『鍵の本 序章』作者:自刃 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 木。
 広大な面積に、何千年も存在する巨大な樹木。木々はその広い面積に、何百本と生え茂っていた。
 地面には草花が生い茂っている。空は、雲ひとつなく常に晴れ。
太陽が眩しい。
太陽の光は木々の葉を照らす。
枝の間から漏れた太陽の光は草花に当たり、その当たった部分だけ他の草花より背丈が高く、大きい。
 森の手前には小さな村がある。円を描くように建造物が多く並ぶ。
中心には人魚を模して作られた高さ2メートル以上はある石造が存在する。人魚の像は両手に剣を持ち、胸の辺りで掲げている。
人魚の像の周りは、青い水が囲むように存在し、その周りを地面が泉が囲んでいる状態。四方に用意された橋で中央に行くことが出来る。
村は、半径六百メートルの小さな村。名も無い。
しかし、森には名がある。いつの間に呼ばれるようになった。森の名。
“真実の森”と………

 「……痛い」
 森の中で目を覚ましたのはまだ幼き少年だった。
 翡翠のような碧の瞳。黒い短髪、光の加減で赤くも見える。髪の前後、センターだけを伸ばしている。後ろは腰の辺りまで伸ばして、先の方を、赤く細い紐で結んでいる。服装は純白の布で、体を覆い隠すだけにあるようなものだ。
 少年は、自分の状況を把握できず、痛みで目を覚ました。
 起き上がり、痛みのある右肩を見た。傷は擦り傷、血もあまり出ていない。
 少年は裸足のままだった。その足で道無き道を、ただ、歩いた。
前を見ず、左右に前へ出る足を見ながら進んだ。草花を踏み、枯葉を踏み、枝を踏み歩いた。しばらく見ていると、足の指先から血が滲む。
痛みが無い…。痛みが無いことを疑問には思わなかった。少年は、血が出る足を見るのに耐えかね、前を見た。
光が見えた。少年は、その光向かって進んだ。
 光の中へと入る。そこには木が無い、短めの草が生えた草原だった。ドーム状に光がその場を覆い。半径五百メートルの円を描いていた。
草原の端には家があった。一階建の柵で囲まれているテラスがある木製の家。その後ろには黒く紫混じった巨大な物体が存在した。
少年に、その物体が何かはわからない。でも、テラスには、人がいた。
 少年は家に近づいた。少年と家の距離は十メートル程度。
テラスには、小さく丸いテーブル、その上にはボトル二本と、厚みのある本が数冊、一冊だけ、開いたままの本があった。
 テーブルの脇には椅子、腰を深く掛けられるような椅子。そこに座っているのが、誰かは分からない。顔には、開いた本を載せて寝ているようだ。
だが、少年には分かることがあった。椅子に腰掛け、寝ているのは男だという事。そして、その男は危険であるという事。
 それは、男の腰には太目のベルトがあり、腰の両脇には大型の拳銃が収められているホルスター。柵に立てかけている巨大な剣。
 それらを見た少年には、恐怖が体を襲い。後ろへと二、三歩、下がった。
 「…誰だ?」
 少年は驚き、男の方を見た。男が顔の本をテーブルに置き、立ち上がった。
 少年は、逃げようと体を反対方向へ向けようとした。しかし、体動かない。体が軽い。気づけば少年は宙に浮いていた。男は後頭部に手を当ててテラスから草原へと出た。少年は手足をバタつかせて抵抗した。
無駄な行動だった。男は右のホルスターから、白銀で、綺麗な銃を手にして、少年の額に銃口を向けていた。銃は、四十四口径の自動装填銃。全長二十五センチ。弾数、十二発プラス一発。
男は親指でハンマーを落とし、安全装置を解除、トリガーに人差し指を掛けた。
「ここは、お前の来る様な場所ではない。それは村の者なら誰もが知っていることだ。」
「あっ、うわっ、ぼ、ぼくは…」
ジタバタする少年に、男は迷いも無く銃の引き金を引いた。弾丸が銃口から発射、マズルフラッシュに目を暗ますことなく、男は少年を見て、空薬莢が飛んだ。男の右手は反動で大きく動いた。弾丸は少年の額に命中。少年は顔を下に向けて動かなくなった。
