口にしただろうか。でも、本心であることには変わりない。

 二番街に到着した。街は活気に溢れ、まさか犯罪者が潜んでいるなどとは微塵も感じていないだろう。ここには居ないんじゃないの?と思った時、疾風が叫んだ。
「皆さん、今、この街には護国戦隊より脱走した、非常に危険な人間が隠れ潜んでおります。しばらくの間、この街より撤退して下さい。皆さんの安全のための、最良の行為でございます。どうか、お早くお逃げください」
 言い終わらないうちに、何人もの人が慌てふためき走り抜けていく。意外と信用されてるんだなあ。
「で、これから探すわけ?この広い二番街を?」
 確かに、そうなると随分時間がかかる。二番街はこの地域にある十の街の中で、三番目に大きい街だ。たった四人では日が暮れてしまう。
「その必要はございません。目標には既に印が打たれていますので」
「印?発信機か何かか?」
「ええ、この機械のスイッチを入れますと、目標の位置を衛星が探し出して、地図が表示されます。それを頼りにすれば直ぐに見つかるでしょう。では」
 そう言った後、疾風は取り出していた四角い箱の赤いボタンを押した。一分ほどして、小さな画面に地図が映り、ある一点が光っている。この点の場所に彰は居るらしい。僕らは歩き始めた。
「どうやら、まだ街の中に居るようですね」
「あれだけ叫んだのにねえ」
「そろそろです。近くにいますよ。気を付けて……」
 その時、疾風が消えた。いや、吹っ飛んだのだ。そして、疾風の居た場所には、一人の少年。
「彰……!」
「よう……」
 かすかに、笑っている。

「やっと会えたな。と言っても、二十四時間たってねえか。守人ぉ、俺はなあ、お前が羨ましかったよ。突出した才能は無かったが、環境に恵まれていた。良い親・良い師・良い先輩。俺は……」
「お……俺?」
 口調が変わってる。彰は自分のことを「僕」といっていたはずだ。今は俺と言っている。どうしたんだ?何があったんだ。
「俺は……最悪だったよ。親はたいして世話しねえくせに、いっちょ前に説教しやがる。戦いだって独学さ。先輩も雑用を押し付けるばっかで、何の指導もしやがらねえ。なのにいちいち先輩ぶりやがって、うぜえんだよ。正直、さっきは羨ましいって言ったけどよ、ホントは憎いんだよ。恵まれてるお前が。大神サンに頼んでお前ら三人の中を悪くしてやろうと思ったのによお。結局仲良くなりやがる。ムカツクね。何やっても壊れないユージョーてのはさ。壊したくなる……そうか、壊せばいいんだよこの手で。二度と戻らないように……壊しとくか、「本体」を……」
「なっ……」
 話を聞いていたのと、憎まれてると知ったショックから、とっさに反応出来なかった。彰はすばやく、無駄の無い動作で雪とラウリーを吹っ飛ばした。人間はどうしたらこんなに吹っ飛ぶんだ!?くそ……
「あぐ……」
「きゃあ……」
 吹っ飛んだ二人は気絶した。様子を見ても、命に問題はなさそうだ。良かった。しかし、僕はそうでもないようだ。彰の動きから見て、最初から狙いは僕で、邪魔な三人をどかした。という感じだ。一番嫌いなやり方だ。目的が僕なら最初から僕だけ誘えばいいものを……段々怒りが込み上げてきた。
「さあ、邪魔者は居なくなったぜ。戦おう、守人。それとも、戦わずして俺に消されるか……?戦う気が起きないのなら、先に他の三人を一人ずつ消してくぜ」
「!!……戦うさ。お前は許さない。俺がここで止める!!」
 俺は、切れた。

