『桃ノ花ビラ   〜読みきり〜』作者:紅い蝶 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約8.95枚
                         「桃ノ花ビラ」






―――――春。あたしが生まれた季節。そして、あなたともう一度巡り会えた季節。・・・・・・そんな季節の思い出。







「ばいばい。桃子ちゃん」
まだ幼かったあたしが涙を流して手を振る。彼もボロボロ涙を流して手を振る。
父親の仕事の都合で引っ越す彼。
もう会えないと思っていた・・・・・・・・。








「きれ〜い・・・・」
2月の終わり。気分転換に一人で散歩に来た自然公園。公園は子供連れの家族でそれなりに溢れていた。
桃の木に淡いピンク色の花びらが咲いている。春のそよ風に揺られて一枚が落ちた。ヒラリヒラリと舞って・・・・。
「あ・・・・・」
その花びらを三春桃子(みはる ももこ)はもの惜しそうに目で追った。きれいな花びらもいつかは散ってしまって、葉が生えてくる。毎年そんな現象が繰り返し行われているのだけれど、やっぱりどこか物悲しい。
散った花びらが、桃子の近くにいたある人の鼻にちょこんと腰を下ろした。
その花びらをそっと指で持ち上げると、その人は桃子の方を向いた。
目が合う。二人の間をそよ風が通り抜け、そしていくつもの桃の花びらが舞った。
「これ・・・・・・・欲しいの?」
その人は花びらを親指と人差し指でつまんで、桃子の方に差し出した。
「あ・・・・えっと・・・・はい」
たった一枚の花びら。それを桃子に渡すとその人はどこかへと行ってしまった。
サラサラの黒髪が爽やかで、優しそうな顔立ちをしていた。
桃子は花びらを持ったまま立ち尽くしていた。


学校のチャイムが鳴り響き、高校最後の授業の終わりを告げる。
桃子は市内の高校に通う18歳の3年生。容姿端麗で友達も多い。背中くらいまで伸ばしたきれいなストレートヘアが特徴だ。進路も決まり、のんびりと大学入学を待つだけだった。
今日で最後の授業も終わり、あとは1週間後の卒業式まで休みだ。友達と遊ぶもの、就職活動に明け暮れるものなど様々だ。
クラスメイトに卒業式までの別れを告げて校門を出る。
といっても、この後ヒマだ。バイトは休みだし彼氏もいないし友達はみんな予定があるし・・・・。
「あの自然公園にでも行ってみようかな」
まっすぐ家には向かわず、一週間前に桃の花を見たあの自然公園へ向かった。



一週間前見た景色とほとんど変わりのない風景がそこにある。
桃の花が咲き誇り、仲のいい親子が笑い、そしてあの人が桃の木の下にいた。
黒い一眼レフカメラとかいうやつを構え、桃の花を何枚も撮っていた。
「写真・・・・撮ってるんですか?」
勇気を出して声をかけてみる。サラッとした黒髪をなびかせながら、彼は桃子の方をむいた。
「まあね。そんな大したことじゃないけど・・・・・。こうゆうの好きでさ」
優しい声。優しい顔立ち。一週間前のあの人だ。間違いない。
彼はカメラを下ろし素敵な笑顔を見せて話した。
「俺、ちょうど一週間後に東京行くんだ。カメラマンになりたくて・・・・。金がないから普通列車だけどね。こっちを12時に出てあっちに着くのは3時なんだ」
彼は桃子のことを覚えているのだろうか。初めて話した感じではなく、どこか親しげに色々と話してくれた。
「あの・・・・・」
桃子がしゃべろうとした時、彼の携帯がなった。最悪のタイミング。今日はおひつじ座の運勢は最悪?
2分ほど彼は電話相手と話していた。口調や内容から言って、おそらく仕事関係の話だろう。
パタンと二つ折りの携帯電話を閉じてポケットへとしまう。
「何?なんか言おうとしなかった?」
「あ・・・・・・いえ、別に」
本当はあった。名前を聞きたかった。でもこの人は一週間後に東京へと行ってしまう。もう会うことはできないだろう。だったら聞いても意味がないではないか。そう思って桃子は名前を聞くのをやめてしまった。
桃の花びらが風に舞う。二人を包み込むかのように・・・・・。
「じゃあ、俺は仕事の関係で今から出かけるからさ。じゃあね」
彼はカメラを入れたバッグを肩に掛けると、ゆっくり公園の出口へと歩いていった。
(もう、会えないのかな・・・・)
桃子は名前を聞かなかったことを少し後悔した。



卒業式。桃子を含め270人の生徒がこの高校から旅立っていく。
体育や部活で汗を流した体育館に、今は校長の言葉だけが響く。校長は今年定年を迎えた。教員生活最後の話と3年生の卒業に悲しくなったのだろうか。途中から涙を流して話していた。
校長は泣きながら最後に、心なしか桃子のほうを向いて話した。
「たとえ誰かに怒られたとしても、自分の気持ちにウソはつかないでください。大事なことをサボってはいけません。でもそれが自分の気持ちに素直に行動したことなら、それに対して胸を張ってください」
静かに話を聞く生徒達。校長はハンカチを取り出して涙をぬぐうと、力強い声で言った。
「三春桃子さん。今日、私の息子が東京に行きます。カメラマンになるために。君はそれを黙って送っていいのかい?確かに卒業式は大事。でもそれ以上に大事なことは・・・・・勇気を出すことです」
校長の言葉に、涙が出た。何で知ってるんだろう?なんであたしの名前がわかったんだろう。答えは簡単だ。桃子がまだ小さい頃、隣に教師の家族が住んでいた。3つ年上のお兄さんがよく遊んでくれて、桃子は覚えていないが・・・・・その人は、あの彼だったのだ。
がたっとパイプイスから立ち上がる。全生徒の視線が桃子に集まったが、そんなことはもはや関係なかった。
「先生・・・・・。行ってきます」
校長は静かに頷いた。その顔は幼い頃見た優しいおじさんと同じ笑顔だった。
他の先生達が止めようとするのを振り払って駆け出す。
もう迷ってなんかいられない。
―――――彼に・・・・会いたい!!
桃子は髪をなびかせて、必死に駅へ向かって走った。



