『殺戮の使徒 序章、第一章』作者:自刃 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 殺戮の使徒


 かつて師は弟子に尋ねた。
「お前は、その力を何の為に使う気だ?」
 弟子は、手に血まみれの剣を持ち、鋭い眼光を師に向けて答えた。
「俺に刃を向ける者を殺すため」
 揺ぎ無き答えと共に、血まみれの剣は振り上げ、振り下ろされた。


序章


――気が付いた頃には、彼は手に剣を持っていた。

――物心が付いた頃には、彼は人を殺す事に躊躇が無かった。

――過ぎた頃には、彼は贖罪を受ける準備が出来ていた。


 アルカナ大陸に<殺戮の聖剣>(ヴァイディリッパー)と呼ばれる黒剣が存在する。

<殺戮の聖剣>は、かつてアダムを誕生させて、又、死の管理者であるアズライールが、人から捧げられた剣。

 アズライールはその剣を受け取らず、大量の生命を使って作ったため、邪悪な物と判断し、地に深く埋められて封印された。その際アズライールは“その剣には人の魂を操る力がある”と言った。“その剣によって殺されてもそれは罪にはならない”、“その剣はすべての贖罪を受ける事が無い”と言った。

 人々は権力を持ち始めた。そして欲望を持ち始めた。人々はアズライールが封印した<殺戮の聖剣>を掘り返した。

<殺戮の聖剣>を手にした者はその強大な力と罪とならない殺人を犯した。人々は、誰もその者を咎める事が出来なかった。しかし、剣は持ち手に力を貸した代償として、その者の魂を奪った。