 俺は雪にもらった石の甲をはめた。少し強くなった気がする。
「はっ。んなモン付けたって何も変わりゃしねーよ……いくぜ」
 彰はとてつもなく速い動きで俺の後ろに回った。手には刀を持っている。切れ味抜群の、名刀・琥鉄(らしい)だ。日本刀は、刃物の中でも突出した完成度を誇るらしいから、油断は出来ない……
「はっ……!!」
 彰が刀を振る。俺はぎりぎりで刀を甲でうける。ガキッという嫌な音が響く。刀を止めたはいいが、今度は力で押し負けそうだ。この細身のどこにこんな力が隠されているんだ……!?
「ちっ……く、しょおおおおりゃあああ」
 力を振り絞って押し返す。彰は軽くバランスを崩し、「おっと」と声を上げた。その隙に、俺は彰の肩に向かって拳を振りぬいた。俺は右肩を狙ったのだが、読まれていたらしく、拳は彰の左手で拳を受け止められ、そのまま腕を伸ばすようにして、引っ張られた。俺の体が、彰の体と交差する。
「なかなか、良かったぜ。でもまだまだ、だぜ」
 俺の体が、彰の体とすれ違う瞬間、彰はそう言った。この言葉を聞いた一瞬後、彰の拳が俺の腹に入った。俺は気を失い欠けたがなんとか持ちこたえた。しかし、俺は右手で腹を押さえ、左手は上手く力が入らずだらんとしている。目も虚ろになってきて、口からは少量の血とよだれが混ざったものが流れ出てきた。よく吐かなかったなあ、とバカなことを考えてしまった。一発がこんなに重いなんて……
「どうしたあ。もうギブアップか?降参するなら今のうちだぜ」
「ざけんな。お前は……俺が……ここに寝かせてやるよ」
 朦朧とする頭でようやく思いついた「強がり」であった。さて、どうしたものか。真正面から行ったのでは、到底勝ち目は無い。この場所と、技を使って、なんとか隙を作らなくてはいけない。何か、いい方法は無いものか……
「ボケッとしてんじゃねえぞ」
「うおっ」
 彰の刀が、俺に向かってくる。紙一重でかわし、体制を立て直す。しかし、彰の攻撃はもちろんの事、収まらない。
「おらおら、逃げてるだけじゃ俺は寝かせられねえぞ。それとも疲れて寝るとでも思ってんのか。あん?」
「そんな事……思ってるわけ……ない……だろ!!」
 攻撃をかわし、一発入った。しかし、浅かったらしく、大したダメージは与えられてなさそうだ。本当に、どうすれば……万事休す。早いよ、と自分で突っ込んだ。

「浅い!!」
 彰が叫んだかと思うと、胸倉を掴まれ、持ち上げられた。
「お前、こんなに軽かったっけなあ?……クク」
 彰は不気味な笑みを見せ、俺を投げ飛ばした。それと同時に、走りこみ、刀をこちらに向ける。……刺される……!!
「ぬおあ」
 地面に手をつき、それを軸にして体を回す。そして何とか地に足をつけ、彰に突っ込んでいく。一瞬、彰の動きが鈍った。まさか俺が、こんな動きをするとは考えてなかったのだろう。その一瞬の間に、こちらに向いている刀より下(つまり彰の腰より下のあたり)に入り、刀を封じた。そして、渾身の力で腹に一撃を入れた。
「があっ……」
 予想外の場所に、予想外の衝撃を受け、彰は後ずさり、腹をおさえて屈み込んだ。
「はっ、はっ……ぐ……くそォ」
 彰の目に、確かに憎しみを見た。本気なのだ。今更ながら、確信した。少し叩けば元に戻ると考えていたが、甘かった。本気なのだ。彰は本気で、俺や、雪や、ラウリーや、疾風を、もしかしたら関係のない人達までも殺してしまうかもしれない。それだけは、阻止しなければいけない。彰は、俺が命に代えても、ここで止めなくてはいけない。改めて、この意思を心に刻み込んだ。
2004-10-08 23:09:02公開 / 作者:ずっぽぱ
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