『先生の事件記録 中編』作者:吉岡上総 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 1


 俺は、ずっと考えていた。

(どうして犯人は、まるで今噂になっている幽霊騒ぎを知っていたかのように、わざわざ理科室へやってきたんだ…?)

 これが単なる強盗事件でも、ちょっと怪しいお兄さんがやった事件でもないことは、超が頭につく馬鹿でもわかるだろう。だが、わかったところで話にならない。問題なのは、こう解決していくか、だ。

(やはり噂を流した張本人が、犯人なんだろうな…)

 結論はやはり、そうなってしまう。
 だってそうだろう。この幽霊騒ぎに乗っ取って、犯人は理科室で尾川の首を絞めた。
 しかし、どうして尾川がそこに来ることを、犯人は知っていたんだ?

(まっさか、毎晩あそこで待っていたとか? いや、それはないな。夜中に理科室にやってくる奴なんて、よっぽど変わった奴か、それとも本当に幽霊かぐらいだな)
 
 他にも疑問なのは、どうして犯人は尾川を殺さなかったんだ?

(殺そうとする意識が、途中でなくなったのか? それとも…尾川を襲ったのには別の訳があるのか?)

 別の訳があるのだとしたら。また被害者が出る。
 俺は、舌打ちをするのだった。


 
「おい、白銀先生」
「うわっ! なんですかいきなり!!」

 考え事をしている最中に、行き成り話しかけてこないでくれ。二秒くらい寿命が縮んだよほんとに!
 心臓をドクドクさせながら、俺は荒井先生の方を向く。

「なんかようですか?」
「ようもくそも、こんなところで何している?」
「へ?」

 こんなところとはどこだろう。そういえば、考え事をして、ろくに回りも見ていなかった。
 ちらりと横を見ると、そこには『女子トイレ』と書かれた、ドア…。
 意味深な目で見つめてくる、荒井先生…。

 沈黙。

「すいませんでしたあああああ!」

 別に妙な意味があったわけじゃないのに、俺は全力で廊下を駆け出していく。何回か同僚に「廊下は走るんじゃない!」と嗜まれたが知ったことではごぜーません。
 ずだだだ〜、と俺が走り去ると、そこには荒井先生が残った。

「暢気な奴だ」
 
 荒井先生は、そのまま踵を返していった。



 いつの間にやら、お昼になっていた。

「んー、謎不可思議」

 俺はそう言って、寝そべる。
 ここは屋上だ。生徒達は立ち入り禁止なのだが、どういうわけか教師は立ち入りオッケーである。なんだかなぁ、と思うがしょうがない。だってそういう規律なんだもん。
 自分自身を無理やり納得させて、俺はグラウンドを見る。今は昼休み、生徒達は自由気ままに遊んでいる。

「子供は元気がイチバンだな」

 微笑ましい気分になった。
 幼少時代の俺は、同級生を毛嫌いしていた。それはやはり妹の自殺が関係あるのだが、悪しからず。あの頃は、幼さゆえに割り切れないことが多すぎなのだ。
 まあともかく、そのため俺は、同級生と遊んだ記憶が無い。いつも日陰で眠っていた気がする。

(あれ?)

 俺は悩んだ。
 そういえば昔、誰かと遊んだ覚えがあるようなないような。ずっと昔のことなので完全に忘れていたのだが、うーん。どうだっただろうか。
 真剣に悩もうとしたとき、俺は裏校舎に小学生とは思えない人間達が居るのを目撃した。
 詰襟に、セーラー服。間違いない、中学生である。

「なんで中学生がここに…?」
 
 俺は慌てて、裏校舎に向かう。

「こらー、お前等何している!」
「ぐふふ、なにちぇるって、わかんないの?」

 メガネをした、どっからどう見ても成人病患者と思しき少年は、カメラ(これもどこでも撃っていそうな使い捨てカメラ)を持って、俺にそう言う。

「わかんねぇよ。ともかく、何をしていようともここは小学校だ。お前達中学生が来るべきところではない」

 そう言うと、後ろでビデオカメラを持っていた、いかにもクールな感じの少年は、呟く。

「僕等、幽霊事件の調査に来たんだ」
「ユーレー事件?」
「まったまた、惚けないでよ」

 行き成り俺の背中を、セーラー服の女(女じゃなかったら、なんだ?)が叩き飛ばす。いってぇ、この怪力。
 俺の怒りを無視して、セーラー服は話し始める。

「昨日女子生徒が幽霊に殺されかけるって事件があったんでしょ? だとしたらさぁ『オカルト・ミステリー研究会』としては、放って置くわけにはいかないのよ」
「オカルト・ミステリー研究会ぃ?」

