『永遠の時間  1〜2話』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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  1.「記憶」



  もしもたったひとつだけ願いが叶うならあなたは何を祈りますか?

  私は、時間がほしいです。

  あの人と同じ、時間がほしいですー・・・。


+++++++++++++++++++++++++++++++++

  ーもうすぐ一年か・・・。

  空を見上げながら、千佳はため息をついた。

  今日の空はとてもきれいな青空で、涙が出そうだ。

  いつもなら、胸の高鳴りが収まらない季節。

  でも、今年は違っていた。

  一緒に夏休みの計画を立ててはしゃぐ人が今年はいない。

  そのことを考えるだけで、とても悲しい気持ちになった。

  千佳はしばらく空を眺めていたが、こんなことをしていても仕方ないと

  思い、家に帰ることにした。

  「ただいま。」

  「お帰り、千佳。」

  家に帰ると、母親が温かい笑顔で迎えてくれた。

  「千佳。さっき光君のお母さんから電話があったわよ。

   明後日どうしますかって・・・。」

  −光。

  その名前を聞いた瞬間、悲しい記憶が胸が締め付けられた。

  とても・・・悲しい記憶が。

  「・・・千佳?」

  「・・・もちろん行くよ。後で電話しとく。」

  千佳の表情が沈んだのは明らかだったが、事情を知っている

  母は何も言うことができなかった。

  「あたし、部屋に行くから・・・。」

  そういうと、千佳は早足で部屋へと向かった。

  部屋に行き、ドアを閉めると、千佳はベッドに倒れこんだ。

  洗い立てのシーツの香りが、千佳を包む。

  千佳は、ほっとため息をついた。

  セミの鳴き声が、うるさいほど聞こえる。

  ベッドに倒れこんだまま、千佳はカレンダーに目をやった。
 
  何も書き込んでいない、真っ白なカレンダー。

  去年は、夏休みの予定で埋め尽くされていたはずなのに・・・。

  そう考えたとき、千佳の目にうっすらと涙が浮かんだ。

  「今年は・・・独りぼっちだよ・・光・・。」

  千佳はつぶやいた。

  去年とは違う。

  独りぼっちになってしまった。

  いつも一緒にいた人が、いなくなった。

  千佳はベッドに顔をうずめた。

  思い出すだけで、どうしようもない気持ちになる。

  そんな悲しいことばかり思い出している自分を消したくて、

  千佳は出かけることにした。

  どこにいくかなんて決まっていない。

  ただ遠くに行きたかった。

  ドアを開け、外に出ると、さわやかな風が千佳を取り巻いた。

  まぶしい日差しが、体中に降り注ぐ。

  あの日と・・・同じだ。

  千佳は、また深いため息をついた。

  吹いてくる風。

  まぶしい日差し。

  全部いつもと同じなのに。

  少しも変わっていないのに。

  どうしてあの人だけが、ここにいないんだろう。

  どうして・・・。

  いなくなってしまったんだろう?

