『ParticleTransporter〜1章から6章〜』作者:ラプス・ストライフ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角40697文字
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1章〜発端〜

 またか……。ベッドから目覚まし時計を止めようとして転がり落ちてからため息をついた。ベッドから届かない場所に目覚まし時計がある。こうして無意識のうちに転がり落ちないと目が覚めないという恐ろしい悪魔に呪われたような性質のせいで毎日どこかしら体を捻るかひねるか最悪軽い全身打撲の状態で学校までの道を歩かなければならなかった。それでもあいつが居れば気を紛らわすことは出来たんだが……今日も多分来ないだろう。適当な勘で決め付けてから片手をついて起き上がった。
 今までも2日や3日間、姿を消してまたいつの間にか戻っていた事はあった。
 他のやつらはあいつが来なかった時のことを何も詮索しない。いや、逆にそのことを詮索してはいけないと思っているかのように、あいつの失踪についてあいつと仲の良かった他やつらにに試しに聞いても何も答えてくれない。とぼけるにも限度がある位に、僅かにも知っている素振りを見せない。
 2、3ヶ月に1回ぐらいのペースであいつは消えた。本人に聞いたことも勿論ある。
 あいつは少し意外そうな顔をしてからから目を細めて言っただけだった。
「へーえ……まあ、多分そのうち分かると思う、な。」
 と。真吾にとっては理解しがたい答えだったが、真吾もしつこいほうではない。それ以上は詮索しなかった。しかしどう考えても気になる。今度帰ってきた時は絶対にどうしてなのか聞き出してやる、という結論に至った。
 だが、当然やつが帰ってくるまで聞き出すのは不可能なので、落ち着かないまでも待つことにした。
 今日で4日目の朝。鏡を覗き込む。
「あーあ、ひどいな……。」
 頭はそれこそ悪魔の仕業のように立ちたい放題に突っ立ち、直す気も出ない。
 稲葉真吾、背は155cm、体重は40kgほど。中2にしては小柄(いや、小柄過ぎるかも知れない)体系のせいでいろいろと不便だ。学校の天井にジャンプして届かないのは真吾ぐらいのものだ。
 冷蔵庫から昨日の夕食の残りを取り出して電子レンジに入れた。
 今この家に居るのは真吾だけだった。父は居ない。何故いつ何処で居なくなったのかは分からない。だが、居ないモノは居ないのだ。どうしようもない。手がかりはといえば、1枚だけ残っている家族写真のみ。大体真吾が5歳ぐらいの時だから、10年弱前の写真ということになる。だが、残念ながら肝心の顔が消されてしまっている。
 他の写真はというと、アルバムを見ようとしたが、アルバム自体が無くなっているという始末。
 母も知らないらしい。証拠は全く無いといっても等しいんじゃないだろうか。ところが、母に父のことを聞いてみた反応は非常に面白い。
 あいつについて聞いたときと全く同じ反応をするのだ。「父さん?誰それ?」みたいな聞いていていかにも危険な台詞ではなく、「うちには父さんなんて居ないでしょ?」といって微笑むだけだ。
 あいつについて聞いた場合も「亮太?何それ、転校生?」てな有様だ。一言多いやつなどは、側頭部の近くで人差し指をくるくると回して、ご丁寧にも「頭、大丈夫?」と心配してくれる時もある。
 頭、大丈夫じゃないのはそっちだろ?と言ったところで、俺以外は殆ど知っているやつなど居ないわけだから尚更危険な眼差しで見られるに違いない。
 うずうずしながらも我慢しているわけだった。
 ということで、母は2人の生活を支えるために仕事に出ていた。仕事とはいっても、半分はパートみたいなものだ。某スーパーのレジ役などを仰せつかっているようだ。
 なんといっても真吾の中学は、自慢など出来ようも無いが、公立なのだ。学費は私立などに比べればタダに近い。
 真吾は母に迷惑をかけるのも嫌だったので高校に行かずにどこかでなにか働くことも考えていたがそれには母は猛反対した。まあ、当然といえば当然だろうが。
 とりあえず何か得意なものを見つけなくてはとは漠然にとはいえ思っている。やっぱり、平均的に全てが出来ても、何かしら得意でなければ、やはり仕事には昇華出来ない。
