『仰げば青き空の下』作者:睦月 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約11.18枚

・  ・  仰げば青き空の下  ・  ・



0.



誰だって、理想とか持つもんやろ?
二十歳になったあーしたい、とか
結婚相手はこーゆーのがええ、とか
ドラマとか漫画みたいな恋愛がしたい、とか
ウチやって思っとるよ。
そりゃ、現実と理想のズレを知らない年でとちゃうけどさ。
いくつになっても夢は見るもの。
今のウチの状況なんて特に。今まで苦労してきてん。
せやから、少しぐらい夢見てもええやろ?

一足早く咲き乱れた桜をよそにウチは思った。
手元にある番号の書かれた紙。
この紙切れを、どれだけ緊張しながら受け取ったことか・・・
今となっては、思い出のひとつだけど。
ウチが期待しとるよーな、未来が待っとるワケちゃうけど、
おめでとう里中 春。がんばったなぁ自分。
さらば、無駄だった不安。こんにちは、ハッピー女子高生ライフ。






1.



合格者説明会、クラス発表、制服採寸・・・そして入学式。
中学と比べて、高校の入学式は簡単なモノだった。
時間までに体育館へ行き、自分の席を確認して、始まるのを待つのだ。

(なんか映画館に来た様な感じ・・・)

入学式だというのに、春は既に制服のブレザーのボタンは全開で
シャツの第一ボタンは外して、足を伸ばして、ぼ〜っと天井を見上げていた。
ざぁぁ  ざぁぁ 
入学式に似合わないのは春の格好だけではなく、天気もだった。

(早く来すぎやって。コレは。ウチのクラスの人、あんまし来てへんやん)

周りを見渡して、制服採寸の時に知り合った子がいないか、探してみた。
来てる人は、お世辞にも多いとは言えない。探し人もまだ来ていないようだ。
春は溜息をついて時計を見た。式が始まるまで30分以上ある。
そして、また天井を見上げた。少し汚い。公立の高校だから仕方が無いが。

(入学早々、こんなダルイ気分を味わうとは・・・いや、まだ入学してへんか)

電車が一緒だったのだろう、大量の新入生が体育館に入ってきた。
春は相変わらず、天井を見上げていた。
すると、一人の女の子が春を見つけるやいなや、春の元に駆け寄った。

「おはよう!」
「うわっ!驚かさんといてや」
「だって、このクラスで話しかけれるのって春ぐらいやねんもん」

春は突然現れた子―― さっきまで探していた子なのだが ――を見て
少し安心した。同じ新入生とはいえ、見知らぬ子ばかり。
話しかける気がなかなか起こらなく、暇を持て余していたが、
この子なら、話しやすい。

「制服、濡れとるやん」
「そうやねん!なんか、めっちゃ降ってんねん。スカートも濡れてもぉたし」
「美香。あそこにおる子って、同中の子ちゃうん?一緒に来んかったん?」
「ホンマや。奈緒やわ。今日は車で行くってゆーとってん。奈緒ー!!」

自分の席を探していたような子が、こちらに気づいて、走ってきた。
細い美香とは違って、少し太めの子だった。
美香は奈緒と呼ばれたその子との会話に夢中になってしまったのか、
春をほっといて、ひたすら喋っている。会話の内容からすると
中学の時の話のようだ。

(この手の話だけは入られへんわ・・・)

自分の知らない名前が次々と二人の口から出てくる。
その名前たちが春と二人の間に境界線をひいているようだった。
春はさっきよりも居心地の悪い状況に陥ってしまった。

『もうすぐ式が始まります。新入生と保護者の方は席についてください』

きぃんっと耳がつんざくような音を立てながら、
舞台の上で女子生徒がマイクで指示を出していた。

「ほな、ウチ戻るわ」
「うん、バイバイ〜」
「またぁ」

会話に参加しなかったものの、一応は別れの言葉を言った。
今まで立っていた新入生も慌てて、席に着き始めた。

「んじゃ、また後でね」
「うん、またぁ」

美香の苗字は「日下部」なので、出席番号は春と離れていた。
また春は沈黙するしかなかった。左隣の子はそのまた隣の子と同じ中学なのだろう
今も喋っている。割り込めるような雰囲気ではない。
右隣は男子で、物静かそうで、「僕に話しかけないでください」っという雰囲気が
出ていて、春はどうしようもなかった。

『静かにしてください。式を始めます』

また同じ女子生徒の声が体育館に響く。舞台の前で男性職員がマイクを持った。

(やっと始めるのか・・・)

土砂降りの中、春の高校生活が始まった。



2.



始めは顔と名前が一致しなかった子らも
少しずつだが、確実に覚え始めてきた。
そのぶん、だんだんグループができてきた。春は美香ともう二人、西川 亜衣と
山本 浩子と一緒にいた。美香は明るく能天気で、恋愛系の話が好きな子で、
亜衣は恋愛系は苦手だが、芸能関係に熱い子だ。浩子は少し大人しいタイプだが、
いつでも傍にいてくれる子だ。春はこの三人ととても波長が合うのか、
学校で四人でしゃべる時間がすごく好きだった。
グループには必ずリーダータイプがいる。春のグループのリーダータイプは
美香だったが、少々、暴走するクセがあるせいか、
人を引っ張っていくまではいいが、気づいたら手を離して、一人で進んでいく。
そんな感じの子だ。
そのせいか、時々、亜衣と美香は衝突することがある。そういう場合はいつも
春が浩子と協力して、仲直りをさせるのだ。春はこの子達を
美香は血気盛んな大将。亜衣は不屈の切り込み特攻隊長。浩子は寡黙な補佐役。
そして、自分は―― 裏で暗躍する軍師。それがお似合いだろう。
そう考えていた。