  千佳はうつむきながら、考えた。

  そう。

  今日は、初めて愛した人が、自分を置いて、遠くに言ってしまった日。

  今日は、光の・・・命日。

  たった一年前まで、光は自分の隣にいた。

  千佳は目をつぶり、思い出し始めた。

  あの幸せな日々のことを・・・。




  〜一年前〜

 「ひーかるっ!一緒にかえろー!」

 「そんな大声出さなくても聞こえてるって。」

  光が苦笑しながら言う。

  その笑顔を見て、千佳の顔もほころぶ。

  光の笑顔は、暖かくて、何よりも安心できた。

  中二のとき付き合い始めてから、二人はずっと仲がよかった。

  春も、夏も、秋も、冬も・・・。

  ずっと一緒にいた。

  このまま、ずっと一緒にいられると思ってた。

  一緒にいるのが当たり前だったから・・・。

  当たり前すぎたから・・・。

  「ねえ。光。もうすぐあたし達が付き合い初めて二年目だね。」

  「もうそんなに経つんだな。」

  「ねえ!お祝いしようよ!二周年目のお祝い!」

  「一年前も祝った気がするけどな・・。」

  「いーじゃない!ねっ!約束。」

  「分かった。約束な。」

  こうして二人は約束を交わした。

  まさかこの約束が一生果たされないとは、この時は、

  知る術もなく・・・。



  「光、遅いなぁ・・・。」

  千佳は、時計を見た。

  今日は、二周年目のお祝いをする日。

  しかし、今日に限って光が来ない。

  いつも時間に遅れたことなんてないのに・・・。

  その時、ふいに嫌な予感がした。

  「まさか・・・光に何かあったのかな・・・。」

  千佳がここまで動揺するのにはわけがある。

  光は、生まれつき体が弱く、いつも病院通いをしている。

  倒れて病院に運ばれたこともあった。

  そのことが頭に浮かび、千佳はいてもたってもいられず、

  光がいつも通っている病院に向かって走った。

  そこに光がいると決まったわけじゃない。

  ただ時間に遅れているだけかもしれない。

  でも、なぜかそこに行かなければいけないような気がして、

  千佳は走った。

  (光・・・!)

  千佳の目には、いつの間にか涙が浮かんでいた。

  嫌な予感が消えてくれない。
  
  病院に近づくたび、不安が大きくなる。

  どうしてか分からないけど・・・怖かった。




  病院に着いたとき、息は上がり、体中が汗をかいていた。

  しかし、そんなことはどうでもよかった。

  乱れる呼吸を整え、千佳は病院に入った。

  そして、そこには、光のお姉さんが・・・いた。

  目には涙が浮かんでいる。

  その光景を見た瞬間、千佳の体は凍りついた。

  嫌な予感が、確信に変わろうとしていた。

  「・・・千佳ちゃん・・!!」

  千佳に気づいた光のお姉さんは、驚いたように目を見張った。

  「・・・光・・・は・・・?」

  震える声で、千佳は問いかけた。

  その問いかけに、光のお姉さんは辛そうな表情でうつむいた。

  そして、次の瞬間に返ってきた答えは、千佳を絶望の底へ

  突き落とすことになるー・・・。

  「つい・・・さっきだったの・・・。

   最後まで、千佳ちゃんの名前を呼んでたわ・・・。」

  「・・・最後まで・・・・?」

  「千佳ちゃん・・・。光は・・・死んだの・・・。」

  −ヒカリハ・・・シンダ。


  その言葉を聞いた瞬間、周りの音が聞こえなくなった。

  何も見えない。

  何も聞こえない。

  自分がどこに立っているかも・・・分からない。

  
  −光が・・・死んだ?

   そんなの・・・そんなの・・・。


  「嘘・・・。」

  千佳の口から、そんな言葉が漏れた。

  「嘘・・・。嘘でしょ?

   光が死んだなんて・・・そんなの・・・嘘でしょ?

   だって、昨日会ったばっかりなんだよ?

   また明日ねって・・・言ったばっかりなんだよ?」


  千佳の頭に、昨日の光の笑顔が浮かんだ。

  優しくて、温かい笑顔。


  ーあれが・・・最後?

   あの笑顔が・・・最後?


  「嘘・・・!嘘だよそんなのっ・・・!!」

  千佳は泣き叫んだ。

  嘘。嘘に決まってる。

  光が死ぬわけない。

  死ぬわけない・・・!!