 とかなんだか偉そうに言いながら、その主義と正反対の能力を持っている真吾はたまに自分が情け無くなることもある。出来ることといったら、野球だけだ。
 真吾はなんでも無難にこなしたほうが何でも無難にこなす以上はなかなか出来なかった。あいつは何でも出来た。が、あいつはそれ以上にすごい努力家で几帳面だった。そう、真吾とはそこが違う。真吾は特技のない自分に飽きが来ていた。自分にもなにかできる事はないだろうかと。
 今真吾が1番出会いたい物といえば、自分の得意なものだ。このままでは母もろとも破産に陥る。
 適当に腹ごしらえをし、余裕を持って家を出た。2人暮らしで一軒家。生活には不自由していない。

 あいつが居る時は大抵真吾の家の門の前で待っていた。なんだ、今日も居ないようだ。半分は直感が当たった事に喜び、半分は今回は左肩を思いっきり打った、重い体を引きずって直ぐそことはいえ学校に行くのがだるくなっていた。
 仕方なく鍵を閉め、1人で歩き出す。何故かあいつが居ないときはついでに真吾の頭の中のあいつもなんとなく薄れてくるようだった。
 と、後ろから声を掛けられた。
「よ、真吾。」
 聞きなれた声だった。当の「あいつ」、渡会亮太。勿論真吾よりは背が高いが、それでも5cmほど。なんでもこなして居るように見えるが、真吾は毎日亮太が凄い努力をしているのを知っている。大抵の科目はそれのおかげで1番だが、全く優等生らしさを出さない所、それでもってとても思いやりの利く性格から会って嫌な気持ちになるやつは少ないだろう。
 真吾とはかなり気が合う方で、中学生にもなってまだ一緒に学校に行けるやつが居るのは真吾にとっては楽しかった。
いまここで訳を聴いても良かったが、もっと落ち着いた場所で聴きたかった。
「よ、久しぶりだな。」
 自分でも少し皮肉が入っていたと思う。「久しぶり」の部分が2、3音高まる。
「まあ、ね。」
 と答えた。今日の亮太はやけに落ち着いていない。
 戻ってきたその日にも普通に話していたが、今日は違うようだ。
 しばらく無言のまま歩いた。非常に珍しい。なにかあったのかもしれない。
「何とか言えよ、なあ。」
 我慢できなくなった真吾が苛立ちも混ぜて言った。
「て、あれ?」
 隣にいるはずの亮太が居ない。後ろを振り返ってみると、亮太は何か鞄の中をごそごそやっていた。声がなかったのも当然だ。
「何やってんだ、お前……。」
「はい、これ持っときな。危険を感じたとき使え。いつも近くに居られるとは限らないし。」
 亮太は15?四方、厚さ5?程の白い箱を真吾に手渡した。菓子箱。恐ろしく「危険を感じたとき使う」べきものと結びつかない。しかし、亮太の顔は真剣そのもの。
「ああ、ありがと。はは、危険感じたとき食べさせてもらいますよ。」
「んなわけないだろ?中身は違うって。丁度いい箱がそれしかなかった。」
 ……だろうな。
「……んで、何なんだこれ?」
 思いっきり怪訝そうな顔をして箱を押し戻す真吾に、亮太は箱を押し付けた。
「まあ持っとき。必要になるときが来ると思うから。」
「何さ、その『必要になるとき』ってのは。」
「今日、か、明日。だと思うよ。」
 亮太は曖昧に答えた。
「んで、結局中身は?」
「爆弾。」
「ふうん……。どういう種類のさ。」
「もちろん今流行りのアタッシェケース型。」
「いや、まず形が違うし。しかも流行りかよ。それで、危険を感じた時どうするんだ?」
「自爆しろ。」
「よし、頼りになるな。」
 さして気の無い声で返事をした。
 この2人の間では常にどうでもいい、端から見て敬遠されるような会話ばかり繰り返されている。
「で、何が入ってんだ?」
 同じ質問を繰り返した。
「……悪いけど、こんな所じゃ教えられないんだよ。本当に来るっていう確証は無いんだし……。何しろあちら側の情報だからな。」
 わけの分からない事をブツブツ言っていたが、確かに校門には既に着いている。障子に耳あり壁に目ありどころではなく、まる聞こえにまる見えだ。もともと声の大きい真吾が怪しげな箱を振り回してぎゃあぎゃあ喚いていたら(少なくとも端からはそう見えたに違いない)見せようと思ってもあまり見せたくない。実際大抵の生徒の視線は2人に集中している。
