『ユキノミチ』作者:岡崎依音 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.61枚


―雪の降る道に 長い影がのびる―





ユキノミチ





寒い寒い冬のある日。
長く続く並木道を、彼女と歩く。
寒さのためか、平日のためか、そこには僕ら以外、誰も居なかった。
それがよけい、僕の惨めさを突き刺して。
沈黙が重たくて、なんとか言葉を出そうとするんだけれども。
結局は何も出なかった。
僕の中は、もう空っぽだ。
何もなくなって、どうしようもないよ。
最後はポケットに手を突っ込んで、目をそらした。
前を、ゆっくりと歩く君から。
そう、僕らは

さよならを、するところなのです。

続いていく白い絨毯には、僕らの足跡が流れている。
一つ一つ、並んで。
くっきりと消える事もなく。
そう、それは、僕らの花。
残してきた、思い出。
彼女はもうすぐ別れだというのに、口元に微笑さえ浮かべている。
いつまでも引きずる僕より、ずっとずっと、大人に見えた。


僕らは今は 出来るだけ思い出してみる


「もう、離れちゃうね」
彼女がぽつりと漏らす。
僕はそうだね、としか答えられなかった。
「今だから、言うけど」
それでも。
君は笑ってくれるのか。
「本気で、好きだった。今でも好きだけど。すっごくすっごく、大事だったよ」
そうだ。
君は少し照れくさそうに、いつでも僕に言葉をくれる。
どんなに困らせても。
どんなに傷つけても。
どんなに突き放しても。
ああ、そうだ。
僕はそこが好きだった。
「僕も、好きだったよ。大事だったよ」
もっといっておけばよかったかな。
そうすれば、あんなに泣かなかったのかな。
今、こんな言葉を聞いて、君は何を思ったろう?
その時初めて、彼女の笑顔に泣きそうになった。
切なさとか、後悔とか、そんなわけのわからない感情がせめぎあって、喉の上まで駆け上がり、声になる前に飛び散る。
こんなこと、口にしたら、二度と取り消せないぞ。
今更、何を言っても遅いんだ。
引き止める事は出来ない。もう決めた事だ。ここで彼女の心を崩す事は、許されない。
傷つけた僕には、そんな資格がないよ。
並木道の終わりが、少しだけ近くなる。
どうしよう。何かしなくては。
もうすぐ、さよならだ……。
「もっと、一緒にいたかったな……っ」
そう言って、止まる君の足。
その瞳からは、絶え間なく、涙が落ちていく。
僕は息を止めた。あまりにも急すぎる。
彼女の泣き顔が、僕は大嫌いだった。
彼女は強かったから、あまり僕の前では泣かなかったけど。
それでもたまに見せるその名残が、哀しくてしょうがなかった。
何も出来ない事を、思い知らされようで。


心の奥のは できるだけ思い出してみる


初めて一緒に出掛けた時。
あまりの人ごみに、僕らははぐれてしまって。
どこに行ったのかと不安で、心配で。
ただただ、隣りに居るはずの温もりを探しつづけた。
手すりにしゃがんで寄りかかり、丸まっている君を見つけたとき。
思わず抱きしめた。
彼女は笑って、『淋しかったの?』なんていうから。
ふてくされて頬をつねった。

もうかえらない とおいおもいで
こうかいはしない
それでも
さみしいんだ

明日はもう、君は居ない。
いつでも笑ってくれていた君は居ない。
めぐるめぐる、過去のフィルム。
いろんな僕たちが、中に住んでいる。
「……ありがとう」
彼女の左手を、そっと取った。
それがよけい彼女を哀しくさせたようだった。頭を僕に預ける。
抱きしめた彼女はいつもと同じはずなのに、いつもより壊れてしまいそう。
消えてしまいそうになるのを否定するように、軽く握った。
……やっぱり君は子供みたいだ。
雪もまた降り出してきた。さっきまでやんでいたのに。
あんなにはっきり続いていた足跡も、最初からなかったみたいだ。
「ごめん。ホントに、泣かせてばっかでゴメン」
「ちが……ごめんね……今まで……ありがとう……」
ゆっくり髪をかきあげてやった。涙の後を拭う。
唇が重なった。何よりも、鮮明な、温もり。
もう、これが最後になるんだ。
「楽しかった」
「うん」
「ホントだよ」
「うん」
「好きだよ」
「知ってる」
「……バイバイ」
最後にもう一度だけ抱きしめた。
未練がましいのは、百も承知。

「さよなら」

また、街中で、会う事があったりするんだろうか。
その時、君には、僕には隣りに誰かいたりするんだろうか。
次に会う時がくるなら。
君に笑っていて欲しい。
勝手な我が侭だけど。
君も、そう思っていてくれているかな。

雪が降る。
静かに、僕に、彼女に、街に、思い出に、雪が降る。
彼女の姿が消えた後。
僕の頬に、温かいものが流れた。









君が大切だった真実は。
決して変わらないから。





                     <終わり>


2004-04-05 23:05:28公開 / 作者:岡崎依音
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■作者からのメッセージ
少し短すぎたかなと反省。
感想・批評お待ちしております。

**若干修正**
この作品に対する感想 - 昇順
まぁ、短かったですが、ものすごく短いわけではないので、別に良いかと思います。「…」は、1個か2個程度の方が良いので、直した方がいいと思います。でも、悲しい別れが誠実に描かれていて、読んでいてじーんとしました。平仮名で書かれた部分など、純粋な感じが漂ってきてよかったと思います。「…」の打ち方など気になるところはありますが、マイナスをつけるほどではないかと。作品の良さもあって、
2004-04-04 20:24:36【☆☆☆☆☆】冴渡
すいません、間違えてエンター押しました。作品も良かったです。これからも頑張ってくださいね♪
2004-04-04 20:25:31【★★★★☆】冴渡
言葉のひとつひとつがとても綺麗で、感動しました。
2004-04-04 23:34:12【★★★★☆】cosmos
感想ありがとうございます!冴渡様へ。「…」修正させていただきました。ありがとうございます。
2004-04-05 23:06:50【☆☆☆☆☆】岡崎依音
言葉に気持ちがこもっていて、とてもよかったです。
2004-04-06 00:51:50【★★★★☆】やじん
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。