『ファンタジー・サークル VOL.8』作者:青井 空加羅 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約11.22枚
 『エレクトリック・ショック』
「あっ!しっしまったぁあああ〜〜」
「・・・あらら」
『ふふ・・・。口ほどでもないわね。』

テレサの顔に満面の笑みが浮かぶ。

『ファイア・ボール』

HP0。

突然政子の姿が電波の悪いTVのように乱れ始める。

「政子さん!!」

政子はやはり冷静だった。

「大丈夫。きっと倒せるわ。じゃ、がんばっ・・・」

台詞の途中で政子の姿がぷつっと切れた。

『ふふっ。一人は片付けたわ。さてと・・・』


バキッ。


言い終わる前に自由の戻った美久のはなったこぶしがテレサに直撃した。

『いったいわね!お前、いちいち急すぎんだよ!』

テレサは頭を抑えながら悪態ついた。

「何言ってんのよ!あんたのせいで、大魔王に会ってもないのに一人になっちゃったじゃない!」
『お前もすぐにあの世に送ってやるよ!エレクトリック・ショック』


「〜〜〜ずるい〜〜〜。同じ手を何度も使うなんて〜〜〜」
『でも反撃できないんだろう?』

テレサの顔には勝利の予感が色濃く出ていた。
テレサは美久を思い切り蹴飛ばした。
吹っ飛んだ美久はそのまま破壊されかけていた数件の壁を突き抜ける。

HP3500。

「あ、だだだ・・・。やっやばい・・・。冴木くん助けなきゃいけないのに」
『お前には無理だ』

美久はテレサを睨みつけた。

「そんなことないわよ」

反発の声は思わぬ方向から来た。
二人の顔に驚愕の色がありありと出る。
美久は口をあけたまま、

「・・・政子さん・・・?」

政子はにっこりと笑って、

「そこ、セーブ・クリスタル。ロードしてきちゃった」
『くっくそっ。場所が悪かったか!ここは一旦戻るしか・・・』



ズドーーーンッ。



テレサの腹に風穴が開く。

『その必要はないよ。君をオクト・パースラの元に返す気はない』

政子が驚きの声を上げる。

「あ・・・あなたは・・・」

細身の長身に茶色のゆるいウェーブのかかった髪を一つに縛り、リボルバーを手に持った男は政子と美久に向かいにこりとお得意の口説きスマイルを振り撒いた。

テレサはどさりと倒れる。

『このまま・・・終わらせるものか・・・』

そうつぶやいて消えると同時にセーブ・ポイントも消えた。

「やられたわね・・・。ロードできなくさせるなんて」

政子がつぶやいた。

『僕もオクト・パースラを倒すのを手伝うつもりだからロードする必要はないよ』
「でも、貴方に会うなんて意外だわ。心強いけど。ハーティン・スロットさん」
『おやぁ?僕の名前を知っているのかい?』

男はおどけて見せた。
二人のやり取りを美久はわけもわからず見つめていた。

政子は腕を組みながら、

「やっぱり、相当世界が変わってるわね・・・ハーティン・スロットが自らこんなところに来るなんて・・・」
『ん、もしかして・・・』

男はポンッと手をたたいて、

『お二方がこの世界を作った人たち?それともプレイヤー?ま、どっちでもいいや。僕の事は気安くハーティンと呼んでよ』

ハーティンはにこりと微笑むとコートの内ポケットから一輪のバラを出し、美久の前でひざまづいた。

『美しいお嬢さん。一目君を見たときから僕の心は君の虜さ。ぜひ名前を聞かせてくれませんか?』

ハーティンの笑顔がきらりと光る。

「まっ政子さん・・・。この人っていったい・・・?」

美久が政子に救いを求めた。
政子はくすくすと笑っていたが、

「その人はハーティン・スロット。このファンタジー・サークルの隠しキャラよ。本当はいろいろイベントを起こしてやっと出てくる人なんだけど、オクト・パースラが世界をいじくってハーティンが自ら動き出すようになっちゃったのね」

ハーティンは美久の方を悲しそうに見て、もちろん本心からではないが、

『ひど〜い。お嬢さん。僕の事は僕に聞いてよ。大サービスしちゃうからさ、ね?』

美久は思い切り顔を引きつらせながら、

「えっと・・・じゃあハーティンは何でここにきたの?」
『君たちに会いに来たのさ。目的は知ってたしね』

そういって軽くウィンクすると美久の腕を引き、肩頬に軽く唇を押し当てた。

「〜〜〜〜〜!?」

美久は真っ赤になり頬を押さえた。

『大サービスだよん』

ハーティンは美久の繰り出すこぶしを避けながら言った。

「ハーティン、悪いけど美久さんには彼氏がいるのよ」

政子が冷たく言い放った。

『へぇ、美久ちゃんっていうんだ〜』

美久は政子を睨んだが政子は気づかないふりをした。
 その後、ハーティンの話から、ある時突然自分が今まで以上に物が考えられるようになった事。今までエルクとにらみ合いを続けてきた大魔王が突然人間を相手にいろいろ画策を始めたことがわかった。

「でも、街の人たちってちょっとハーティンとは違うよね。話しかけても同じ事しか言わないし・・・」

その質問に政子が答えた。

「ある一定以上、物語に深く関わる人達だけ先ずはそうなった、と考えるのが妥当なところよね・・・私もにわかには信じがたいけど・・・」
「・・・ハーティンを大魔王が操っているってことは考えられないんですか?」