「いやー……。何が入ってるのか分からないから聞かれてまずいかどうか皆目見当付かないが、ま、いいや。」
 我ながら適当な性格の本領発揮だ。
 箱を鞄にしまい、上履きに履き替えて階段を登った。踊り場の壁には落書き、窓ガラスは割られてガムテープで目張りしてある。げ、天井まで落書きがありやがる。暇だな……これ書いたやつら。
 と、どうでもいい事を考えていたら足が引っかかってこけかけた。まあ、上を見ながら階段を1段飛ばしで登れる器用なやつなんてそうそう居ないだろう。すれ違おうとした生徒に激突しそうになり、僅かな苛立ちをこめて睨んできたそいつに愛想笑いを決めてから少し急いで登った。
 3階までの階段を登りきってすぐの所が真吾たちの教室だ。この学校は俗にいうと「荒れて」いるわけで、不登校するやつらも多い。真吾や亮太は健全な普通の中学生(のつもり)だが、もちろん他にも健全なやつらもいる。
 当然というか、必然というか、しっかり登校してくるやつはまともなやつのほうが多い。ああ、「多い」だけだ。居ないとは口が裂けても言わない。
 教室に入ると、真ん中らへんに座っていた天田功が声をかけてきた。これで「コウ」と読む。コウ以外に読めそうも無いが。まあ、数少ない「健全」な中学生の1人だ。
 勉強は亮太と同じぐらいに出来る、亮太と同じぐらいの身長の分厚い眼鏡をかけたやつだ。
 となりには浦木四郎、背は真吾と同じぐらい。よし。
 健全かどうかといえば、ギリギリの瀬戸際って所か。まあ、学校に来ているだけ褒めてやろう。わけの分からない計算をしているところに功の声が割り込んできた。
「よぉ渡会、戻ってきたか。あ、稲葉も。」
 とってつけたような気付き方でちっとムッと来た。そう、こいつも真吾と同じ、亮太がどうのこうのの事情には気付いているらしいと思われる。
 恐らく俺と功だけだろう、気付いているのは。大体気付かないのがおかしいと、真吾は考えるが。
「ああ、ただいま。」
 亮太はごく普通に返事を返す。微妙にわざとらしかったが、功もそれに気付いたようだが、しらんぷりしていた。四郎はきょとんとした顔で、
「あれ、別に度会は居なくなってなかっただろ?」
 と言ったが、今度は2人であわせて適当にごまかしたようだ。
 四郎はアホなので、あっさりと今日の午後のテストについて話を反らされ、どうやらそれどころでは無くなったらしい。
 とにかく、席はガラガラ。10数人しか居ない。1番後ろの列に2人並んで座った。やっぱり、後ろの席は人気があるんだが、たまたま空いていた。
 戸が開き、担任が入ってきた。教室の中のざわめきは一向に静まらない。居るやつらだけチェックすると、さっさと出て行った。この学校の先生方は皆生徒に恐怖を感じている。こうなっちゃ教師としちゃあ失格だな。まぁ、生徒達の方に原因があるのだから仕方ないが。
 退屈この上ない。机に片肘を立てると、意識が遠のいていった。単純かつ手っ取り早く言えば、寝たわけだ。

2章〜フラッシュバック〜
 
 ま、夢にしちゃ、やけに現実っぽかったといっておこう。既視感……だっけ?とにかくそんな感じの夢だった。
 真吾は学校からの帰路についていた。いつも通り。
 既視感も何も、毎日見ている光景だ。そこのコンビニの先を右に曲がると家に着く筈だった。とにかく、真吾は変な物音を聞いたのだった。なんだか物と物がぶつかり合うような音だったが、普通の音ではなく、あとに高く響くような音だ。TVゲーム特有の音だ。
 何処から聞こえてくるのか分からなかったが、なんだか心地よい音ではなかった。 音の来る方向をもっと耳を澄ませて感じ取ろうとする。………。何処から来るのかは分からなかったが、何となくコンビニの先を左に曲がった方から来ている。
 予感しかしなかった。
 が、好奇心につられて左に曲がった。曲がって直ぐの所にかなり前から潰れていた廃工場がある。音がだんだん大きくなってきた。ああ、間違いない、ここだ。
………どうしよう、行くか?なんかヤバい感じがするんだよなぁ……。

 悩んだ挙句、結局廃工場に入ってしまった。最初に見えたのは何か……茶色っぽい……なんだあれは、ロボットか?頭部は台形型で、黄色い正方形がその真ん中にあり、チカチカ光っている。カメラか?それで右手には……マシンガン?