 俺は語尾を上げてしまった。なんだ、そのどこの学校でも一つはありそうなクラブは。
 最近の中学校は、一体何を考えているのだろうか。それ以前に、文部省はこれでいいのだろうか?
 沢山疑問は浮かんだのだが、とりあえず目先の疑問を片付けておこう。

「君たち、いつその事件を嗅ぎつけた?」
「いつって、数日前から噂は流れてたんだけどねぇ。あ、そうそう。あたし梅宮静香(うめみや しずか)。こっちのカメラデブが、大河内啓太(おおこうち けいた)。そんでスカしているビデオカメラが平林勇作(ひらばやし ゆうさく)。覚えた? で、どこまで話したっけ?」
「全然初めのほうだ。噂が数日前から流れていた、というのは聞いた」

 この静香と言う少女、名前とは裏腹にうるさい。親の願いむなしく、このような結果になってしまったのには、涙するしかない。
 ともかく、静香は思い出したように話す。

「そうそう。で、噂はずっと気になってたんだけど、中々行けなかったのよ。それに、大抵の噂って、でっち上げとかばかりじゃない。一様情報収集をしてから、この噂を調査するかしないかを決めようとしたって訳。でも、そしたら、本当にあった事件が元にされたってのがわかったの。しかも、昨日は昨日で、噂の理科室で事件があるじゃない。だ・か・ら、これは調べるっきゃないって思ったの」

 よく噛まずにそこまで喋れるな。
 妙なところで感心しながら、俺は彼女の話に耳を傾ける。

「事件なんて立派なもんじゃない。これは単純な強盗だ。まあ、ちょっとお馬鹿な強盗だったみたいだけどな。つーわけで、君たちが思うような事件ではないのだ。解かったら、中学へ帰りなさい」

 ため息混じりにそういうと、勇作はビデオカメラをおろす。

「そうですか。では、また来ます」
「えー、ゆーさくクンいいの? きみあれほど来たがってたじゃん」

 デブメガネ…じゃなくて啓太はそういう。すると勇作は不気味な笑みで、笑いかける。

「いいんだよ。まだまだ終わらないんだから」
「?」
「それじゃーね!」

 嵐のように、彼等は立ち去っていってしまった。
 残された俺は、勇作の言葉が引っかかっていた。

「まだまだ終わらない」

 その言葉は現実となってしまう。


 2


 まったくあの野郎、まったくオカルトというものをわかっていない。
 
 大河内啓太は、舌打ちをしながらこっそりと、小学校に戻っていた。

「いっつもいっつもワケワカンネェこと言いやがって。一々ムカつくんだよ」

 啓太はカメラで、学校を取り捲る。
 彼は筋金入りのオカルトマニアであり、また死体マニアでもあった。だから早く、幽霊とやらが人を殺してくれるのを待ち望んでいた。
 だがどうせ殺すなら、あの一々スカしている平林勇作を殺してくれたほうが嬉しいってモンだ。
 にへら、と変質者のような笑いを見せながら、歩いていく。

「ん?」

 啓太は足を止めた。
 そこは問題になっている、井戸である。

「ここにも幽霊が出るって話だったよな。どれ、いっちょ写真でも取ってやろうかな」
 
 枯れ果ててしまった井戸を、何度も写真に収める。角度を変えたりして、しばらくの間、健太は熱中して写真を取っていた。
 一折り写し終えた健太は、もう外が暗くなっていることに気がついた。

「やっべぇ、もうこんな時間かよ。…もし幽霊の写真が取れたら、あの馬鹿に見せてやらねぇとな。くっく、どんな顔するのか楽しみだ」

 啓太は、他人の前ではああしているのだが、実はかなり正確が捻じ曲がっていた。どうしてそうなったのは定かではないが、本人も気にしていないようだし、回りも気がつかないことから、どんどん性格は悪化していた。
 帰ろう、と思って、啓太は後ろを向く。
 
「虐められて自殺ねぇ。けっ、阿呆らしい。世渡りが下手な馬鹿なだけじゃねぇかよ。そんなんで自殺して、しかも殺されたら溜まったもんじゃないぜ。人騒がせもいいところだ」