  千佳は、信じることができなかった。

  どうして信じられるだろう。

  自分の大切な人が死んでしまうなんて・・・。

  しかし、冷たくなって動かなくなった光を見て、信じざるをえなく

  なった。

  光は、死んだ。

  そう理解した瞬間、千佳は、人目も気にせずに大声で泣いた。

  7月の暑い日だった。   

  私は、世界で一番大切な人を失ったー・・・。



  (もう一年経つんだ・・・。)

  千佳はまたため息をついた。

  つい一年前のこと。

  でも、遠い昔のことのように感じる。

  一年前まで、光は確かに隣にいた。

  隣にいて、笑ってた。

  ずっと一緒にいられると信じて、疑わなかった。

  だからなおさら、光がいなくなってからの時間は辛すぎた。

  朝目が覚めて、夢じゃないんだって思うたびに涙が溢れた。

  光との思い出があちこちに残っていて、辛かった。

  もう一度、光に会いたい。

  もう一度光に会えるなら、何を捨ててもかまわないのに。

  でも、その願いが叶うはずはない。

  永遠に、叶うはずのない願い。

  光は死んだ。

  もう戻ってこない。

  「何で・・・死んじゃったのよ・・・。」

  千佳はつぶやいた。

  なんで?

  どうして?

  そう考えたらキリがなかった。

  あの日から、もうすぐ一年経つ。

  でも、千佳の心は、あの頃のまま。

  止まってしまったまま、動けずにいる・・・。




  
  2.「さかのぼった時間」



   あなたを愛してるの。

   過去形になんてできない。

   愛してたなんていえない。

   今でも愛してるの。

   この気持ちが消えることなんてないの。

   あなたへの気持ちは永遠に色あせず、あたしの中に在るから・・・。


+++++++++++++++++++++++++++++++++

  千佳は歩いた。

  光のことばかり思い出して、悲しんでいる自分を消したくて。

  でも、歩いていると幸せそうなカップルとすれ違う。

  幸せそうな顔で微笑んでいる二人。

  そんなカップルを見ていると、胸が痛む。

  自分も一年前はあんなふうに笑ってた。

  隣にはいつも光がいて、幸せで幸せで仕方なかった。

  永遠に続くと思ってた。

  そんな幸せな時間が。

  でも、分かってしまった。

  永遠に続く時間なんてないことを。

  どんな幸せな時間も、いつかは終わってしまうことを。

  自分は知ってしまったから・・・。

  (いつまでも悲しんでたって、仕方ないのにね・・。)

  千佳は思った。

  あの日から一年も経つのに、どうして悲しみは薄れないんだろう。

  薄れるどころか、時が経つごとに、悲しみはますます大きくなる。

  そう考えたら、この悲しみに終わりはない気がした。

  こんな風に、ずっと忘れられなくて、ただ苦しむだけ。

  そんな日々が、ずっと続いていくのだろうか?

  今自分が、とても深い悲しみの中にいる気がした。

  とても、深い悲しみの中に・・・。


  千佳は歩くのをやめて、立ち止まった。

  空はこんなに明るいのに。

  どうして自分だけが、暗い所にいるんだろう。

  動けないまま。

  悲しみに、縛られたまま。

  いったい自分はいつまで、このままなんだろう。

  そう思った瞬間、とても大きな恐怖が千佳を襲った。

  (・・・少し。休もう・・・。)

  そう思って、千佳は近くの公園へ向かった。

  誰もいない公園のベンチに、一人座り込む。

  座ってからしばらくした時、千佳は無意識にポケットに手を入れた。

  「ん・・・?」

  ポケットに手を入れた瞬間、何か硬いものが手に触れた。

  (なんだろう・・?)

  千佳は、ポケットに入っていたものを取り出した。

  それは、昔光にもらった時計だった。

  可愛いピンク色の時計。

  壊れているのか、針は動いていない。

  (この時計、懐かしい。・・でも変だな・・。

   こんなところに入れてたっけ・・・?)

  違和感を感じつつも、千佳はその時計を愛しそうに見つめた。

  もう動かない時計の針を、ねじを回して動かした。

  (時計の針を逆に回したら、過去にいけるかな。)

  そんなことが起こるはずないのは分かってる。

  でも、そうせずにいられなかった。

  どんどん針を逆に回す。

  「え・・・?」

  その時、千佳は気づいた。

  針が、止まらない。

  もう回していないのに・・・。

  針はどんどん逆回りしている。

  そしてだんだん千佳の意識が遠のく。

  でも、不思議と恐怖はなかった。

  意識がなくなりそうになった瞬間、光の笑顔が浮かんだ・・・。

  そして千佳の意識は、深い闇に落ちていった。




  −ここ・・・どこ・・・?