「い、痛い…」
少年は右手で額を撫でた。血が出ている。血は少年の頬を通って、顎から下へと流れ落ちた。男は少年の真下を見た。そこには赤い血がついた弾があった。薄く煙を上げている。
『どうやら、あなたと同じようだ。』
家の後ろから低音で、重い声が聞こえた。その後、喉を鳴らすような音が聞こえた。少年が家の後ろにある巨大な黒い物体が動いた事に気づいた。その物体は翼を広げて顔をこちらに向けた。
翼は、信じられないほど巨大だった。そのまま黒い翼で太陽光を遮断した。
バハムート。
龍より巨大な体。ワイバーンより巨大な翼を持つ。天地を制覇すると言われている生物である。バハムートは腕のような前足を伸ばし、エンの両脇に置き、後ろ足は膝を着いていた。家の数倍ある体の背中からは翼を大きく広げ、顔は少年の方を見ていた。
瞳。
大きく真紅の濁りの無い目は少年から視線を外さない。
「リオン。こいつは人間だ。」
バハムートをリオンと呼んだ男は苦笑し、体を後ろへひねりリオンを見上げた。その間も少年の額からは少量の血が流れている。少年は半泣きで男を見た。
『リヴィルオ。彼を放してはどうだ?』
誰もが怯える。鋭く、凶悪で、残忍さがすぐにわかる黄金色の瞳のリヴィルオと呼ばれる男は、リオンの言葉にすこし悩み、銃のハンマーを戻し、ホルスターに収めた。
そして、パチンと、右手の指を鳴らした。少年の体には重力を感じた。少年はゆっくりと地面に足を付けた。未だに、少年の額からは血が流れている。更にもう一度指をパチンと鳴らすと血が止まり額の傷と方の傷、そして足の傷も塞がった。
「おい、名前はなんと言う。」
リヴィルオが少年に尋ねた。少年は頬の血と涙を手で拭い、怯えながらも、少年はリヴィルオの近くまで歩いて来た。
リヴィルオを見た。そして、
「ゼルド…」
と、自分の名を言った。時にゼルドは四才。時にリヴィルオ、二十五歳。時にリオン、二百四十一歳。

二年後………
「ゼルド、奥へ行ってはいけないと言われているでしょう。」
「だって、あんな狭いところじゃつまらないよ。」
短いベストに黒の皮の短パンと、軽装備の姿で、ゼルドは、森の中を走っていた。
ゼルドの走っている場所には道がある。道は真っ直ぐ、赤土で出来ている。道の端は雑草がレールを引いている。人はいないが、動物は多くいる。ここにいる動物のほとんどは力を持ち、人語を理解する、そのため、リヴィルオやゼルドは真の森の住人との争いがまったく無い。
「ゼルド、良いのですか?またリヴィルオにお叱りを受けますよ。」
ゼルドの後を追うのはリオン。一部、力の持っているバハムートは、自分の体を変化させることが出来る。リオンは自分の体を人間の体に模している。模していると言っても、顔や体は世界にひとつだけのオリジナル。
リオンはバハムートでも種類が極めて少なく、珍しい“デュアル・バハムート”といわれる種類。すべてにおいてバハムートの基本能力が大幅に高く。まさにバハムートの頂点に立つと伝説的な存在。そんなリオンがリヴィルオの配下にあるのか。
それは、リオンが幼生の頃。少数の群れで行動するバハムートの群れかはぐれ、それを保護したのがリヴィルオ。名前無きバハムートに名を与え、いずれや自分の戦力になるようにと養った。
「いいよ。どうせ、父さんのくだらない話を聞くだけだし。」
 後ろを追って来るリオンに言った。薄地のジャケットに膝までの短パン、相変わらず髪形は特徴的である。前髪と後ろ髪の真ん中だけを伸ばして、後ろ髪は、赤い紐で結んでいる。
軽装備で動きやすいゼルドに対して、リオンは、黒のシャツに、白のワイシャツ、黒の革のパンツ。その上にサマーコートを着ている。コートは地面ぎりぎりまで下がっている。
「くだらないとは…リヴィルオはあなたの為にですよ。」