ある日、調理実習の班分けをした。女子二人、男子二人だった。
春は自分に回ってきた袋からカードを一枚とった。

(・・・なんやコレ)

普通、班分けのカードは数字が書いてあったりするものだ。少なくとも、今までの
経験からいって。しかし、今回のカードは何か、ポストカードを曲線で切った
モノだった。表には元は夕日の絵だったのだろうか、赤い背景に木々の姿が
ほんの少し描かれている、裏には何も無い。

「みんな取りましたかー?そのカードは一枚のポストカードになるので、
同じ絵のパーツを持っている人を探してくださいー!」

家庭科教師が声を張り上げて言っている。その声をきいて、クラス中の子が
立ち上がり、あちらこちらで「同じ絵の人ー」「どんなんやった?」「うわ、全然ちゃうやん!」と、声がする。
春も同じカードの人を探して、うろうろしながら声を出す。

「赤い色の背景のひとー誰かおらんのー?あ、美香は?」
「ウチ、緑やぁ・・・春とちゃうなぁ・・・」
「マジでぇ?うわー誰かおらんかなぁ」
「あ、オレ、赤やで」

横から声がして、右を向く。そこには自分と同じくらいの身長の男子がいた。
手には自分と同じ、赤色の背景のカードがある。

「あ、一緒なんちゃうん?見してや」

春は男子からカードを借り、自分のといろいろな角度からあわせようとした。
が、あわなかった。

「あれ?絶対、同じ絵やんなぁ?」
「やんなぁ?あ、もしかして、端っこ同士なんちゃう?あと二人おるしさ」
「あーそっかぁ。ほな、もう二人さがさなぁな」
「赤色の背景の人ー」
「ウチ、赤!」

また一人声が上がった。春はそれが誰のものかすぐにわかった。

「亜衣やん!やったぁ!!」
「春やぁーよろしくぅ!!」
「カード、見してや」
「うん、お、ピッタリやん!」

もう一人の女子が同じグループの子で嬉しかったせいか、
春と亜衣は男子をほっといて、話し始めていた。すると、男子のほうにもう一人
小さな男子が声をかけているのが見えた。どうやら、最後のメンバーらしい。

「全員、揃ったー?揃ったところから適当に座っていってくださいー!」

教師の声が教室に響く。春たちは一番近いところ―― 窓側の一番後ろに座った。
教師が白い紙をもってきた。それに班の番号と班のメンバーの名前とリーダーを決めて、書いておくこと。最後にそれが終わったら、買出しなどの役割分担を決めておくこと。と言って、去っていった。
まっさきに、筆箱からシャーペンを取り出し、白い紙に大きな字で「3班」と
書き出したのは亜衣だった。どうやら、亜衣のカードの後ろに「3」と書かれていたらしく、それが班の番号らしい。

「お名前をききまーす。春はわかっとるけど、男子二人、どうぞ」
「あ、オレ?鈴原 和也」
「西田 友則」
「トモノリってどう書くん?」
「友達に規則」
「あーはいはい」

亜衣は独特の字でさらさらと書いていく。
なぜか、春の名前が一番最初に書かれていた。

「んじゃ、次ー役割分担って何があるん?」
「買出しやろ?せやけど、みんなでは難しいよなぁ」

春は男子二人をみて言う。すると鈴原が言い出した。

「そうやなぁ。それやったら、アミダくじやって、
 当たった二人が行くってのは?」
「それ賛成ーほな、作るわ」

白い紙の裏に適当に4本の線が引かれてく。終点にはバツ印が二つ。
そして、四本の線をつなぐように短い線が横に走り出す。

(当たりませんよーに。亜衣とやったらええけど、男子とはイヤやなぁ。
 絶対、行く途中でシケたりするし)

「できまいしたー!ほんじゃ、はい、西田クンからどうぞ。ウチ、書いたから最後 にやるわ。」
「これ」
「はい、鈴原クン」
「こっち」

春の気持ちを他所にアミダくじが始まった。
春は残った右端と左端を見て、適当に右端を選んだ。
最後に亜衣が自分のマークをいれた。

「まずは鈴原からー!てぃーん、てぃきてぃきてぃんてぃんてぃきてぃき〜
 大当たりー!買出しよろしく」
「えーマジで?オレ、部活あんのに!」
「当たってんから、文句言わんの。運が悪かったんやって。
 ほら次、亜衣やろ?はよやりぃ」

文句を言う鈴原を尻目に、また妙なリズムで線を辿る亜衣のほうへ目線をかえる。

「はっずれー、西田クンは・・・はっずれー」
「そんじゃ、ウチ!?」
「運は悪かってん。あきらめぇ、里中」
「アンタに言われたない!」
「どっちにしろ、春やからよろしくー」

クジ運が悪いのは昔からなのだ。春は一人呟いた。
今日になって、初めて顔と名前が一致した男子、鈴原 和也。

(そいつと二人で買出しなんて・・・!!)



2004-04-24 01:27:48公開 / 作者:睦月
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■作者からのメッセージ
初投稿です。
ファンタジィでもない、現実と同じ世界観の
話になるので、つまらないモノにならないよう
頑張りたいです。
ここまで読んでくださって、
ありがとうございます。
この作品に対する感想 - 昇順
関西弁が読んでいて心地よかったです。あえて淡々と書かれたのでしょうか?それもリアリティがあって良いと思いましたv
2004-04-20 02:00:53【★★★★☆】律
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。