『3番線、普通列車東京行き。まもなく発車します』
駅アナウンスが構内に響く。1,2番線に電車は止まっていない。3番線の東京行きだけがホームにあった。
彼はずっと改札口を見ていた。もしかしたら、桃子が来てくれるんじゃないかと。
名前を言わなかったことを後悔した。というより・・・・言えなかった。
あっちはきっと初対面だと思っていただろう。彼は桃子が昔よく遊んだあの女の子だとわかったが、桃子は幼かった。覚えてるはずがない。
「来て・・・・くれなかったか」
発車ベルが鳴る。次々に乗客が乗り込んでいく。もう乗らなければドアが閉まってしまう。
でかいショルダーバッグを肩に斜めに掛けて、彼は列車へと・・・・・・・・。

「一真さん!!」

聞こえた。彼女の声が・・・・・。
彼、一真は振り返って声のしたほうを向いた。
階段を登ってくる女の子が一人。昔見た面影が残り、そして昔よりも数倍きれいになった彼女、桃子だ。
発車ベルが鳴り響く中、桃子は走って一真の目の前まで来てくれた。発車時刻まであと10秒程度しかなかった。
ハァハァと息を切らして自分を見つめてくれる桃子に、一真はひとつの箱を取り出した。
「よかった。もう一度会えて・・・・。これを渡したかった・・・・・・」
箱の中には、桃の花びらがいっぱいに入っていた。
「俺達二人を再会させてくれたのは、桃の花びらだからね。またいつか会える日まで・・・・・持っていて欲しい」
ポロポロと涙が溢れてきた。止めたくても止められない。いや、もういっそ止まらなくていいや。
桃子はその箱を両手でぎゅっと抱きしめて、何度も何度も頷いた。
「それじゃあ・・・・・。また」
ドアが閉まる。
二人の間に壁を作り出した。
でも、もう今は二人の心の間に壁はない。
走っていく電車を桃子は見えなくなるまで眺めていた。








それから一年が過ぎた。
今でもあたしは、あの桃の花びらを持っている。
久しぶりに帰ってきた故郷。あの自然公園で桃の花を眺めていた。
風に舞ってどこかへ飛んでいく花びら。風が止んで地面に静かに落ちた。
それを誰かが拾い上げる。その人はやさしい顔で、サラサラの髪。肩に掛かったあのカメラ。
「また・・・・・・会えたね」
優しい声で、微笑んで、彼はあたしにそう言った。



もう忘れない。この優しい笑顔を・・・・・永遠に。





【終わり】
2004-05-04 17:28:50公開 / 作者:紅い蝶
■この作品の著作権は紅い蝶さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
えっと・・・・・。これは自分がかなり前に書いた未発表の作品を、投稿用に書き直したものです。
昔のものですから、描写やストーリーなどわかりにくいところも多いかと思いますが・・・・・。

改めて読みきりの難しさを思い知った今日この頃です。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして!!読ませて頂きました。面白かったです。
2004-05-04 19:00:59【★★★★☆】哀葉
読後に『卒業』のあのシーンを思い出したのは私だけ? 校長先生のナイス根性に乾杯。話自体は文が綺麗で、読みやすくて面白かったです。これからも頑張ってください!
2004-05-04 20:22:03【★★★★☆】蘇芳
リライトする前にウェブノベルの作法サイトか注意書きにある作法の所を読みましょう。あと最初の感想者の感想に不快を抱く私って……、何処が面白かったぐらいかけや! みたいな心の叫びが。ま、それは置いといて感想を……まず全体的に意味が分かりませんでした。好きな彼と校長が親子? そんな伏線が無いのに無理矢理展開すすめないで下さいよ(苦笑)そういう事も作者は自白していますがね。まずリライトするぐらいなら、頭の中で分かっているものを説明or描写しろ。というのが率直な意見ですかね。(余白開けすぎですよ)
2004-05-04 20:45:53【☆☆☆☆☆】老犬@
彼(一真)をに会いに行くのに少々展開が強引かと。卒業式中に立ち上がって脇目もふらずに行くのには、ちょっと理由が薄いですね。花びらが舞う表現は良かったです。ではでは
2004-05-04 21:05:05【★★★★☆】rathi
蘇芳さん、哀葉さん。感想ありがとうございます^^ここに来る前に書いた作品でしがない文章ですが、感想をいただけてうれしかったです。ありがとうございます。老犬@さん>指摘していただくことはうれしいですし、勉強にもなるのでありがたいです。でも、言い方ってものがあるんじゃないですか??せっかくありがたい意見をもらえたと思っても、非常に気分を害します。勉強になることを言ってもらえた半面、とてもいやな気分になってしまう人も少なくないと思いますよ。僕が言える立場ではないのかもしれませんが、そう思ってる方を僕は知っています・・・・・。最後に、お礼は言っておきたいと思います。貴重な意見をありがとうございました。
2004-05-04 21:12:17【☆☆☆☆☆】紅い蝶
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。