ハーティンは目を丸くした。

『そんなっ!美久ちゃん・・・ひっどーい』

泣きついてこようとするハーティンを美久が押しのけるのを見ながら政子が言った。

「でも、ハーティンとして私たちの前に現われても彼にメリットはないわ。それにハーティンを操っているのだとしたらすぐにオクト・パースラここに来て私達を倒せばいいのだし。テレサを倒すなんて可笑しいでしょう?」
「うん・・・」

美久は考え込んだ。

「つまり、ハーティンが私たちのところへ来るのは彼にとって百害あって一利なし。ハーティンが来たのは彼にとって予想外ってことになるわ」
「・・・つまり、大魔王にとっても予想外のところで自分のように意思を持ったものがぽんぽん出てきちゃったって事ですか?」

政子はうなづいた。

「確かな確証のある説ではないのだけど、美久さんカオス理論って知ってる?」

美久は首を振った。

「聞いたことはあるけど・・・」
「因果関係に似てるのだけれども、簡単に言うと、何か一つの事が起こると、水滴が落ちたみたいに周りに波動が伝わって様々な事が予測不可能に起こるのよ。例えば、アフリカで蝶が飛べば日本では雨が降るとかね」
「ほ、本当ですか?」

政子は首をかしげた。

「でも彼がここに来たのはそのいい証拠かもね。」

ハーティンが不満の声を漏らした。

『僕は自分の意思でここに来たんだよ〜?根拠なんて僕の中にしかないよ〜』

ハーティンはいまいち自分の発言を信じてもらえていないようだったが、

『ところで後二方は何処へ行くの?これから、直行?』

美久は政子の方を見た。

「そうね。ハーティンもいることだしこのまま直行しましょうか。でも、ラスト・ダンジョンの様子も伺いたいから一歩手前の街に行きましょう?どう?」

美久は頷いた。
この男にはもともと反論する理由はない。二人についていくのが目的だからである。

「でも、ハーティンって何で大魔王と戦うの?」

美久はハーティンにたずねた。

「ちょっとした借りがあってね・・・」
「・・・」

ハーティンは美久の視線に気がついた。

「何?美久ちゃん」

美久はハーティンを凝視したまま、

「いや・・・真面目な顔したハーティンはじめてみたから・・・」

ハーティンはふふっと笑いを漏らした。





     第6章    最後の街

 政子が持ってきた乗り物、スピード・ジェットで一気にラスト・ダンジョン前「最後の街」にたどり着いた三人はそこで驚くべきものを見た。
一日中日の当たらない街。
焦げ臭い臭いと死臭が鼻を突く。

「政子さん。これもプログラムですか?」

美久は鼻をおさえた。

「いいえ。ここはのどかな街だったはずよ・・・。オクト・パースラに襲われたのね・・・」

『お姉ちゃん・・・』

美久は突然腕を引っ張られた。
振り返ると5・6歳くらいの幼い女の子がすすだらけで泣きながら美久の袖を引っ張っていた。

「なっなに?」

美久はかがんで女の子のすすを取る。
すすをとると愛らしい大きな瞳が顔をのぞかせた。

『向こうの・・・噴水で女の子があなたたちを待ってる・・・。行ってあげて・・・』
「その女の子は誰?」
『向こうの・・・噴水で女の子が・・・』

何度聞いてもその繰り返しだった。

「罠かもね」

政子が言い切った。

『女の子・・・?』

美久はハーティンを見てびっくりした。

「ハーティン?どうしたの?怖い顔して・・・」
『まさか・・・』

ハーティンは墳水の方へ走り出した。

「ハーティン!」
「追うわよ!」

政子が先に走り出した。


 街の小さい広場、そこに人はいない。
芝生は全て焼け、井戸の水は枯れ、噴水に水は流れてない。
そこに一人の男が走ってきた。
彼は少女を見て愕然とひざを突く。
白い透けるような肌に長い黒い髪・・・悲しくすすり泣く声・・・。
彼女は完全に生気を失っていた。
彼女はすでにゴーストになっていた。

「ハーティン!大丈夫!?・・・あ・・・この子は・・・!?」

美久はうな垂れるハーティンの前で坐っている女の子に目を向けた。

「この子・・・幽霊なの?」

遅れて政子が来た。

「この子は・・・シルク!?」
「シルクって幽霊だったんですか・・・?」

ハーティンは弱々しく首を振った。

『違う・・・彼女は生きていた・・・。この街で・・・あいつにさらわれるまでは元気に暮らしていたんだ・・・』

美久はハーティンに声をかけることが出来なかった。
肩を震わせていた。きっと泣いているのだろうと思った。
政子が美久にやっと聞こえるくらいの声で言った。

「・・・シルクは、ハーティンの妹よ」

美久の目から大粒の涙がこぼれた。

 街には狂った音色のBGMが響いていた。
それはここがリアルではない事を証明するこの世界の亡霊達へ奉げられた鎮魂歌。



2003-10-05 19:18:15公開 / 作者:青井 空加羅
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■作者からのメッセージ
物語りも終盤ですかね・・・でも、最後が長いんですよね・・・。この物語は口の軽いキャラがいなかったのでハーティンには頑張ってもらいます。てへ。
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