『夢 第一〜二話』作者:やじん / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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第一話

「こちら東館前。異常なし。」
「了解。任務を続けてくれ。」
トランシーバーで連絡を取り合う。この電子音にももう慣れた。初めて使ったときは聞きづらいうえに耳障りな音だった。でも、もう使うのが日課になってからは文句も言ってられなくなった。
「・・・・・っ!」
「・・・・おいっ!」
「えっ?」
「おいっ!聞いてんのか!?」
「あ・・・すまん。もう一回言ってくれ。」
「ったくよお・・・。あのな、今から放水部隊が放水を始めるから、水道とか一応全部止めとけってさ。なんでも、ちょっとでも水がたくさん出るようにしたいんだと。」
「あ、そう。んじゃ、俺は西館のトイレを見てくるわ。」
「お、頼む。俺は東館と北館だから。できれば、南館もよろしく。」
「オッケー。」
そういって分かれると、俺は西館を目指して歩き始めた。
 俺達は今、戦っている。こういうと、俺達が戦争をしているのをイメージする人も多いだろう。実際、この戦いは俺達にとって戦争なのだ。でも、今のところ、死者は出ていない。これからも死者が出る可能性は低いだろう。戦争と言っても、俺達は学生だ。戦車やなんやらを持っているはずがない。俺達の大学、方小路(ほうこじ)大学は男子大だ。もとは山が所を切り開いて建てたらしい。ご苦労なこった。俺、新山 孝(にいやま たかし)もこの大学の三年生だ。ちなみに経済学部。今は戦争中だから、勉強なんてしてないけど。方小路大学は面積ウン万なんちゃらヘクタールという、かなり広い大学だ。実際、今も歩いているのだが、まだ西館に着かない。広すぎる。無駄に広いような気がする。まあ、その広さのおかげで俺達は戦っていられるんだけどな。
 俺達は、この大学を守ろうと戦っている。先月末、国がこの大学のちょうど中心に立てられた、大きな天文台を取り壊すといいやがった。この大学は円形に作られていて、西館、東館といったように、東西南北それぞれに五階建てのいろいろな学部があるビル。それが三階の十字路でつながっている。ここの学生達にとって、この大学は自慢だった。だが、国がその自慢の中心部を取り壊すと言ったんだ。これを俺達は黙っちゃいなかった。初めは市役所に抗議しにいったんだが、聞く耳を持たないので、一部の教授達と一緒になって大学の中に座り込み・・・もとい、ゲリラを組んだのだ。ここの大学の天文台はそれはもう、すばらしいの一言で終わるようなもんじゃないぐらい、綺麗ですばらしかった。何がきれいかって、実際見れば分かるが、天文台だけ他の建物と違い、ガラス張りなのだ。さすがに床はガラス張りではない。女性の教授が困るかららしい。・・・・ちょっと残念だが。そのガラス張りが一番上まで続いていて、そして屋上があり、屋上からとてつもなく大きい天体望遠鏡がある観測部屋に入れる。その天体望遠鏡から見る星は言葉をなくすくらいきれいだったのを覚えている。
「もう一度見たいな・・・・。」
だから、俺達は誓った。もう一度星を見るために。俺達の象徴とも言える、この大学のシンボルをなくさないために。国と戦い続けることを。国は警官隊を送り込んできたが、俺達はあの手この手で追い払ったり、メガホンでこちらの要望を言ったりしている。要望はもちろん、天文台の取り壊し案の撤回。ただ、ここの天文台が取り壊されるのにも訳がある。維持費が高いのだ。ここの天文台の維持費の半分は国が出していたのだ。しかし、最近国の経済状況がよろしくないらしい。そこで、国としてはあまり維持しても得のない、この天文台を取り壊すことにしたのだ。確かに、国としてはこの天文台は不必要だろう。しかし、俺達からしてみれば、これは大事なシンボルであり、第二の財産だ。ちなみに、俺の第一の財産は家族だ。どうでもいいことだけど。
「・・・よし。西館はこれで全部か。」
俺は南館目指して歩き出す。俺達は、天文台の取り壊し案が撤回された日、みんなで天体望遠鏡で星を見ようと誓った。だから、それまでは天体望遠鏡の星はお預けだ。
「早く見たいよなあ・・・・。」
それまでは、我慢だ。俺は今日で十四日目になるゲリラ戦の中で、また新たに決意を固くした。
「こちら北館。孝、聞こえるか?」
「ああ。うるさいくらいだ。」
「なんか、北館の一階に不審人物が入り込んだらしい。一緒に探しに行くぞ。」
不審人物か。見張りや警備の奴らがいるってのに、全くどうやって入ったんだ?
「分かった。俺もそっちに行く。北館の三階で待っててくれ。」
「了解。すぐ来いよ。」
ふう。トランシーバーの音にももう飽きたな。早く取り壊し案を撤回してもらいたいものだ。この大学内に不審人物が入ってくるなんて・・・。全く、警備のやつらが聞いてあきれるぜ。・・・って俺も館内警備だった。まあ、誰にでもミスはあるからな。ちょっと苦しい言い訳だな。はあ・・・やっと北館に着いたぜ。えっと・・・お、いたいた。
「すまん、待たせたな。」
「いや、俺もさっき来たところなんだ。」
「で、その不審人物とやらは何処にいるんだ?」
「今も北館一階をうろついているらしい。まあ、この大学は広いからな。道が分からなくて、迷ってるんじゃないか?」
「可能性大だな。」
「行ってみればわかるさ。」
「そうだな。」
「ところで・・・武器はちゃんと持ってるか?」
「おう。・・・・ほら。」
俺達は歩きながら腰に着けていた拳銃のようなものを取り出した。
「お、ちゃんと手入れしてるじゃん。」
「当たり前だ。お前みたくダメにはしたくない。」
「うるせえ。あれは仕方がなかったんだ。」
何が仕方ないだ。このサボリめ。こいつ、橘 哲(たちばな さとし)は漢字二文字という珍しい名前だ。少なくとも、俺の中では覚えやすさナンバーワンだ。こいつとは高校からの付き合いで、いつもバカなことを共にやってきた奴だ。なかなかいい奴で、友達も多い。俺もこいつのことは信用して物事を任せられる。こいつはいつもは俺とバカなことをやっているが、根はまじめで高校での成績だっていつも上から三十番ぐらいをキープしていた。万年ワーストテンの俺とは大違いだ。まあ、そういうこいつにも欠点がある。掃除が苦手なのだ。いや、嫌いだから苦手なのかもしれない。俺達、ゲリラを組んでいる奴らはみんな持っているんだが、この拳銃。水鉄砲なのだが、唐辛子やらなんやらが入っていて、とにかく目に入れば最低一週間はヒリヒリしてろくに目が開けられないらしい。その液体が入ったこの水鉄砲をこいつは毎日ろくに手入れしなかったから、カビが生えて、新しいやつと交換してもらったんだ。これは掃除というか、ただ単にマメなことが嫌いなだけかもな。まあ、完璧な人間なんてこの世にはいないからな。大目に見てやるか。
「ところでさ。」
「・・・・あん?」
「孝ってさ、時々寝言、言ってるよな。」
「知るかよ。俺が寝てるときに言ってるんだから、俺が知ってるわけないだろ。」
「まあ、そうなんだけどさ。その寝言が変だったから気になってよ。」
「変?」
「ああ。なんか、叫んでるようなそんな感じの・・・・。」
「ふうん。ま、寝言なんてそんなもんだろ。」
「そうだな。」
俺達はそんな会話を交わしながら、不審人物のいる一階へと降りていった。