(えぇー!?)
 左手には円形の……おそらく盾なんだろうな……。
 と、わけの分からない想像をしている自分が馬鹿らしくなってきた。
(なんだこれは……。ってアホらしい……。)
 見ている事全て、ワケが全く分からなかった。第一、銃刀法違反だ。こんなに沢山の武装を隠して置ける場所もそうあるとは思えない。
(夢……なんだろうな。)
 とはいえ、全く夢の気はしない。あまりにも現実じみた感じがする。
 とにかく、そいつらが数十体、何かを取り囲んでいた。やつらは背が高く、1m60ぐらいだろうか。(へ、どうせ俺は背、低いよ)
 何を取り囲んでいるのかは見えない。でも、そいつに向かって全員がしっかり銃を向けているのが見て取れた。
(……本当になんなんだよ?一体これは……。)
 と、いくら1人で考えていても何も始まりはしない。仕方ないのでとりあえず物陰に隠れて様子を見守る。
 と、やつらの中心から一瞬青い光の筋が上に向かって飛び出し、それがスっとまた下がった。スパ、という妙な音のあとに、1体の機械がまっぷたつに割れて爆散したのがはっきりと見えた。
 3秒の静止のあと、機械どもは一斉に銃の引き金を引いた。恐ろしい爆音がするだろうと耳を塞いだが、出てきた音は意外にも小さく、パパパパパ、という単調な音が響いた。
 無数の黄色い光の弾丸が凄まじい速さで飛んでいった。音だけすると大した事はなさそうだ。が、予想に反して破壊力はかなりあるらしい、やつらが一斉に撃ったコンクリートの地面は穴だらけになった。やつらが目指すものはどうやらそこには居なくなっていた。
 その瞬間、無数の青い弾丸が上から降り注いだ。
 5、6機の機械が穴だらけになって倒れた。
 慌てて弾丸が降ってきた方向を見上げる。
 ………。そいつは生身の人間に見えた。というよりも、実際そうだろう。
 20代後半、というところか。
 とにかく、高く跳んだそいつは両手に……1本ずつ筒を持っていた。筒を持った両手は男の前で交差され、その交点の先に狙いを定めるように機械の群れがいた。
 筒は1つ1cm位の長さだった。
 次の瞬間、男は機械の群れに急降下した。降下する途中に両方の筒の外側を向いた方から先ほどの緑色の筋がほとばしり、30cmほどの長さの両刃の刃の形にまとまるのが見えた。幅10cmほどの、薄い細長い2等辺三角形形の刃だった。
 そのあとは目に止まらず、気付いた時には男は着地し、その真後ろで機械数機が頭を跳ね飛ばされていた。
突き刺された機体はチリチリと音を立て、そのまま崩れ折れた。
(……あ、危ないんじゃないんですか……?)