  ひんやりした机の感触。

  風が吹いてきて、とても心地いい。

  ここは・・・どこだろう?

  はっきりしない意識で、千佳は思った。

  (起きなきゃ・・・。)

  そう思い、千佳はゆっくりと目を開けた。

  まだ重たいまぶたをこすり、辺りを見回す。

  そして、今時分がいる場所を認識した瞬間、千佳は自分の目を疑った。

  「・・・嘘・・・。」

  放心したように、千佳はつぶやいた。

  なぜなら、いま自分がここにいることはけしてありえないから。

  いま自分がいるのは、中学校のときの教室。

  二年前に自分がいた、中学の教室だったから・・・。

  「千佳?どうしたの?そんな驚いた顔して・・・。」

  後ろの席から、懐かしい声がした。

  千佳は後ろを振り向いた。

  そこには、中学校のときの友達の、亜紀がいた。

  (何で亜紀がここにいるの?!どうして・・・。)

  千佳は、混乱する頭で考えた。

  そして、一つの答えが出た。

  とても、信じられないことだけど。
 
  そんなこと、けしてありえないことだけど・・・。

  そうとしか考えられない。

  二年前、自分がいた教室。

  二年前のクラスメート。

  この状況で、考えられることは一つしかない。

  ーここは、二年前の過去なんだ。

  千佳はそう思った。

  自分が今いる場所は、確かに二年前にいた教室。

  後ろにいる女の子は、確かに二年前のクラスメート。

  ここは、二年前の・・・過去。

  そう理解したとき、千佳の頭にあることが浮かんだ。

  (・・・そうだ!ここが二年前の過去なら、いるはず・・・!)

  千佳は、教室を見回した。

  今は古典の時間。

  光は古典がキライで、いつもこの時間は屋上でサボっていた。

  そう思ったときには、千佳は教室を飛び出していた。

  「ちょっ・・・!千佳!?」

  亜紀の声が背中で聞こえたが、今は周りを気にかけている

  余裕はなかった。

  ただひたすら走った。

  階段を駆け上がり、勢いよく屋上のドアを開けた。

  「光っ!!」

  ドアを開けた瞬間、とても懐かしい人が、

  千佳に向かって・・・微笑んだ。

  「どうしたんだよ、千佳。そんなにあわてて。」

  記憶の中と、同じ笑顔で光は微笑んだ。

  ずっと忘れたことなんてなかった。

  ずっと、会いたかった。

  その光が、いま自分の目の前にいる。

  −夢・・・・・?

  一瞬そう思った。

  でも、体中の力が抜けて座り込んだ時のコンクリートの感触が

  夢じゃないと教えてくれた。

  夢じゃない。

  どうやら自分は、本当に時間をさかのぼってしまったらしい。

  光がいた頃に。

  とても幸せだった頃に。

  自分はまた・・・戻ってきた・・・。




  
            ・続く・
           

  

  

  

  
  

  

  

  

  

  

  
 



  

  

  

  

 

  

  

  

  
2004-04-20 20:18:44公開 / 作者:空
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■作者からのメッセージ
こんばんわ。やっと二話目を書くことができました。実はちょっとした手違いで、一話目を消してしまいました。だから今回は
一話目と二話目をまとめて書きました。
下書きを捨ててしまったので、一話目の内容が少し変わってしまいました。ご了承下さい。話は変わりますが、二話目はいきなり内容が飛んでます。主人公がいきなり過去に行ってしまいました。なるべく分かりやすく話を進めていくので、読んでもらえたら嬉しいです。ではこの辺で失礼します。
この作品に対する感想 - 昇順
見直したらまた空白が長くなっていました;気をつけたつもりだったんですが・・・。二度も同じ間違いをしてごめんなさい;
2004-04-20 20:37:03【☆☆☆☆☆】空
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