『空白の空に青い絵の具を。』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「そんなに、傷ついてどうしたの」






「けんかしたの、ボクと」







「なかなおりしたの?」






「ううん」





「なかなおりのおまじない、おしえてあげよっか?」





「うん」
















愛してあげましょ、ボクもワタシも、タマもポチも。


































悪魔が天使に恋をした。



なんてことはない、それだけである。


黒い翼を持つ者が、白い翼を持つ者に恋をした。


「そんなに傷ついてどうしたの?」
「けんかしたんだ、ボクと」

そう、と天使は頷いて、血で黒ずんだ腕に顔を埋める悪魔に救急箱を差し出した。
悪魔は一瞬、顔を上げた。

「なかなおりしたの?」
「ううん、まだ」
「なかなおりのおまじない、おしえてあげよっか?」

いっぱいの笑顔で天使は言った。
悪魔は頷いた。

「あいしてあげましょ、ボクもワタシも、タマもポチも」
「タマとポチって、誰?」
「あたしのおともだち」
「そうなんだ」
「言ってみて?」
「あいしてあげましょ、ボクも、ワタシも、タマも、ポチも」
「そう」

にっこりと天使は笑うと、白いワンピースをふわりと広げて白い床に座った。

「なかなおりできた?」
「わかんない」
「あのね、あいしてあげましょって、ずっと思ってないと、だめよ」
「むずかしいね」
「むずかしいの」

小さな白い羽をはたはたと天使が動かすと、雪のような羽がひらひらと空中を舞った。





悪魔は、いつしか、天使と仲が良くなった。



天使は金色の瞳を輝かせて、春の野原で花をつんだ。
悪魔は漆黒の瞳を幸せに泳がせて、夏の砂原で砂のお城を造った。
天使は白い羽を羽ばたいて、秋の稲穂の上を飛んだ。
悪魔は黒い羽を羽ばたいて、冬の雪原に春の種をまいた。





「仲直りできた?」
「ううん、まだ」

にこり、とバツが悪そうに笑う悪魔に、天使はいつも笑顔で言った。

「愛してあげましょ、ボクもワタシも、タマもポチも、ね」










何回も桜が散って、何回も季節が過ぎた頃。






悪魔は悪魔の世界にいた。

天使は天使の世界にいた。



悪魔と天使の間で、他愛もない、後に年表にすればたった一行の、戦争が起きた。

白い羽と黒い羽を持つ者達は、互いを血で染め合った。




「今日も、友達が死んだ」

テンシ ニ コロサレチャッタ。

悪魔は言った。
身の丈の倍はある黒い羽をたなびかせて、悪魔は腰に、人を殺す道具を下げた。

悪魔は、悪魔だった。

これは比喩で、悪魔という名前の者が、悪魔みたく人を、天使を殺していった。










今日も、悪魔は剣をかざして、走っていた。
地面を蹴る。
斬る。

蹴る。
斬る。

避ける。
斬る。

叫ぶ。
斬る。



悪魔は、肘まで真っ赤になった腕を見て、痛い、と、思った。
傷はないのに、どうしてだろうと、思う。



また、ボクはボクとけんかしたんだ。



悪魔は、自分が斬り殺した天使達の真ん中に立って、思い出した。


「愛して、あげましょ、ボクも、ワタシも、タマも、ポチも……」







今日で戦争は終わりだった。
つまり、今日、お日様が西へ沈むとき、悪魔が勝って、天使は一人も居なくなるはずだった。


悪魔達が、居たのは天使達の最後の生き残り達の村だった。

悪魔の隣で、他の悪魔達が、幼い少女を庇っていた女の天使を刺し殺した。


血の吹く音がした。これで天使は居なくなった。



悪魔は目を剥いた。
ゆっくりと、地面に倒れる最後の天使は、悪魔に言葉を教えた天使だった。















何故か、分からなかったけれど、悪魔は仲間の悪魔達を殺していた。
何故か、分からなかったけれど、たまらなく熱くて、どろどろしたものが、口からこみ上げて、叫び声となって、
それが空から雨見たく下に落ちて、悪魔の握っていた剣にもかかった。


そうしたら、悪魔は黒い翼を広げて、叫びながら、地面を蹴っていた。




悪魔と天使の死骸の真ん中に悪魔はいた。

白いワンピースを血で真っ赤にした天使を抱き上げて、悪魔は座り込んでいた。


「……なか、なおり……できたの?」
「出来ない、出来ないんだよ。痛くて、痛くて、たまらない」


悪魔は言った。
彼の血で濡れた手で、天使の金糸の髪を撫で付けると、そこだけ赤くなった。


天使は、細い手をゆっくり伸ばして、悪魔の頬に触れた。

「おまじない、……覚えて、る?」
「覚えてるよ」

微笑むと、天使は言ってみて、と言った。
悪魔は言った。

「愛して、あげましょ、ボクもワタシもタマもポチも」
「まだ、痛い?」
「痛い」
「愛してあげましょって、思わなきゃ」
「やり方が分からないんだ」
「じゃあ、あたしが、愛してあげる」
「え?」


悪魔は、天使の手を握った。


「愛してあげる。あなたもお空もお花もタマもポチも愛して……あげる。ずっと……ずっと」
「うん」
「……大好きよ、あなたも、お空も、お花も、みんな、みんな、大好きよ」
「うん」
「ずっと、一緒に、愛して……あげる……」

にこり、と天使は微笑んだ。
悪魔は言った。


「もう、痛くない」




天使は動かなかった。






悪魔は、初めて泣いた。



ずっと、ずっと、ずっと、雨の日も、晴れの日も、春も、夏も、秋も冬も、泣いた。

血で濡れた地面に、花が咲くころ。
悪魔がいたところと、天使が死んだところには、小さな花がぽつんと咲いた。










悪魔は、野原で天使に会った。


「なかなおり、できた?」

天使はいたずらっぽく微笑んで尋ねた。
悪魔は、黒い羽を折りたたんで、答えた。


「もう、痛くない」

天使の暖かい体をぎゅっと抱きしめて、悪魔は言った。

「みんな大好きだよ。キミも、空も花も、世界も、みんな大好きだよ」







天使は、微笑んで、謳うように言った。

「愛してあげましょ、ボクも、ワタシも、タマも、ポチも、みんなみんな」






悪魔は、笑って、天使をもう一度抱きしめた。


もう、どこも、痛くはなかった。
















2004-07-09 22:50:30公開 / 作者:林
■この作品の著作権は林さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、林といいます。
なんというか、すごく衝動的に書きました。ほんとうに今までで一番早く書き上げました。
なんと言っていいか分かりませんが、どことなくツッコんでください、参考にしたいです。
この作品に対する感想 - 昇順
う〜ん、歌で言うと、アカペラの曲を聴いているような、そんな不思議な印象を受ける作品ですね。ただ、小説と言うよりは、詩ですね。また、行間を開け過ぎな為、こういう事にうるさい方には快く思われないかと…汗 内容に関しては、悪魔の過ちにちょっと心が痛みました。童話を読んでいるような感じで、なんか懐かしい感じがしました。
2004-07-10 03:25:14【☆☆☆☆☆】石田壮介
計:0点
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