第一話 終

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第二話

北館の一階には、食堂や放送室などがあり、俺は食堂にはいつもお世話になっている。
「・・・・・しっ。」
「・・・・・?」
不審人物発見か。こりもせず、まだ一階をうろついていたのか。全く、入ってくるなら大学の構造ぐらい把握しておけよな。
「こっちに来る。」
「マジ?」
「ああ。こっちに向かって歩いてる。」
「タイミングを見計らって飛び掛るか。」
「そうだな。俺が合図するから、同時に行くぞ。」
「了解。」
コツコツ・・・。いやに響く音だな。ハイヒールでも履いてんのか?
「・・・・。」
「・・・まだ?」
「まだだ。もうちょっとだ。」
コツコツ・・・。
「・・・・よし、今だっ!」
「どりゃあああっ!」
バッ!俺達は同時に飛び掛った。
「・・・!?」
よし。相手は驚いてる様だ。よける暇もなく、相手はそのまま俺達に押さえつけられた。
「観念しろ。もう、お前は逃げられない。」
少し厳しい口調で不審人物に話しかける哲。
「うぅ・・・。放してよぉ・・・・。」
「・・・・ん?」
なんとなく聞いたことがあるな、この声。
「おい、顔を見せろ。」
「・・・・っ!」
俺はそいつがかぶっていたバイクのヘルメットを取った。
「・・・・なにやってんだ、お前。」
不審人物の正体は、俺の幼なじみでもある、福田 麻衣(ふくだ まい)だった。
「だってぇ・・・。孝、最近家にいなかったから・・・。」
「だからって、来るこたねぇだろ。電話でも何でも、連絡手段はあっただろ。」
「だってぇ・・・。」
「だってじゃない。ほら、さっさと帰れ。」
「いやだよぉ。だって、帰ったらまた孝と会えなくなるもん・・・。」
「知らん。」
「そんなぁ・・・。」
今にも泣き出しそうだ。でも、こいつにはこれぐらいで十分だ。甘やかすことはない。甘やかすとどこまでもわがままを言いそうだ。
「まあまあ。孝もそんなに怒るなよ。」
いらんところで哲がフォローに入る。
「何言ってんだ、お前。こいつを甘やかしちゃいけないんだ。わがままを一度聞くと、いつまでも成長しないからな。」
「私、わがままなんて言ってないもん。」
「言ってただろ、今。」
「あれは・・・。」
「まあまあ、二人とも。」
またもや哲が間に入る。
「とりあえず、今日はもう遅いし、ここに泊まっていきなよ。」
「おいっ!哲!」
「まあ、いいじゃねえか。一晩ぐらい。泊めてやれよ。」
「そうは言ってもな・・・。」
俺はここの管理人じゃないんだぞ。しかも、リーダーやみんなに聞かないと了承もらえないかもしれないじゃないか。
「孝。私、泊まっていいの?」
「さあな。リーダーに聞いてみないとな。」
「じゃあ、リーダーがいいって言ったら、泊まっていいの?」
「さあな。みんなに聞いてみないとな。」
「じゃあ、みんながいいって言ったら、泊まっていいの?」
「さあな。親に聞いてみないとな。」
「じゃあ・・・って孝、さっきからそればっかり。」
「さあな。」
「もう・・・。」
「・・・・はははっ。」
「・・・・?」
「・・・・うん?」
な、なんだ哲の奴。いきなり笑い出しやがった。
「なんだよ。なんで笑ってるんだよ。」
「い、いや。別に。ただ、仲がいいんだなあって・・・。」
「はあ?」
「うん。私達、仲いいもんね。」
「勝手に決めるな。そんなことないぞ、哲。それはお前の見間違いだ。」
「そうかな・・・?」
「そうだ。」
「照れてるんだよね?孝。」
「照れてないっ!断じて照れてないっ!」
「あはは。孝は昔から照れ屋だもんね。」
「へー・・・そうなんだ。ふうん・・・。」
「なんだよ。なんでそんな目で俺を見るんだよ。」
「いや、孝って以外とお茶目なんだなって・・・。」
「何だと?お前は俺にケンカを売ってんのか?」
「何言ってるんだよ。照れることないだろ。ププッ。」
プチン。・・・俺の中で何かが切れた。
「こ、この野郎っ!てめえなんざ、太平洋に沈めてくれるわっ!」
「孝〜私どこで寝るの〜?」
「お前は黙っとれ!」
「しゅん・・・。」
「こら、哲っ!俺と勝負しやがれっ!」
「やだよぅ。だって、孝は照れ屋だしぃ。」
「な・・・な・・・・っ。」
「もっかい言ってみろこらあっーーー!!」
「ああ、何度でも言ってやるぜ?照れ屋の孝ちゃん。ププッ。」
「二人とも、ケンカはだめだよ。」
「お前は黙っとけえっ!!」
「しゅん・・・。」
「哲っ!待て、こらあっ!!」
「やーだよっ!」
・・・・・・。


