『耳と、ひげと、爪と』作者:はるむらい / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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朝は、何でも新鮮で。

  ♯1 不審者


<自宅付近・ゴミ置き場にて>
 「うるさいの。どいて」
 そう声をかけたところで、カラスには理解できないことなどわかっている。わかっているが、長い付き合いだ。愛着もわく。
 ここのゴミ置き場は、からす除けに上下にスライドする扉をつけた大きな箱型になっている。言わば巨大な『ゴミ箱』である。しかし、このカラスは他より頭が良いのかこの扉を開け、ゴミをあさる。
 「あんたもよく捕まらないでいられるね」
嫌に人を恐れないカラスに向かって一瞥をくれると、カヅサはゴミ袋を投げ込んだ。
と、
「痛っ」
「!」
投げ込んだゴミ袋が誰かに当たってしまったらしい。おかしい。こんなゴミの中に何故人がいるのか。不審者だ。絶対そうだ。
悪臭と不審者に少々躊躇ったが、『ゴミ箱』に頭を突っ込み奥を覗き込んだ。
「・・・・・・・何してんですか?」
 そこには若い男が一人、ゴミの中に埋もれていた。男はのんびりした口調でこう言った。
「こんにちは」
この男はこんな所を見つかったっていうのに、何を悠長に挨拶などしているのか。カヅサは呆れながらも挨拶を返した。
「こんにちは、不審者さん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互いに沈黙。とりあえず男に敵意は無いらしい。見慣れない男。この辺の者ではないだろう。カヅサはザッと男を観察した。
 凶器になりそうな物は持っていない。長身に金髪、スッとした鼻筋、人なつこそうなアーモンド色の目。街中を歩いたらスカウトされそうなほどの美形である。好みではないが。
ゴミを漁る理由が何であれ、ここは人のナワバリだ。断りも無く入ってくるとは世間知らずもいいところだ。大方、誰かに飼われでもしていたのだろう。自分はともかく、他の仲間が何をするかわからない。丁重にお引取りいただこう。
「ここは私たちの島です。仲間があなたを見たら何をするかわかりません。殺されたって文句は言えませんよ・・・ってそりゃ当然か。とにかく、即刻立ち退いてください」
「はぁ・・・」
厳しい口調で言ったのだが、男は納得したのか何なのか曖昧な返事をした。わかっているのだろうか。キッと睨むと、男は首の後ろを掻きながら俯いてしまった。
「ちょっと、出て行くの、行かないの、どっち!?」
先ほどよりも強くカヅサは怒鳴った。この男に危機感というものは無いのだろうか。仲間に見つかれば大事だ。カヅサは出来れば殺すようなことはしたくないし、かといって見逃すわけにもいかない。どうしようドウシヨウ・・・
 男は困ったように片眉を上げてカヅサを見上げている。
 焦っているのは自分だけかと思うと、カヅサは空しくなった。
黙っていると、男が顔を上げた。
「あのぉ〜ですねぇ・・・」
「・・・なんですか」
やっと出て行く気になったのだろうか。カヅサは男を見下ろすのを止め、腰を屈めて男に目線を合わせた。
 その視線に気まずくなったのか、男は身じろぎしながらまた俯いてしまった。
 カヅサはため息をつくと周りを見渡した。幸い誰も見ていないようだし、誰かが隠れているような気配も無い。カラスはいつの間にか何処かへ飛んでいってしまった。
 「やっぱり・・・出て行かなくちゃいけませんか?」
やっと会話になるような事を言ったかと思えば、そんなこと。カヅサは再びため息をついた。
「さっきから出て行けって言ってるのに、わからない人ですね」
冷たく言い放つと、カヅサは立ち上がった。もういい。付き合いきれない。これだから人間寄りの奴は嫌いだ。誰も彼もが助けてくれると思い込んでいる。
「申し訳ありませんが、私も暇じゃないんで。どうにでもお好きなように。忠告はしましたからね」
クルリと振り返ると、カヅサは自宅へと歩みだした。
「ま、待ってください!」
男は慌てて『ゴミ箱』から這い出すと、カヅサを追ってきた。側に来た男から漂う悪臭に
顔をしかめながらも立ち止まってやる。
 男はカヅサの腕を掴むと、コンクリートの地面に頭が付くほど体を曲げた。
「お願いです、拾ってください!」
「!?」
 この男は何を言っているのだろうか。カヅサは困惑した。
「じょ、冗談じゃない!なんであたしがあんたの飼い主しなきゃいけないの!?あたしは人間なんかじゃないっての!」
彼の掴んだ手を振り払おうと腕を勢いよく振ったが、払えなかった。それどころか掴む握力が強まった。
 「痛いって・・・」
カヅサは睨み付けようとしたが、彼の目を見たとたん力が抜けた。
 その目は、あまりにも悲しすぎた。
 男は薄い唇を割って、ゆっくりと話し出した。
「俺・・・ご主人に捨てられて・・・何にもわかんなくて・・・。君がさっき言った様な
 こと、隣の島のひとにもいわれて・・・ここに来たんだ。君は・・・まだ話しも聞いて
 くれるし・・・。もしかしたらって、思って・・・」
可哀相だがよくある話だ。どうやら彼は本当に世間知らずらしい。カズサは興ざめしつつも、彼の目から目を離せなかった。
 「悪いけど・・・飼ってはあげらんない。あたしだって人間じゃないもの」
「そうですか・・・」
 彼の目が伏せられたことをカヅサは残念に思った。そんな自分が信じられなかった。
 この時にはもう、気付いていたのかもしれない。
「飼ってはあげられないけど・・・」
「え?」
男は目線を上げた。アーモンド色の目がカヅサを見つめる。
「行くところ、決まるまでだったら置いてあげる」
アーモンド色の目が輝く。
「本当に、マジで!?」
「大したもてなしは出来ないけど・・・」
「とんでもない!!」
男はやっと手を離すと「ヤッター」と万歳をしている。
 仲間に見つかったらあたしが血を見るかも、そう思いつつも何故か嬉しい自分にカヅサは戸惑った。
 戸惑いを振り払うためにカヅサは尋ねた。
「あんた、名前は?」
万歳をやめ、男は振り返った。
「ウィリーっていいます!」
「じゃウィルね。あたしはカヅサ」
「よろしくお願いします!」
 元気いっぱいの彼に、カヅサは目を細めた。
 いつもの朝の、いつもじゃない出来事。
 太陽はゆっくりと昇ってゆく。
           
                              *続く*
2004-04-11 03:04:04公開 / 作者:はるむらい
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■作者からのメッセージ
はじめまして、「はるむらい」です。
お気付きとは思いますが、出ている二人、人間ではありません。
何であるかは・・・まだ言いませんが後々はっきりしてくるでしょう。(多分)
なるべくキャラを生き生きさせようと頑張りましたがいかがなもんでしょう・・・?
これからも頑張って続けていきます。心優しい方、続編読んでくださると嬉しいです。
それから色々アドバイスとかくださるとありがたいです。
はるむらいでした。
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