『戦場の歌姫『読みきり』』作者:鈴鹿 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約4.86枚
 時は2150年。
 国は時とともに変わり、そして人にも変化を及ばせた。
 日本とアメリカの交渉が決裂し、それを境に・・・。

 戦争となったのである。

+戦場の歌姫+

 ・・・日本・・・
 男達は次々と戦場に兵士として派遣された。
 一方、家に残されている女子供達は、アメリカ兵に捕まる者もあったり、兵に盾突くものもあった。
 ―捕まれば奴隷になる
 ―盾突けばころされる
 どちらに転んでも、最悪の事態は免れられないはずだ。
 
 そして、これは一人の少女と、その弟の物語である。
 
 ある、ぼろぼろのトタン屋根の家でのこと。
「姉ちゃあん・・・はら、へったよう」
 と、元気のない声で言う少年。彼の名は「トオル」
「我慢しなさい。もうじき、ママが何か持ってきてくれる」
 コロコロ・・・と石を蹴飛ばしながらトオルの姉、ミヤコは答えた。
 彼らの父親もまた、兵士として派遣されたのだった。
 ・・・そして、戦場での死を戦場に派遣された医師からミヤコは聞いたのだった。
 
「パパは、いつかえってくるの? 」
 トオルは、まだ5歳。
 自分の父親が死んだことも、戦争の大変さも、まだ、何もわからない。
 ミヤコは胸がぎゅっとしめつけられるような苦しみを感じた。
「・・・きっと、いつか・・・帰ってくるわよ。きっと」
 今は、それしか言うことができないだろう、という思いを胸にミヤコはいった。
「それより、トオル。もう寝なさい。夜が更けてくるわ」
 そういい、ミヤコはトオルを寝かしつけた。
「風が 唄うのならば ゆりかごから 見える月が 君を守ってくれるから・・・♪」
 ミヤコが、ぼろぼろの薄い布団にトオルを寝かし、そして優しい声で子守唄を歌った。
「ルルルル・・・ルルル・・・・ルルルル・・・・」

 その翌日。
 トオルは姉より早く目が覚め、外に出ていた。
「あっ」
 その時、向こうから人が走ってくるのが見えた。
「水城のおじさん!! 」
 その人は、ミヤコたちを世話してくれていた、優しい水城おじさんだったのだ。
「た・・・大変だ! ミヤコのおっかさん、米兵に撃たれて・・・」
 おじさんがハッと気づいたときには遅かった。 
 「トオル」にそのことを話してはいけなかったんだ・・・と、後悔してももう遅かった。
 トオルはカッと目を見開き、戦場へ向かった。

 一時間後。
「トオルっ、トオルー! 」
 ミヤコは、トオルがいつまでたっても戻らないので心配になっていた。
「ミヤコちゃん! ミヤコちゃん! 」
 そう叫びながら近づいてきたのは、水城おじさん。
 こちらに向かって、手を振っている。
「おじさん、トオルが・・・・」
 ミヤコがそこまで言いかけたときだった。
「と・・・トオルちゃん、まだ戻ってきてねぇのか?! ・・・・トオルちゃん・・・さっき、戦場のほうへ行って・・・・・」
 おじさんが俯きながら言った。
「・・・・ありがとう」

 そういい残し、ミヤコはその場を後にした・・・

「・・・トオル? トオル・・・」
 そこは米兵、日兵の死体でいっぱいだった。
「・・・こんな、こんなこと・・・」
 周りを見ながら歩くミヤコ。そして・・・
「トオルっ!! 」
 木の陰に、倒れこんでいるトオルを見つけたのだった。
 しかし、トオルの細い、白い腕は赤く染まり、眼は半開きだ。
「・・・ね・・・ちゃん・・・・? 」
 今にも消えそうな目でトオルが問いかけた。
「そうよ・・・私よ・・・。・・・死んじゃ・・・いやっ! トオル! 」
 ギュッとトオルを抱きしめるミヤコ。
「ぱ・・・ぱ・・・ま・・・・・・・」

「ま・・・」
 ガクッと、体中の力が抜けていく。
『トオル』
『たった一人の・・・私の弟・・・』

「風が・・・唄うのならば ゆりかごか・・ら・・・見える 月・・・が っく・・・君を・・・守ってくれ・・・る・・から・・」
「ルルルル・・・ルルル・・・ルルル・・・。ルルルル・・・ルルル・・・・」
 泣きながら、子守唄を一生懸命唄うミヤコ。
「ルルルル・・・ルルル・・・ルルルルル・・・・っ・・・」
 涙が、あふれてきて前が見えない。

「トオルーっ!! 」

 そう、空に叫んだ。
 「トオルを返して」と・・・
 でも、もう後戻りできない。
 バンッ・・・

 戦場の歌姫は、戦場に散った。
 でも、なぜかミヤコは最後まで・・・


 笑っていた。


終わり
2004-08-07 15:21:26公開 / 作者:鈴鹿
■この作品の著作権は鈴鹿さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。
鈴鹿(すずか)です
読みきり書いてみました。
長いですが、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
この作品に対する感想 - 昇順
短い内容の中に悲しさとせつなさ、家族の大切さなど入っていて個人的にすごくスキです。
でもこれからの未来にこんな世の中になってほしいというのが本心です。
次のご登場心からお待ちしております。
2004-08-08 02:30:31【☆☆☆☆☆】風間 リン
ちょっと疑問に思ったのですけど日本が戦場ですよね?そういう舞台背景をもう少し書いてほしいです。次回もがんばってください。
2004-08-08 13:30:04【☆☆☆☆☆】sena
歌姫って言葉の響きにつられてやってきました。初めまして、鈴乃と言うものです。名前が似ていてすみません〜;;読ませていただきましたwちょっと疑問を持ったのですが、戦場から走って一時間という近いところに家が存在できているのでしょか?それともう一つ、多分日本なんて小さな領土では戦争が起こって米兵が踏み込んでくると即座に乗っ取られてしまうと思うんですよ;;(私の偏見ですが;;)なんか妙にリアルなところに突っ込みいれてしまってすみません;;話の内容など自体は面白かったので、また次回を楽しみにしてますwでは失礼致しました;;
2004-08-10 10:58:10【☆☆☆☆☆】鈴乃
季節柄、戦争に関しては色々考えさせられますが、この物語は戦争が持つ理不尽な残酷さを現したいい作品だと思いました。舞台設定に関しては、沖縄の本土決戦やイラクバクダッドでの市街戦を思い浮かべれば、ありえないことではないかな、と個人的には思います。内容に関しては、心情描写を少し増やせばもっとよくなったかな、と思います。デカダンスな情景を描写して空しさを煽るという方法もありますし……などと言っても、内容は十分読み手に伝わってきましたし、楽しめました。次回の作品を期待しています。
2004-08-10 13:21:27【☆☆☆☆☆】ドンベ
計:0点
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