 タンを吐き捨て、啓太は歩いていく。

 すると。

「ん?」

 がさ、と物音がした。風で草が揺れたのだと思ったが、どうにも違う。

「ま、まさか…?」

 振り返るより先に、啓太の頭は殴られていた。




 
 俺は、一日の仕事を終えて、ようやく帰路につけそうだった。

「はぁ、まったく。どうしてこうなんだ?」

 視線の先には、生徒達のテスト。昨日本来ならやり終わるはずだったのだが、色々あって忘れていたのである。だから今日採点したのだ。
 だがどうだ。この七十点、六十点のオンパレードは。主役はやはり、どうどうの零点だろう。こいつら、本当に真面目に答えているのか?
 頭が痛くなったのだが、テストに怒ったところで何もならない。明日生徒達に言ってやらないとな。
 そう心に決めていると、小枝先生が帰ってきた。帰ってきたというのは、彼が昨日の一軒もあって、校舎内を見回りしていたからである。

「あれ?」

 俺の呟くが聞こえたのか、小枝先生は立ち止まる。

「どうしましたか?」
「いえ、先生、昨日もそのズボンじゃなかったですか?」

 俺がそう指摘すると、小枝先生は「バレました?」と照れたように笑う。

「実は私、四年ほど前に妻と離婚しまして。それから一人暮らしなんですよ。そのため一週間おきにズボンを交代しているのです」
「一週間? 先生…今は夏ですよ。汗臭くなります」
「あっはっは。私はラッキーなことに、クーラーのある職員室と理科室を出入りしているだけですから、ほとんど暑くないのです」
 
 うらやましいな、と俺は正直思った。
 この学校は、図書館・職員室・理科室のみクーラーが設置されている。特に小枝先生は理化学教師なうえに担当の学級も無いから、つねにクーラーの部屋を出入りしていることになる。
 これは大変うらやましい。
 俺なんか毎日汗だくっすよ。

「まあそれはともかくとして、これは誰にも言わないでくれよ。不潔な先生なんて嫌じゃないか」
「解かってますって」
 
 俺がそういうと、小枝先生は安堵の表情で、自分の席へと移動していった。
 それを確認しつつ、また事件のことについて考える。

(やはり事件の事をしろうと思うけど…。その前に、もう一度噂の事を確認しておいたほうが良いな。だが、どうやって調べればいいんだ?)

 たぶん、学校の出来事を記録してあるものが、あるはずである。図書館なら置いてあるかもしれない。
 そう思った俺は、さっそく図書館へと移動する。

「げ、もう真っ暗だ」

 採点が長引いたのか、外はもうお月様が浮かんでいる。うーん、一人図書館で調べものをするのは、怖いなぁ…。
 なんて考えつつも、ちゃんと図書館へは行く。
 図書館は二階にある。その間には例の理科室がある。いつ来ても怖いんだよな…ここ。
 弱り果てながらも、なるべく見ないようにして、図書室へ向かう。うう、怖いなぁ。怖いなぁ。
 
 やっとの事で図書室に着くと、ボソボソと話し声が聞こえてきた。

「これは…荒井先生と江戸前?」
 
 悪いとは思いつつも、俺は耳を傾けてしまった。


「いいじゃねぇか。あんなボウフラに抱かれるよりは、俺に抱かれたほうがいいぜ。前々からあんたはいいと思ってたんだ。どうよ、ここで?」
「冗談じゃない。話しがそれだけなら、どっか行ってくれ」
「おいおい連れないなぁ」

 こいつ、教師のくせに何考えているんだ! 俺は憤怒のあまり、飛び出していきそうになる。だが、なんとかそれを抑えた。
 
「用が無いならどこかへ行けと言っているだろう?」
「おい、優しくしているからって、図に載るなよ? 俺はずっとあんたを見てきたんだぜ。へへ、今までずっと楽しみにしてたんだ。無理やりでもやらせてもら…」

 江戸前はそれ以上、なにも言うことが出来なかった。何故なら、俺がドアを蹴破るようにして、図書室に入ってきたからである。

「あ、お二人ともこちらにいらしたんですか?」
「ちっ、何のようだよ」
 
 江戸前はあからさまに、俺の事を嫌そうな眼で見てくる。御生憎さま。俺もあんたが嫌なんだ。
 睨み付けると、江戸前は気分を害されたのか、そのまま出て行く。図書室には、俺と荒井先生の二人が残った。

