『ほわっとどぅーゆーせい?』作者:メイルマン / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1342文字
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原稿用紙約3.36枚

 午後3時、彼の体が突然に、少しずつ溶け出したかと思うと、一瞬の逡巡のうちに彼は目に涙をため、どこかへ駆け出し、その足が止まることはなく、汗がぽたぽたと地面に跡をつけ、それと同時に彼は少しずつやせ細るのだったが、それに少しもかまう素振りを見せず、むしろ時間を惜しむかのように加速していき、疾風迅雷とはまさにこのことか、あらん限りの力で走り続けるうちに、汗は上着をびっしょりと濡らし、急激に彼の体はうすっぺらぁくなってゆくが、己の姿形にはすでに関心がなく、道行く人の恐怖の視線も何のその、ただただ目的地へと、目的地へと向かうのみと、必死の形相で道を往き、強烈な風がひとたび吹けば、彼の体から大量の汗が、風に流され飛んでいき、それによって出来あがった、骨が透けて見えそうな己の左腕の皮膚を見るに、悲しさと同時に沸きあがるのは笑いだろうか、死人よりひどい顔をさらして、公園の砂利道で前のめりになって転べば、全身からの汗は地面に染み込み、己の間抜けな姿が砂利にくっきりと、あははと笑った口の中の舌はすでに一本の糸、からからに乾いた口に固い歯の感触を確かめる間にも、汗は彼から異常に流れ出て、彼はなくなっていくのだった。
 あれは確かに3年前、謎の奇病にかかった彼が、医者に言われたあの言葉、嗚呼嗚呼何とむごいことか、余命はたったの2年であった、奇病特有の発作が起こると、体の細胞がそれぞれ分離を始め、滝のような汗が彼の体を抜け出でて、その汗に彼の体の細胞が乗っかるように、徐々に彼は溶けていくうえに、少しの風でも細胞達は、垢のように舞っていってしまうが、解決策は何一つなく、ひたすら薬を飲んで耐えるのみで、それも体に抗体ができてしまえば役には立たず、概算2年で彼の人生は終わる予定であったのだが、2年が過ぎて抗体ができ、次の発作が別れの時と思った時から、発作は全く起きず鳴りを潜め、これは天が与えた褒美かと、1日でも多くの時を生きようとしてきた彼なのだが、今日ついに、最後の発作が突然起こった次第。
 いつ自分が溶けきるかわからない、名状しがたい恐怖の中で、それでも彼は懸命に走るが、もう顔には生気があるはずもなく、四肢は骨に皮がぱらりとかぶさっている状態で、すでに筋肉も消えた体の、どこから走る力が沸くのだろうか、人にあらざるモノになっても、彼はひたすら走り続け、気付いてみればもうすぐ夕暮れ時で、この世の最後に夕焼けを、と思うがそんな時間はかけらもなく、せめて空でもと思い、ちらりと上を見上げると、灰色の雲の下を飛ぶ2羽の鳥に幾分満足し、己の死を間近に控えた時の世界は、こんなにも美しく見えるものかと、思った瞬間見えた生鮮果物屋の、中に急いで入ろうと、駆け込む2秒前に吹く突風で、彼の体からついに細胞が消え去って、もう皮すらも認められず、ただの骸骨となった彼に残された意識は、急速にしぼんでいったのだったが、最後の気力を見事振り絞り、悲鳴をあげる買い物客を無視して、彼の人を見つけ出すと、最後に一言ありがとう、と呟いて崩れ落ちる彼に近づく女性は、涙を流して泣き叫びつつ、遠く周りを囲む人々にもかまわずに、息子の骨をそれはそれはきつく、ぎゅうっと抱きしめたのだった。

 完
2004-04-19 23:58:41公開 / 作者:メイルマン
■この作品の著作権はメイルマンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
色々と試行錯誤しましたが、これで一応の完成としたいと思います。
皆様の貴重なご感想、心よりお礼申し上げます。
この作品に対する感想 - 昇順
うーん。コメント難しいですね。独特の雰囲気ですが、一般向きではないかもしれません。ダイゴウロで見えていただいた勢いみたいなのはそれほどないですが、味のある作品ではあります。よくかまないと、判りにくかったですが。句読点の使い方なんですが、これは意識的ですかね。点数もつけづらいですが、何か気づいたところがあればまたコメントしてもいいでしょうか?