走っていたゼルドは速度を緩め徒歩へと変わり、そして止まった。それを見たリオンも足を止め、ゼルドと数メートル距離を置いて止まった。
止まったゼルドは下を向いて何も言わずに黙っていた。何か言いたい様子があった。
それを見たリオンはゼルドの近くにそっと寄った。後ろから左肩に右手をのせて、帰りましょう。と、一言。ゼルドは何も言わずにゆっくりと頷いた。

「ただいま…」
家の入り口で声がした。そのやる気の無い声に、気づいたのはリヴィルオだった。他の気づく者はいないが、とにかく、リヴィルオは腰にナイフから銃までとありとあらゆる装備をして、金属音を立てて入り口まで歩いてきた。その金属音が近づくたびに、ゼルドの鼓動は大きくなっていく。リヴィルオがゼルドの目の前に現れた。
リオンはゼルドの右横で肩に手を掛けたままだった。ゼルドは顔を下に向けて、リヴィルオを見ようとはしない。
「随分と運動をしたようだな。ゼルド。」
「持久力を付けるのも、体を作る上で重要だと思ったから…」
リヴィルオはゼルドに一歩、更に近づいた。背の高いリヴィルオ。下を向いているゼルド。
ゼルドの頭はリヴィルオの腹部に当たり、リヴィルオは眺めるように、真下のゼルドの頭上を見ている。
「…理由があるなら良い。だが、この時期、お前は頭に知識を積めるだけ積んでおけ。」
そう、言い放つとリヴィルオは、何事も無かったかのように体を反転させて、その場を立ち去った。やはり、腰周りにある装備の金属音は五月蝿かった。
「別に怒られなかった。」
ゼルドが顔を上げてリオンを見上げなら言った。リオンはゼルドの肩から手を放し、笑顔で答えた。
「理由があるからですよ。彼は、口実ではなく理由なら納得します。」
「以外と、話の分かる人だね。父さんは。」
「ふっ、しかし今のは理由では無く、言い訳ですよ。」
リオンは微笑し、ゼルドの脇を通って家の中に入り、出入り口の前にある椅子に座った。ゼルドは何か思いついたように、リオンのいる部屋の更に奥の部屋へ扉を開けて入っていった。
その部屋は四方五メートルの狭いスペースにぎっしりと本棚が端から端に並べられている。本の種類は様々。だが、どの本も真新しく、埃ひとつ被っていない。常に本を読み、常に本を丁重に扱っている証拠である。
「今日は…あれかな。」
ゼルドは本棚を一通り見回し、ドアの近くにある梯子を、自分の目的の本棚の場所へと移動した。本棚は十二段あり、ゼルドは上から三段目の本に用があった。
厚さ数センチの本を脇に挟めると梯子を降り、梯子を元の位置に戻して、リオンのいる部屋へと戻ってきた。そして自分も椅子に座り分厚い本を読みは始めた。
 「大いなる遺産は、汝、人の手中にあらん事を、租は何よりも願う。我は神と神の中立にある。祖を信じるものこと、箱舟に乗ることが許されん。」
 リオンは本に書かれている一文を区切りなく読んだ。その文に耳を傾けたのはゼルドではなく。リヴィルオだった。
 「ゼルド。汝とは何を対象にしている。そして租とは誰か?何の神と神なのか。答えろ。」
 片手に湯気の出ているカップを持って、中身はコーヒーのようだ。腰の装備品を鳴らしながらリヴィルオが歩いてきた。
「汝は…恐らく人間。租とは人々の中心であるサヴァティクス。神は天界の神と堕界の神」
 ゼルドがリオンをチラッと見た。リオンは微笑をし、軽く頭を傾けた。リヴィルオはカップの中身を啜り、ゼルドの脇の椅子に腰掛けた。
「正解だ。では、リオンが言った文は何の本で第何章何項目だ」
 リヴィルオはゼルドの頭を強く撫でて聞いた。ゼルドはリオンの本を見ようとした。しかし、リオンは自分の本の表紙を片手で隠した。
「…外典ソルクの第二章、冒涜の第2項目」
「…いいぞ。それさえ覚えていれば十分だ。そんな本置いて外へ出ろ」
 リヴィルオは強い口調で言った。ゼルドは仕方なく立ち上がり、本を自分の座っていた椅子に置いて、外へ出た。そしてテラスの柵に立ててある刀の巨剣を手に取った。その大きな刀は、小さなゼルドにとっては、とても似合わなかった。