<殺戮の聖剣>は、再度封印された。

そして、封印は解除された。


第一章 〜知られざる旅〜

 リク・アジェリクト。アルカナ大陸で、この名を知らない者は、恐らく存在しない。真っ赤な外套服に黒皮のパンツ、腰にはベルトで縛られ、鞘に収められた2本一組、計4本の剣。鞘の形状は個々に違う。太股にはベルトで縛られている五十口径の自動拳銃でかなりの重装備である。
 銀髪に、獲物を狙うような鋭い翡翠色の瞳。顔は美貌とも言える綺麗な顔立ちをしている。表情にはどこか悲しい様子が伺える。
 彼は、銀髪を靡かせながらコンクリートで出来た巨大な建造物の中へと入っていく。中は半径百メートルの円状の形をしている。中央には受付、周りには何かカウンターらしい物があり、そこに人々が列を作っている。更に、カウンターの上を螺旋状の階段が蛇のように上っている。
 リクは、黒皮の靴を床で鳴らしながら、周りを気にする事無く受付の方へと歩いていった。
「ソル・アルケリスに呼ばれた。」
 リクは鋭い声で、受付嬢に声を掛けた。受付嬢は黙って、何か記入しそれをリクに渡した。リクはそれを見もせず黙って服の内側に閉まってしまった。
 リクはまた歩き始め、奥の階段に足を掛け、螺旋状の階段を上っていく。上っている途中で知り合いに何度か声を掛けられたが、黙って頷いた。
 階段を上り終えると二つ扉が目の前にある。リクはその扉を開いて中に入った。
 中は、先と同じ円状で、部屋の真ん中には、この部屋の三分の一ぐらいの円卓があった。そこに、一人の初老が椅子に座っている。
「アジェリクト……」
 初老は唸るようにリクを呼んだ。リクは一旦足を止めたが、また足を進め初老のいるところまで進んだ。
「ソル・アルケリス翁」
 唸るソルに対して、リクはしっかりとその名を呼んだ。
「アジェリクト、大変な事になった」
 ソルの言った事に、リクは黙って頷いた。大変な事は誰もが知っていた。
 この建物は“アーク”と呼ばれる。このアルカナ大陸を治める巨大な組織、そしてこの組織に所属するある有名な部隊が存在する。
 罪を犯して罰を受けぬ者を、アークの権限によって、闇に紛れて殺害する事を仕事とする部隊、それは“シャドウ”と呼ばれ、リクはシャドウに所属し、また、個人的には傭兵として動いている。
 ソルが言った大変な事とは、かつて封印されていた聖剣<殺戮の聖剣>が、ある者によって盗まれた。
 <殺戮の聖剣>は大量の生命、完全なる物質と聖性と魔性を混合させた最強の黒剣。
 この剣を持つ事が許されるのはシャドウの頂点に立つ者。現に今、シャドウの頂点はリク。
 剣はアークの奥に保管されていた。リクがソルから剣を受け取る時、ソルがリクに剣を渡そうとした瞬間。ある者が剣を盗み逃走。現在、アークのシャドウが全力で捜索、しかし、すでに一年も時が経過しているが未だに見つかっていない。
「あいつは、俺が斬る」
 リクは片膝を付いて、座っているソルと同じ目線に合わせて言った。
「アジェリクト、汝に斬る事が出来るのか? かつて愛した者を……」
 リクは拳を強く握り、目を伏せ、立ち上がりソルに背を向けた。
 ソルは黙って赤い外套服見ている。背中にはアークの聖印が描かれている。この聖印によって外套服の防御力が上がる。
「アルケリス翁、俺は行きます」
 何か決断したかのようにリクは言った。ソルは黙って頷いた。リクは部屋で、そして外へと出た。 
 外は、先ほどより冷たいが風吹いている。
 夕暮れの中、赤い外套服を一層赤く染め、まるで血の様だった。リクは街の方へと足を進めた。
 クレヌンスと呼ばれる街は、今カーニバルで騒がしい、町には出店があり、狭い道をより狭くし、行商人が客と交渉している。
 リクはごった返す街中を歩き、人通りの少ない路地裏に入った。路地裏は静かで、妙な湿り気があり、周りには家無き者が、行く人に手を出して物乞いをしている。
「リク」
 誰かに呼ばれた。リクはその声の持ち主を知っている。だから路地裏を進み声の持ち主に出会った。
「ゼルグ」
 路地裏の奥の角を曲がると、そこにはリクよりは、遥かに年を取っている中年の男性が立っていた。第一印象は口元を囲む無精髭。一見、そこら辺にいる物乞いとは変わらない服装だった。
 リクは男の名を呼んだ。ゼルグ。そう呼ばれる男はリクの目を見ると、黙って懐から数枚の書類を手にし、リクに渡した。
「個人的な仕事だ」
 ゼルグがそう言うとリクは書類を見た。書類は全部で五枚。一枚目には名前と写真が貼られていた。写真の下には“目標”と掛かれ、残りの四枚は男が住んでいる周辺の地図だった。写真には男が写され、その男はリクと変わらないぐらい若かった。
「随分と遠い所だな……」
 リクは呟く様に言った。ゼルグは手平を上にしてリクの前に出した。
「ゼルグ情報屋は、情報料が高くて困る」
 ゼルグは情報代を求めた。リクは服の内側の懐中から畳まれている紙幣を取り出し、ゼルグに渡した。ゼルグは黙って紙幣の数を数えて、その数に納得してリクに背を向けて歩き出した。 書類を服の内側に入れて、カーニバルが行われている街中へと戻った。
 カーニバルは、街の中心に行くほど騒がしく、人ごみが増している。リクが住まいとしている宿は、ちょうど中心街にある。リクはその人ごみを掻き分けて、やっとの事で宿へ入ることが出来た。そう思ったが、宿も観光客と商人で一杯だった。
「よう、聖堂の騎士さん。悪いね、こんなに人が多くて。あんた、人が多いところは嫌いだったろう」
 話しかけて来たのはここを宿営する主人。筋肉質の彼は、その筋肉を誰かに見せ付けたいと上半身はいつも裸である。中年にもなっていい加減ふざけた事は止めろと、一度リクが言ったものの、主人は無反応だった。
「別にいい。それより明日から出かける。部屋を三日間は空ける。」
 主人はタバコを口に銜え、片手を上げて返事をした。リクは二階ある自分の部屋へと行った。そして部屋の鍵を掛け、四本の剣をベッドの横に置いて、銃を風呂場の近く置き、服を脱ぎ湯に浸かり、寝巻き姿になるとベッドに横になった。
 カーニバルは夜になっても終わる事が無い。この街のカーニバルは三日間昼夜行われる。
 リクはベッドに横になりがなら、時折窓からカーニバルの風景を見ている。
「レイン、どうしてだ……」
 リクは寝言を言っていた。夢を見てうなされている気配でもない。
 リクが口に出した名前、レイン。
 レイン・クルレイス。彼女こそが、<殺戮の聖剣>(ヴァイディリッパー)を盗み逃走した本人である。
 彼女は、リクと親密な関係を持っていた。お互いアークのシャドウに所属し、同棲を始め、嬉しい時は二人に喜び、悲しき時は二人で泣いた。そんな仲でありながら、レインのアークに対する反逆的行為は大断罪として、アークは彼女に懸賞金を掛け、シャドウに彼女の抹殺と、<殺戮の聖剣>の奪回を命じた。
 リクは、彼女を他のシャドウ以上に追ったが、彼女は各地で力を着け、一つの勢力へと姿を変えた。そのため、リクが彼女を追おうとしても、レインに味方した勢力が誤った情報をアークに通達、この一年間、アークでは誰一人として彼女を見た者はいない。
「俺が、お前を……」
 リクは最後まで言わず目を覚ました。朝日が窓から射し込み、リクの銀髪を光らせている。
 リクはベッドから降り、服を着替え銃の整備に取り掛かった。その後に四本の剣を慎重に扱い刃を綺麗に拭き取った。その内一本だけが真っ赤だった。

「おっ? もう出掛けるのか?」
 宿の主人が、朝早くに降りてきたリクに言った。リクは何も言わず、黙って頷いた。
「三日後に戻ってくる。部屋を掃除しておけ」
 リクは強い口調で宿の主人に言った。主人はへいへいと言って返事をした。リクは宿を出た。外は昨日ほど騒がしくは無かったが人々は朝早くから騒いでいる。
 リクはアークとは逆方向に進み、街の領地を出て別の街へ足を進めた。
2004-04-11 17:50:00公開 / 作者:自刃
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■作者からのメッセージ
二回目です。
がんばって書いてみましたが……う〜んどうだろう。
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