『続・ゲルニカ』作者:タカちゃん / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約6.06枚

朝7:00、起床。いつものように着替え、いつものように飯を食べ、いつものように歯を磨き、いつものようにチカちゃんの天気予報を聞き、いつものように家を出て、いつものように校門をくぐり、いつものように息の詰まりそうな空間に身を投じ、いつものようにたまに声をかけてくれる奴と作り笑いをしながらおはようを言い、いつものようにこれが『ヘドが出るぜ!』という物なのかと実感し、いつものように席に着き、いつものように寝てるフリをした。
恵まれているのかもしれない。だけど、日々の暮らしの中で感謝は廃れた。イジメなどは受けてない。ただ周りの楽しそうな声が僕を笑っているのかと怖くなる。下手に感情を出さなければ、何もされないと思い、そのように行動すると案の定、本当に『何も』されなくなった。ここにいないみたいだ。幽霊は人に見えないって言うけど、それを信じたくもなる。だったら本当にいなくなってみようかと思うが、残された親に面目が立たない。それくらいの感謝は僕にだってある。でも人生の定年退職があったならどんなに楽になれるだろうとつくづく感じる。
だけどこんな僕にも夢がある。それは、大きな病気にかかり、わずかな余命を宣告され、周りの人たちにもそれが知られて、急にみんなに注目され、一時的な同情に近い優しさを受け、そしてみんなが一時的に悲しんでいる中で死んでいくことだ。だからたまに風邪などをひいてはガン、骨肉種、白血病、脳内腫瘍などと妄想を膨らました。そうすることで先々の不安を消すことができた。あるいはGパン刑事のように殺されて死ぬのも良いかもしれない。そうすれば僕は災難に巻き込まれただけで、みんなが僕を殺した奴だけに非難を浴びせるだろう。
『死』や『命』や『生』なんて錯覚だ。心臓が鼓動を刻み、そのために息をして、その結果体が機能してるだけなのに人は騒ぎ立て、恐怖する。恐怖の延長線上に『死』がある。『怒られる』『怒鳴られる』『叱られる』。全ての延長線上に『死』がある。恐怖が麻痺した者は『死』が麻痺する。それが僕だ。


(キーンコーンカーンコーン!)

「ドイツ・ファシズムの成立は1919年のドイツ労働者党の結成から始まって、このときにようやく7人目の党員として参加していたヒトラーにファシズム勢力の台頭のチャンスがやってきて、翌年の1920年に25ヶ条網領発表でヴェルサイユ条約破棄・英仏への復習・ユダヤ人排斥・ソ連の植民地化などを標榜してナチスが生まれたんだ。
そして、1929年の世界恐慌で社会不安が高まるのを利用して勢力を拡大し始めるんだ。それじゃ次のページ行って、1933年の自分たちナチスがやったのに国会議事堂放火事件を共産党のせいにして、非合法化し同じ年には他の全ての政党を禁止して独裁体制を無理矢理推し進めて行ったんだよね。そんで翌年の1934年にヒンデンブルク大統領が死んで、ヒトラーはフューラー、つまり総統に就任してここから本格的な独裁が始まってくるんだ。まず言論・出版の統制を行うためにゲシュタポと呼ばれる秘密警察を作り、ナチスの悪口を言う人達を殺していったんだね。んで下の方見て。今度はものすごい残忍なユダヤ人の排斥を行うので1935年にニュルンベルク法と言う断種法を作り、その内容はユダヤ人との結婚を禁止するものだったんだね。さらにはユダヤ人の遺伝子を無くすために普通の道端でユダヤ人の女性を見つけてはレイプしたりしていたんだ。そしてユダヤ人の収容所で有名な現ポーランドにあるアウシュビッツ強制収容所では150万人が『処理』されたことで有名なんだね。最終的にナチスの独立体勢が成立してから崩壊するまでの9年間で殺されたユダヤ人の数は800万人以上に上ると言われているんだね。それじゃ次にイタリアの独裁体制を見ていくんだけど、ここで重要なのは・・・・・・・・・」

(ブーンブーンブーン)

From:兄ちゃん
件:Fw:署名運動
緊急署名のお願い。今回、イラクで人質になっている今井君たちを助けるために、今、多くの人たちの力が必要です。下のアドレスで署名をすることができます。どうか、協力をお願いします。またできるだけ多くの方に知ってもらいたいので、転送お願いいたします。
>今井紀明君の友人一同。
>http://shomei.kakehashi.or.jp/

この人達は僕のように麻痺しているのだろうか?このようになることを覚悟して行ったのだろうか?Gパン刑事のように死ぬ人が何百人も居るところへ。現地の人々はどれくらいの不安を抱えているのだろうか?現地には一時的な同情だけでもあるのだろうか?何もしなければ何もされないのだろうか?そのような人々を殺した兵士はGパン刑事を殺した奴のように罰されるのだろうか?『命』を尊く感じているのだろうか?

(キーンコーンカーンコーン!)

「先生この前スペインの美術館へ絵を見に行ってたんだけど、やっぱり彼の絵は素晴らしいね!独特の色彩表現を持っているよね。先生が一番好きなのは教科書の37ページにも載ってる『ゲルニカ』!これは彼の作品では珍しくモノトーンで描かれてるんだよね。死んだ子を抱いて泣き叫ぶ母親や、天の救いを祈る人、狂ったように鳴く馬、などが戦争の悲惨さを訴えてるよね。今もこの絵と同じ光景がどこかで広がってると思うと悲しいね。この絵は彼の人類への警告だよ!今日の授業はここまで!」



いつものように下駄箱で靴を履き替え、いつものように校門をくぐり、いつものように帰り道を歩き、いつものように変える場所があり、いつものように家族が居て、いつものように食べる物があり、いつものように心臓が鼓動し、いつものように息をし、いつもと少し違うように生き始めている。




僕は知らなかった・・・・。あなたはゲルニカを知っていますか?


2004-04-25 17:28:19公開 / 作者:タカちゃん
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