ゼルドが外へと出ると。すでにリヴィルオが自分の背丈はある剣を地面深く刺して、腕を組んでいる。
「父さん。別に木刀でも良いのでは……」
「真剣の恐怖を知ったほうが良い。自分の剣で自分を傷つける恐怖を」
 そう言ってリヴィルオは右手で剣を地面から引き抜け、両手で持ち、上段で構えた。対してゼルドは仕方がないようにため息を付きながら、剣を逆刃にして構えた。そうすると剣は腹の部分が地面に向き、刃のほうが上を向く“型”だ。
「いいぞ。今から自分だけの型を作っておけ、自分に合った剣術を習え」
 ゼルドが最近になって気が付いた事。それはリヴィルオの口癖。“いいぞ”の一言。常に相手を褒め称えるリヴィルオが、最近になって本当の父親のように思えてきた。ゼルドがリヴィルオを父と呼ぶのは、最近の事ではない。しかし、そう呼ぶまでは抵抗があった。
「ゼルド。どんな攻撃をしてもいい。魔力を使っても、法力を使っても」
 魔力を使う魔族。法力を使う神族。魔力は法力よりも強い。しかし、その反面、魔力の発生源は魂。自分の魂を削って能力を引き出す。法力は神の力を培養して使う。
 魔族の体は元々不便なもの。手足を動かすかで、自然と魔力を使ってしまう。そのため、魔力の消費は著しい。
「父さんは普通にそんな事言うけど、実際。自分の事、よく分かってないから。下手に力を使うと死にそうなるンですけど……」
 その言葉にリヴィルオは黙ってゼルドを凝視し、ゼルドから決して目を離さない。
「ゼルド。ひとつ言っておく」
 念を押すかのようにリヴィルオが重く言った。
「自分の体を知るには自分の力を知れ。そうでなければ、その力は無意味だ。いいか。ゼルド。世の中で、お前のように、すべての種族を持つ者は存在しない。故に貴様の力は最強だ。俺は、その力に期待しているのだ」
 リヴィルオは話を終える前に飛脚して、ゼルドの目の前まで飛ぶと、頭上から剣を振り下ろした。ゼルドは膝を曲げ、勢い良く横に飛び、リヴィルオの剣を避けた。リヴィルオは剣を、ゼルドのいる方向へとそのまま斬りかかった。その刃は不安定な体勢であったゼルドの胸元を浅く切った。血は吹き出ることは無く、ただ上着に血が滲む。
「痛いって。マジで切ること無いだろう」
「すぐ治るだろう?」
 リヴィルオが5〜6歩ゼルドから離れて言った。ゼルドは剣を持っていない左手で自分の胸元に手を当てた。するとすぐに傷は癒えた。更に衣服までもが復元した。
「ゼルド。無駄に力は使わないことですよ」
 本を片手に家の中からテラスにリオンが出てきた。リオンはそのまま、リヴィルオがいつも座っている椅子に腰掛けた。
「いいよ。死ぬ訳ではないのに……」
「ゼルド。リオンはお前の数倍は生きているのだ。経験は物を言う」
 リヴィルオは剣先をゼルドに向けて、その黄金色の瞳で睨み付けて強く言った。ゼルドはリヴィルオの顔見てすこし怖気づいていた。それを見たリオンは微笑し、書物に目を移した。
 ゼルドとリヴィルオの剣術戦を始めてすでに二時間。ゼルドの額、肩、足からは大量の汗が出ており、息も乱れている。対してリヴィルオは額に軽く汗を浮かべる程度。疲れは見られない。まるで軽くランニングをするように軽快に剣を振る。リオンは三冊目の書物に手を掛けた。
「父さん。はぁ…そろそろ止めにしない?」
「止めはしない。俺に傷つけたら止めにしよう」
 この二時間。リヴィルオはゼルドを傷つけることがあっても、ゼルドがリヴィルオに傷つけることはなかった。いや、傷をつけることは出来なかった。故に幾度と傷ついたゼルドはその度に自分の力を使って回復、復元を繰り返し。通常の二倍以上の疲労が溜まっている。
 そして、ゼルドはリヴィルオの攻撃をただ防ぐしかない。
「ゼルド。わかっているな?防ぐだけでは―」
「―生きる値は与えられず。剣を持つ者は、戦う事によって道を開き、道を見て、そして生きる……だろう?」