2004-04-17 01:10:56【★★★★☆】晶
実験的というか挑戦的というか、私などはこういうのを見ただけでワクワクしてくるのだが。実際に読んでみても、「いつ文章が終わるのだ、まだか、まだか」という読者の焦りと、残された時間が少ない主人公(?)の焦りがシンクロして、超長文の効果が抜群に出ていると思った。 欲を言えば、明らかに文章が切れているのに読点で無理矢理繋いでいるところが何箇所かあって、ここまでやるからにはそういう隙を見せてほしくなかった。 いやあ、面白かったです。
2004-04-17 01:13:19【☆☆☆☆☆】TAMA
晶さん、TAMAさん、白雪苺さん。ご感想ありがとうございます。晶さん、句読点のつけ方は意識的です。一気に読み手に情報を流し込む、というか、そういう風になるように努力してみたのですが・・・・・。技術が足りずわかりづらくなってしまい申し訳ないです。コメントはどんなものでも大歓迎ですので、どんどんお願いいたします。あと、ダイゴロウの時の勢い、というのがよくわかりません(汗)、具体的に教えていただければ恐縮です。TAMAさん、無理やり感は感じていたのですが、いびつな感じを与えてしまってすいません。不自然につなげたところは、その後に文章を追加すれば自然にできたのですが、作品が長くなってしまうので悩みました(汗)。今後も精進していきますのでご指導よろしくお願いします。白雪苺さん、全て作者の技術不足によるものです。申し訳ありません。今後もご指導よろしくお願いします。最後の2文の区切り方を、白雪苺さんならどうするでしょうか? 参考までに聞いてみたいのですが、もしよろしければお願いいたします。更新し、少しだけ文章も変えてみました。
2004-04-17 14:58:39【☆☆☆☆☆】メイルマン
まだまだ試行錯誤されているご様子なので再度お邪魔して私案を一つ。 この作品の浪曲的な部分(本文中の読点は「息継ぎ」とか「合いの手」のようなものだと見ている。いや私も実は浪曲をよく知らないのだけれど)をさらに強調して、口にした時のリズムに完全なる重点を置いて文を練ってみてはどうか。この場合、例えば「〜余命はたったの2年、」「〜垢のように舞い飛ぶが〜」「〜薬を飲んで耐えるのみ、」(全て第二文)といった感じで、余分な「拍」を削っていく作業がメインになるだろうか。 それが他者にウケるかどうかは別にして(笑)、一意見として少しでも参考になれば幸い。
2004-04-17 17:24:34【☆☆☆☆☆】TAMA
。が少ないんですね。 奥の細道の冒頭を思い出しました。こうゆう作風も面白いものがあってイイと思います。 個人的には好きですよ。。
2004-04-18 17:44:56【★★★★☆】藍
TAMAさん、冴渡さん、藍さん。ご感想ありがとうございます。一気に読み手の頭にイメージを流し込む! これができないんです(泣)。なかなか上手くいったかなー、なんて思ってたんですけどね・・・。TAMAさん、貴重なご意見ありがとうございます。リズムを意識した文を書いてはみたのですが、うまくいきませんでした><。説明しすぎな部分としなさすぎな部分で別れてしまうんです・・・。ううん・・・。まだまだ勉強不足のようで。 精進しなければ(汗)
2004-04-18 19:05:34【☆☆☆☆☆】メイルマン
独特の雰囲気と緊張感が凄いと思いました。短い文でこれまで表せれる表現力に脱帽です!会話が無い、ということで「読みにくいかな?」とか思っていたんですが(個人的に会話の部分が好きなんです)、読み進めていけばサラッと最後まで読めました。深い世界観なのに、難しく感じさせない文章が素晴しいと思います。読み手に伝える説明の仕方が上手くて凄いなぁ、と思いました。面白かった、の一言です。
2004-04-19 06:50:16【★★★★☆】シイナ
うーん 話の方向性の違いかもしれませんが、読者を巻き込むストーリーというか、つい読ませてしまう雰囲気というか、(漠然としていて意味わかりませんね、ごめんなさい) だからダイゴロウと一緒に語るのは間違ってたのか知れませんが。一気に読み手に情報を流し込むとありますが、情報処理速度が追いつけば、味のある作品です。ただ自分は眠い頭で読んでしまったため、二回三回と読み直すハメになりました。(ごめんなさい)
2004-04-19 10:39:58【☆☆☆☆☆】晶
シイナさん、晶さん。感想ありがとうございます。シイナさん、お褒めに預かり光栄です^^。ものすごく励みになります。ありがとうございます。晶さん、続けての感想ありがとうございます。つい、読ませてしまう雰囲気ですか・・・。こういった作品では難しいかもしれないです><。ですが頑張りますよ!いつかまたこういった感じの作品を書きたいと思ってます。感想ありがとうございました。 2文目が中だるみかも・・・(反省)。
2004-04-20 00:04:19【☆☆☆☆☆】メイルマン
あれよあれよと(古い・・・)いう間に話が進んでいて、こういう変わったテンポ、面白いと思います。私としては「うすっぺらぁく」が好きです。そこでふふりと微笑してしまいました。
2004-04-20 00:07:31【★★★★☆】蒼蛾(そうが)
正直、スゴイと思いました!この迫力ある文章は。まるで昭和初期の日本探偵小説(本格ではなく、怪奇・幻想派のほうです)の一編を読んでいるかのような、錯覚に陥りました。参考になりました。
2004-04-20 17:46:02【★★★★☆】卍丸
私は、文体はこれでいいと思います。ただ、最後の『息子の』が『彼の』であったら、間違いなく私は泣いたでしょう。
2004-04-23 11:12:54【★★★★☆】バニラダヌキ
計:24点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。