 即座に機体は爆発。辺りに煙が立ち込める。
 至近距離での爆発は免れない。男はまともに背中に衝撃を受けてしまっただろう。機械たちは盾を構え、全然大丈夫なようだ。それはそうだ、互いの爆発で壊れちまうんじゃ使い物にならないか。互いを見あい、ちらちらとカメラを光らせた。煙が薄くなる。
 男はそこに平凡に何も無かったかのように立っていた。爆散した機体がいた辺りに平手をかざしていた。もーう、わけが分からない。
 とりあえず男は全然平気なようだ。今度は機械たちが少しあとずさった。そこに男が逆手に2本の刃を持って一気に接近した。なにがなんだか知らないが、水泳の蹴伸びのように宙を蹴ってその反動でスピードを得ているようだった。機械たちの群れに突っ込んだ。逆手に持った刃が一気に5、6体を引き裂き、片手の拳を地面に付けて着陸した。
 勝敗は決まったようなものか。しかし、まだ敵は沢山居る。さらに機械たちには完全に背を向ける格好となった。やつらは一斉に撃ち始める。男は横転し、2本の筒をしまい、今度は白い拳銃を2本取り出す。一時物陰に隠れる。
 よりによって真吾と同じ物陰に。
「………!!」
 男はかなりびっくりしている様子だった。
「あ、あのぉーー……どうもー……はは。」
 としか言いようがない。
「君はここに居てはいけない……。」
 んだろうな、おそらく。
「いいか、このことは見なかったことにしてくれ、って言っても守ってはもらえなそうだな……。」
 ごもっとも。
「………そうだ!」
 言うなり、男はポケットからレーザーポインターの様な物を取り出し、スイッチを入れた。緑色の筋が発射され、真吾の目を射った。
「う……。」
 頭の中がもやもやしてくる。
「よし、これでここで見た記憶は消された筈だな。」
「……くっ……。」
「よし、すぐここから出るんだ、分かったね?」
「ん……よく分からないけど、分かった。」
 真吾はここで廃工場を出る。
 出るなり、真吾はガッツポーズ。
「へへ、やった!」
 真吾の手の中にはしっかり、男の持っていた筒のうちの1つが握られていた。演技は上手くいったらしい。真吾にはあの記憶を消すなんたらが効かなかったんだな。なんでだかはよく分からないが、結果よければ全てよしってね。
 ………。
 あのおっさん、大丈夫かねぇ……。
「よしっ!」
 声に出して気合を入れ、真吾はまた出たばかりの廃工場に駆け込んだ。
「俺って……お人よし?……なんだか、なんのために外に出たんだろうな……。あ、そうだ、外の空気を吸いにでたんだな、うん。……多分。」
 自分の謎な行動に無理にこじつけをしながら。


 入ったら、まだ激戦の真っ最中だった。
 男は今は物陰から拳銃で敵と応戦している。
 出口に1番近い、さっきの物陰だ。
「やあおじさん、助太刀しますよぉ……。」
 耳元で囁くと、
「う、うわ……。」
 男は飛び退いた。そして大袈裟にため息をつきながら、
「だから……、早く君はここから………待てよ、記憶が消えていないだって……と、いうことは君は……そうだったのか!よし、援護してくれ!」
 と、自問自答してから援護を要求。
 ……わけわからない……。まあ、もともとそのつもりで来たんだからやるべきことは変わりはしなかったが……。
「なんだか知んないけど、わかった、やってみる!」
 男は筒のうちの1つを真吾に渡そうとしたが、にこにこしながら差し出された真吾が盗んだ筒を見てびっくりし、
「そうか君も持ってるはずだな……。」
 と、一人合点。ま、いいや。
「あと、銃も1つくれると嬉しいね。」
「ああ、いいだろう。」
「よおし、いざ勝負、ポンコツども!」
 飛び出そうとする真吾を男が襟首を捕まえて引き戻す。
「いいか、敵の主力は陸戦型の量産機、コードネーム「ヴェステ」だ。君もデータは暗記している筈だが……古い型ではないからな。それにこの数を侮ってはならないぞ……。慎重にいく!分かったな!」
「りょーかい!」 
 本当は全く了解してなかったが、侮ってはいけない事だけは分かった。
「よし、行くぞ!」
 敵の群れに突撃した。右ではまた男が5、6体と戦っている。ってよそ見してる場合じゃないって。
 突っ込んでくる真吾に前の方に居た敵はマシンガンを放して筒を取り出し、黄色の刃を形作った。そのうちの1体に向かって筒を突き出し、スイッチを押した。これで刃が形成されるはず……。が、形成されたのは7cmぐらいの、ナイフと言えばなるほどと思われてしまう刃だった。