 ゼルドは剣を振り、息を乱しながら言葉を途切れながら話した。それを見たリヴィルオは一言。
「力を具現化してもいいぞ」
 それを聞いた瞬間。ゼルドは右手で持っている剣の腹の部分に左手を当てて何か呟き、瞬時に剣を振った。剣先からは赤い血のような刃がリヴィルオの鼻先を掠めた。が、リヴィルオは眉ひとつ動かさず、相変わらずの素早い剣術は、ゼルドを窮地へと追い込める。
「どうした?何かを媒体にしないと、自分の力を具現化することも出来ないの?」
 茶化すようにリヴィルオはゼルドを挑発した。ゼルドは、歯を食いしばり、重くなっていく剣を握り締め、不適な笑みを浮かべるリヴィルオを睨んだ。そして
「甲核星の下、稲妻の連なりし、アルティマソード。ジーン召喚!!」
 ゼルドは左手を高々と上げ、左腕には赤い雷花が弾けた。ゼルドはリヴィルオの胸元へと突進。リヴィルオは、当然の如く剣でゼルドを投げ飛ばそうとした。が、ゼルドは奇妙に避け、その左手をリヴィルオの胸元へと当てた。
「ぐぅ……」
 リヴィルオは軽く声を上げて、2〜3歩下がった。そしてゼルドが当てた部分を手で摩った。しかし、以上は見られない。
 「体内成長型召喚獣か?」
 「お願いがあります。」
 体内成長型召喚獣とは、数体の召喚獣を体内に侵入させ、成長させることが出来る召喚獣。ほとんどの場合。体内の病時に使用する召喚方法だが、別の使い方もある。破壊行動をする召喚獣を、ある一定の時間で成長させ体内から破壊活動をさせる。
「貴様。何の真似だ」
 いつもとは違う声。地を這うような重い声とともに、今まで雲ひとつなかった空に、赤く光る稲妻が帯びている雨雲が現れ、冷たい風がゼルドを包み、リヴィルオの後ろには巨大な魔神が薄く出ていた。
それを見たリオンは本投げ捨て、テラスから飛び出し、背中から巨大な翼を開きゼルドの前に立ちふさがった。まるでゼルドを守るように……
「ゼルド。なんてことをしたのですか?」
 リオンはリヴィルオを向き合ったまま、ゼルドに言った。
「父さん。僕はこの森を抜けたいと思う」
 ゼルドの一言に驚いたのは、リヴィルオではなくリオンだった。
 リオンはすぐにゼルドの方に体を向けた。リオンの真紅の瞳は悲しく、小さく小刻みに震えている。
ゼルドにはすぐに分かった。自分の言ったことがリオンにとってどれほどキツイ一撃だったのか。
「俺の元から……離れたいと?六才のガキが?」
 ゼルドは剣を地面に落とし、リオンの脇をすっと通り、リヴィルオのすぐ前に出た。
「違う。ただ外が見たいだけ。それだけです」
「見せれば、この召喚獣は体内から取り出すと?」
 ゼルドは黙って頷いた。ゼルドを見るリヴィルオの瞳はリオンへと移った。リオンを見つめるリヴィルオの目は、何かを訴えているようだった。ゼルドには分からない。リオンとリヴィルオだけのサイン。
最初、リオンは困ったような顔をしたが、しばらくして、ゆっくりとリヴィルオに頷いた。
「そうか、わかった。好奇心持つ事はいい。だが俺も一緒に行く。いいな?」
リヴィルオの怒りはすっかりと収まり、雲は何処かへ消えてしまった。依然リオンは悲しい顔をしている。
リオンは翼を戻し、ゼルドの肩に手を当てて家の中へと入れた。
その時のリオンの気持ちを、ゼルドは理解することが出来なかった。ましてリオンの気持ちなどまったく考えず、リヴィルオとゼルドだけの問題と考えた。後々、ゼルドはリオンが散在することの重大さを理解する。
今日は、それだけで終わった。
2004-04-07 10:10:26公開 / 作者:自刃
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■作者からのメッセージ
 どうも、初めてです。
 今回はまで本文に進む前の序章です。これから内容を膨らめて行こうと思います。
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