『ウィーク・エイジズ』作者:KR / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約6.6枚


 好きなコトなんて何にもない。
 世の中、嫌いなモノばかり。
 見つけられない宝物。



 その日は昼までで、学校をサボった。
 適当に空は晴れてたけど、気分は別に良くもなかった。特別行くところもなくて、
駅の前のコンビニなんかに入った。雑誌コーナーで今日発売のファッション誌が山積みに
なってた。「この秋の最新メーク特集!」なんて、どうせ新しいコスメの紹介の羅列。
これであたしのバイト料はまた飛んでく。どうせ他に使い道もない。
 何だかくだらない気分になって、何も買わないまま出ようと、ドアに向かった。
押して開けるドア。ガラス張りの。向こう側から違う学校の制服が見えて、あたしが
一瞬立ち止まったら、その制服姿の女子高生は乱暴にドアを開けてあたしに体当たりした。
「!わっ…」
 あたしは驚いた拍子につまづいて床に転んだ。その拍子に、バラバラと落ちたモノが
あった。まだ未開封の、リップやアイライナー。あたしたち女子高生の、いかにも
必需品ですって感じの。
 それを見て、あたしにぶつかった女子高生は、さっとあたしを遠巻きに見るような
態度を取った。
「お客様、ちょっとこちらへ」
 店員がレジから出てきて、あたしの腕をつかんで連れて行こうとした。
「な、何よっ」
 あたしは店員の手を振りほどこうと慌てて腕に力を込めた。
 コスメを落としたのはあたしじゃない。それがこの店の売り物かどうかなんて、
あたしは知らない。でもただ一つ言えることは、あたしはこれを盗もうとなんてして
ないってことだ。
「離してよ!」
 ムキになって抵抗すると、奥からもう一人女の店員が駆けつけてくるのが見えた。
混乱する。この状況、あたしにはかなり不利だ。でも、あたしは何もやってない。
周りの客まで、何があったのかとこっちを見ている。すると、あたしはすぐ目の前に、
小学生くらいの少年がずっといたことに気がついた。
「ねぇ!あんた見てたでしょ!?」
 あたしはその少年に向かって叫んだ。
「見てたでしょ!?言ってやってよ、あたしじゃないの!」
「お客様、こちらに…」
 同じことしか言えない店員に押さえつけられて、あたしは店の奥に連れて行かされた。
少年は何も言わなかった。あたしにぶつかった女子高生も、どこかに姿を消していた。


 サイアクだ。
「そこの女子校の制服だよね、君の。名前は?」
 店員に何を聞かれても、ガンとしてあたしは無言で通した。ずっとそっぽを向いていた。
サイアクだ。あたしは万引きなんかやってない。例え未遂でもやってない。
 あの時、落ちたコスメはあたしのじゃない。あたしにぶつかった、あの女子高生が
持ってたんだ。未開封で、もしかしたら女子高生が別の店から盗ったものかもしれない。
あたしとぶつかって見られたから、あたしに罪をなすりつけようとしたのかもしれない。
別にあたしをハメようとしてやったワケじゃない。
 でも、あたしはあの女子高生がどこの誰かも知らない。顔もよく見てなかったし、
制服は近所の都立校のだったけど、人数多すぎてとてもじゃないけど探せるわけないし。
「家の電話番号は?」
 しつこく、コンビニの店員は聞く。でもあたしは答えない。やれやれ、と店員が
ためいきをつく。そして、すぐそこにあった電話が鳴った。
「あ、ハイ」
 店員が出た。
 部屋にいたのは、あたしとその店員だけだった。あとの店員はレジでもやってるんだ。
たまにあたしの後ろのドアの向こうから、「いらっしゃいませ」なんて声が聞こえる。
その反対側にも、ドアがある。あっちからは人の声は聞こえない。たぶん、店の裏口なの
かも知れない。
 店員は敬語で電話と話して、たまにペコペコ頭を下げる。上司かも知れない。ずっと
電話に夢中になってる。やるなら、今だ。
 あたしは床に置いてたカバンを持って裏口のドアに駆け出した。店員が気付いたとき
には、もうドアの鍵を開けて外に出ていた。思った通り、ドアの外には裏道が続いていて、
あたしは全速力でそこを走り抜けた。学校の授業でだって、プール以外なら体育は得意だ。
 走って店員を振りきるのに、そう時間はかからなかった。


 久々に走ったら、やっぱり疲れた。
 大きく息をついてガードレールの上に腰掛けた。ジュースでも買って飲みたい気分
だった。学校に連絡行くかな、なんて思ったけど、そんなのどうでもいい気がした。
 そして、
「お姉さん」
 声がして、あたしは前を向いた。
 そこに、さっきコンビニで見たあの小学生の少年がいた。
「…ゴメンなさい」
 と、少年は言った。うつむいた頭が、丸くて小さくて、あたしは変な気分になった。
今謝ったのは、どういう意味なのか。何が言いたいのか。あたしにはよく判らなかった。
「コスメが落ちた時、見てた?」
 あたしが聞くと、少年は首を横に振った。
「でも…」
 うつむいた頭が続ける。
「お姉さんにぶつかったの、うちのお姉ちゃんなんだ」
 少年はそう言った。
「お姉ちゃん、よくお父さんやお母さんとケンカして、おまわりさんの所にもよく
行ったりするんだ。だから、だから解らないけど…」
 あたしは何も言わなかった。
 少年もそれ以上言わなかった。少年を見てあたしは言葉に出来ない何かを思った。
「あたし、やってないよ」
 それをあたしは言えなかった。少年もいつも自分の姉を見て、似たようなことを
思ってるのかも知れないと思ったら、あたしはそんな風には言えなかった。
 だから、
「あげる」
 あたしはカバンに入れてたアメを出して、少年に渡した。
 少年は困ったような顔をしてたけど、あたしは押しつけて、また走り出した。少年が
追いかけてこようとしたのは解ったけど、あたしは無視して走っていった。


 いつの間にか、さっきのコンビニの前に着いた。レジにいた店員は、さっきまでとは
違う奴だった。でも、さっきの奴もたぶんまだ、店内にいると思った。
 あたしはガラス張りのドアを、あの少年の姉のように乱暴に開けて、
「あたし、万引きしてないよ」
 少年の代わりに、店員に言った。


 end.
2003-09-29 17:07:30公開 / 作者:KR
■この作品の著作権はKRさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 前回今まで一度も書いたことのないオジサンの話を書いたので、
投稿2回目の今度は一番身近なはずの女子高生を書いてみました。
(KRは16才の小娘です♪)
 タイトルの「ウィーク」は「weak(弱い)」
という意味です。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは。読ませていただきました。主人公の描写がすがすがしくて読んだ後晴れ晴れしました。さすが、現役高校生、若いですね笑。次の作品も期待してます。
2003-10-02 23:05:21【★★★★☆】青井 空加羅
はじめまして。現役の方らしいリアリティに感心しました。それに、いかにも「ありそう」な光景を巧みに描いていますね。ヒロインの微妙な心理やモーションもいい味を出しています。次回も期待しています。
2003-10-03 21:53:21【★★★★☆】小笠原智広
計:8点
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