「………どうなってんだ?」
 思うまもなく敵に直撃。
 敵は吹き飛んだ。大袈裟なぐらいに飛び退いた。
 が、勢い余って着地に失敗、その場にずっこける。すぐさま敵が一斉にかかってくる。倒れた真吾には抵抗は出来ない。刃が目の前にまで襲ってきた……。
「うわっ!!」
 と、周りの敵が一瞬注意を反らされた。
 刃を突き出してきていた敵が頭から煙を出している。
 その後ろに男が銃を構えていた。
「駄目だ、この程度の腕では敵わない。少しまた隠れていてくれ!」
 悔しかったが、確かに敵いそうにはなかった。
 男は多数を相手に善戦していた。敵の数は確実に減っていく。
 が、男の直ぐ後ろに敵が回りこんだ。
 筒を構え、刃を形成した。
 男は全く気付いていない様子だった。
 声を上げるにも、ここは広い、届かない恐れもある。
 仕方ないので、銃を取り出し、照星に敵を合わせ、敵のところにピントを合わせる。照星がぼけて全く見えなくなった瞬間、引き金を引いた。
 筒を持っていない左腕に命中し、左手が吹き飛んだ。
 これだけだったが、男の気を引けたようだ。
 真後ろに回し蹴りをし、カメラを叩き割ってから銃で頭を吹き飛ばした。
「よし……。やるじゃないか、援護射撃を頼むよ。」
 男がこちらに微笑んだ。
「了解!」
 しかし今の攻撃で敵の目を引いてしまったらしい。10数機余っていた敵の半分がこちらに来る状況となった。
 しっかりと心を落ち着け、1機の頭を吹き飛ばした。ように見えたが、あっさり避けられていた。
「ち……。」
 あっという間にあとの半分を消し去った男が、直ぐさま敵に後ろから不意打ちをかけ、筒から出た細長い刃で敵を粉砕した。
 敵は全滅。勝ったらしい。
 男が歩いてきた。
 そいつに、1番重要な質問をぶつけてみた。
「あんたたちは……一体なんなんですか?」
「………え?だって……君はあれじゃないのかい?この近くに凄腕のPTが居ると聞いたが……名前は渡会亮太だって……。てっきり君だと……。」
 戸惑いを隠せない少佐の言葉を大声で遮った。
「亮太!そいつは俺の友達っすよ。」
「………嘘だろう?ということは……私は一般人を巻き込んでしまった……?いや、でも装備はとりあえず扱えたはずだ!じゃあ君も……PTなのか?」
「なんだか知んないけど、違うと思いますよ。」
「でも、君はPTになれる素質がある!今我々の戦力は不足しているんだ……。実はあまり言いたくないんだが、君もPTになってくれないか?残念だが今の我々ではいつか必ずこの世界の破滅が来る。可能性は全部試してみたいんだ。」
「いや、よく分かんないすけど。」
「そうだ、亮太君に聞いてみるといい。彼なら全て教えてくれると思う。君がPTになれたなら、また会える日もあるだろう。その時を期待するよ。それじゃ!」 
「待ってって!結局PTは何なんですか?」
「……今ここで説明するのは難しい。そうだ、亮太君に聞いてみれば、時間がある時に教えてくれるだろうさ。とにかく……、亮太君が長期間居なくなったのに他の誰も感じていない、という事態はなかったかい?」
「あ!あったあった!」
「そうだ、その時点で君にはPTになる素質がある……そろそろ大規模な攻撃が来る。自分の身は自分で守れ。使い方も亮太君に聞くといい。」
といい、真吾に銃を1本渡した。
「え……?いいんですか?」
「ああ……。まあ、亮太君から離れなければ大丈夫だろう。それじゃ、今度こそ!また会えるといいね!」
 男はさっさと出て行った
 ……あ、名前聞いてねえや。
 真吾は筒と銃を鞄の1番奥に押し込んだ……。


 目が覚めて、なんとなく僅かだが亮太の謎が解けた気がしてすっきりした。1時間目の授業が始まっていたが、無視して考えをまとめてみる事にした。亮太はPTとやらで、あの変なヴェステたちと戦っている。なんか軍事組織のような物らしく、階級もある。そして、亮太が任務に出ている間、亮太が居なくなったという記憶だけ消されていた。あまりしょっちゅう姿を消しても怪しまれるからだろう。しかし、PTの素質があるやつらには記憶消去は効かず、そのため真吾にはPTの才能があると発覚した。……なんの略だが知った事じゃないが。あとで本当に亮太に聞いてみよう。……『そろそろかな。』、『これ、危険を感じたとき使え。』、『そろそろ大規模な攻撃が来る』……あまりにも2人の言動は一致している。本当に現実なのかもしれない、あの夢は。たまたま偶然に完全に消された記憶があとからフラッシュバックしたのかもしれない。