「…貸しとは思わないぞ」
「俺もそういうつもりでやったわけじゃないですから」
 
 爽やかにそう言うと、荒井先生はそれ以上何も言わない。
 それはそうと、一様何があったのかを、荒井先生に尋ねた。

「知らん。行き成り呼び出されて、襲われそうになった。ま、何とかなっただろうがな」
「どういうことですか?」
「知らんのか? 私はこれでも、八極拳の使い手だぞ」

 俺はそのロールプレイングの技みたいなものがなんなのか、まったくわからなかった。

「八極拳は、中国の武術だ。なんというか、強いて言うなら、私レベルの人間の本気の蹴りなら、あの男の骨の二・三本は砕いていただろう」

 ひょえ、と俺は思った。彼女を助けに来たつもりが、江戸前を助けてしまう結果となった。なんてこった、これは。
 がっかりしていると、荒井先生は頬をかいた。

「で、お前は何しに来たんだ」
「俺ですか? 俺は、ちょっと幽霊話の一軒について調べてみようと思ってね」
 
 そう言い、俺は学校の過去が記されている書物を探していく。

「お前、尾川の事件の犯人を、捜すつもりか?」
「そうです」

 疑問に思われるだろうか、と思ったのだが、荒井先生はため息を吐いていた。

「だったら、ここに資料は無いぞ」
「?」
「こっちへ来い」

 乱暴な言葉に誘われて、俺は荒井先生の後を着いて行く。
 そして、管理等の階段のところで、荒井先生は動きを止めた。

「お前、何故尾川の事件の犯人を捜す?」
「え?」
「単純な正義感ではないのだろう」

 あまりに当然の疑問だった。だが、俺は妙な違和感を覚えた。
 荒井先生は、まったく疑問になんて思っていないような顔だったからだ。疑問に思ったから聞いたのではなく、むしろ、確認のために聞いた、という感じであった。
 俺は、正直に、今回の幽霊騒ぎと自分の関連を話した。

「…つまり、妹の身の潔白のために、犯人を捜したいのだな」
「はは、笑っちゃいます。死んだ人間に汚名を着せるのが嫌だから、俺犯人を捜すんです。生徒が襲われたとか、そういうのもあるんですけど。…俺は身勝手ですね」

 生徒が襲われた事は、はっきり言って言い訳でしかない。本音は、あすかがこれ以上、辛い思いをするのが嫌だったからなのである。だが、あすかはモウ死んでいるのだ。辛いもへったくれもない。
 解かっていても、遣らずには居られない。

「そんなことないさ。お前らしいよ」
「え…?」

 どういうことですか、と俺が尋ねようとする。
 しかし、それをすることは出来なかった。

「うわ!」
「くっ!」

 誰かが背中を突き飛ばしたような感覚に襲われる。いや、間違いない。誰かが突き飛ばした。
 俺と荒井先生は、階段をゴロゴロと転がっていく。
 そして、夏の気温にしては冷たい床の上で、二人ともぐったりと横になってしまった。
 意識は混濁する。



 次に俺が目を覚ましたのは、保健室のベッドの上だった。気がつけば朝になっており、周りには警察官が居る。

「一体何が…」

 戸惑っている俺に、隣とベッドで寝ていて荒井先生は、言う。

「私達は階段から突き落とされたんだ。何者かによって」
「階段…」
 
 これじゃ噂の二の舞である。しかもよりによって、管理等の階段から突き落とされるなんて。
 消沈していると、向こうのソファで、見慣れた顔があった。

「君たちは…!」
「あ、昨日の」

 あの中学生である。だが静香は昨日ほど元気は無い。まあ、勇作は相変わらずなのだが。
 何故ここに居るのか疑問に思ったが、その疑問はすぐに解決される。

「…大河内という少年が、誰かに襲われたらしい。…重症だそうだ」
「なっ」

 俺は再び荒井先生の方を向く。だが荒井先生の顔は、かなり深刻そうだった。

「大河内という少年が血まみれになって、例の井戸の所に倒れていたそうだ」




 俺は、驚いた。









2004-04-20 21:20:55公開 / 作者:吉岡上総
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■作者からのメッセージ
吉岡です。二回目です。
 
 今回で問題編の中編、という形になっております。というか、そうなってしまいました。
 次回はやっと、後編です。それと、前編、中編までに、犯人へのヒントが結構出ていました。後編では殆ど犯人を言っているようなものなので、楽しみついでに解決されてはいかがでしょう?
 それでは、感想をくれた方々、大変ありがとうございました。
この作品に対する感想 - 昇順
いいですね。気になりますね。誤字が少し目立ちましたけどね・・・・。犯人気になるなぁ。 ていうか江戸前先生いいんかい?あんな先生学校いていいの・・・・
2004-04-20 22:55:26【☆☆☆☆☆】九邪
↓点数すいません。忘れてました。
2004-04-20 22:56:09【★★★★☆】九邪
誤字…気をつけます…すいませんでした! ↓
2004-04-21 16:23:30【☆☆☆☆☆】吉岡上総
計:4点
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