「はあ・・・はあ・・・・。」
「ひい・・・ふう・・・・。」
「二人とも、お疲れ様。はい、ジュース。」
「おーっ。ありがとう。」
「おお、サンキュー・・・っておい。」
そそくさと帰ろうとする、麻衣を捕まえた。
「なんでまだいるんだ?」
「だって・・・孝と一緒が良いし・・・。」
こいつは本当に大学生か?時々、小学生じゃないかと思えてくる。
「だめだ。リーダーの許しも出てないのに、部外者を泊めるわけにはいかん。」
「えぇ〜・・・。」
「そんな目で俺を見てもダメ。俺はお前の誘惑には引っかからないぞ。」
「・・・・ケチ。」
「ああ、俺はケチだ。だから、ダメだ。」
「ケチッ!ケチッ!」
「何とでも言え。」
「ぶぅー。」
「リーダーは絶対だめって言うぞ。お前みたいなわがままな奴は泊めることはできねえってな。」
「む〜・・・。」
「だから、帰った帰った。」
「今日は泊まっていくがいい。」
「そう、だから泊まって・・・・えっ?」
俺達は声の方に目を向けた。
「リーダー・・・・。」
階段の上には腕組みをしたリーダーが立っていた。この戦いを計画、そして実行まで導いた張本人、リーダーこと米沢 春樹(よねざわ はるき)。ここの大学のOBで、天文台の取り壊し案を知ったとたんに大学を訪れ、この戦いを指導している人物だ。俺はこの人を尊敬している。俺だって取り壊しは嫌だったけど、誰かがやろうと言わなければ、この戦いを自ら実行する勇気なんてなかった。だから、この人は本当にすごいと思っている。他のみんなも同じだろう。みんな、この人のことを親しみと尊敬をこめて、『リーダー』と呼んでいる。
「泊まっていけ。女を夜の外へ一人で出すのも危ない。」
「ですけど・・・・。」
「じゃあ、今日一日、お世話になります。」
麻衣がペコッとお辞儀をする。
「ああ。今日一日、我が家のように使ってくれ。」
「ありがとうございます。」
話が勝手に進んでやがる。
「ったく。リーダーも甘いんだから。」
「なんだ、孝。嬉しくないのか?」
「はい?」
リーダーがなぜか笑いながらたずねてくる。
「どうしてです?」
「だって、お前の彼女なんだろ?」
「は?」
「私、孝の彼女なんだぁ。」
「ち、違うっ!勘違いするな、麻衣っ!」
「ふっ・・・。」
「な、何ですか、リーダー?」
「照れ屋だな。」
「・・・・。」
結局、麻衣は一晩ここに泊まっていくことになった。ちなみに、俺は照れ屋ではない。・・・・たぶん。

第二話 終
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2004-04-06 15:43:02公開 / 作者:やじん
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