 だとしたら、辻褄が通らないか。謎は沢山残るが、亮太に聞けばあとは全部分かるだろう。
 いや、まず第1段階の確認が今この場で出来る。真吾は机の横にかかっていた、底の方にぎっしりとどうでもいい紙やプリントの詰まった鞄を開け、1番奥まで手を突っ込んだ。
「………あった……!」
 と、いうことは実際PTというのはあって、亮太はそれであり、その敵の大規模なが今日か明日来る、という事になる。真吾もその時は戦うのだろう。というよりも、戦わなければならない。でないと周りの人々にも危険が及ぶだろうから。そうだ!これが真吾に出来ることだ!真吾は数少ないPT候補なんだから、他人を守らなくては……。なんだか英雄にでもなった気分だった。この装備もPTでないと使えないらしい。やっぱり真吾はPTの素質があるのだ。なんだか嬉しくなってきた。前にも思った事があるのだ。記憶を消す事が出来る道具さえあれば、人間の見る世界と実際の世界は全く違うものに見えるだろうと。科学と辻褄の合わない記憶は消しちまえば、みんな科学を信じるように。それが実際に起きた。大変興味深いではないか。完全に満足し、また寝始めてしまった。

3章〜戦闘〜

「おいっ起きろ!起きろって!何てやつだ、こんな時に寝ていられるなんて……。」
 亮太の声で目が覚めた。
「あいー、何だって?」
 半分寝ている真吾の耳元で亮太が思い切って叫んだ。
「敵が!来たんだよ!!今日か明日!来るって言っただろ!!」
「ああそう、そいつぁ大変だ。頑張れー……。」
 また頭を机の上に乗せながらちゃっちゃっと手を振った。真吾の反応に亮太は絶句する。
「あ、そ。じゃ、俺は先行くね。」
「……え……、あ……ちょーっと待ったぁ!」
 やっと目が覚めた。クラスに居たやつらは皆往生している。教室の戸は何かに塞がれているからだ。あれは……
「ヴェステだ!」
 思わず声が出た。そいつは戸の所に往生し、何かを待っているようだった。援軍を待っているのだろうか?確かに2、3機では何も出来ない。敵もPTの反応を感じているのだろうか。ここで逃がしてもならないので、少し困ったようにじっと突っ立っていた。
「え……?何でお前知って……ってんなこたぁどうでもいい!戦うぞ!」
「おうよ!」
 筒を取り出す。
「よし、行くぞ!」
「え……ってそいつはフォトンセイバーだ!何処で手に入れた?」
 へえ、フォトンセイバーっていうのか。
「夢ん中。」
「はぁ?」
「いいや、あとで説明する。」
今朝貰った箱を開ける。やはり中身はフォトンセイバーだった。少し長めだったが。それに白い銃が1丁。
「よっしゃ、功はこれ持って戦え!」
 功にセイバーと銃を手渡す。
「え?え?え?なんで俺が……?」
 完全に混乱。
「お前にもPTになる素質がある!だろ、亮太?」
「ああ、そうだ。ってなんでお前そんな事まで……。」
 確定、か。
「やっぱり本当なんだな、俺の見聞きした事は!まあいい、まずこいつら倒す!」
「まあいい、よし、行くぞ!……あとで正式な装備は渡す……それでいいんだな?」
「ああ、もちろんだ!!」
「ここは狭いから近接戦で行くぞ!」
 亮太が教室の戸に向かう。
「たんまっ!」
 真吾が止める。
「はい?」
「あの……もしかしたら親父の行方分かるかな……?母も俺も完全に記憶が無いんだ……。似てるだろ?」
 少し考え込んで、
「………ああ、見つかる可能性はある。」
「よし、PTとやらになる!」
「ああだからこいつらを全滅させるぞ!」
 今度は2人で教室の戸に向かう。
「たんまっ!」
 今度は功。
「はぁぁ?また?」
「はい何ですかぁ?」
「あのさぁ……どうやって使うのさ……、これ。」
 一瞬沈黙が落ちる。
「あ、そうそう、俺も聞こうと思ってた。」
 照れくさそうに言う真吾に亮太は唖然。
「あぁぁ……。」
 亮太は思いっきりため息をつく。
「使い方も知らずに行こうとするとは……どういう根性だよ!」
「使い方も知らずに行こうとする根性。」
「………とにかく、敵の援軍が到着するまで時間がありそうだ。教えてやる。……いいか?フォトンセイバーは非常にデリケートだ。半端な気持ちで使うとセイバーの方から拒否して来る。この刃は特殊な成分で出来ていて……、単純に言えば、セイバーは生き物だと思え。意識を集中すれば集中するほどセイバーの方も反応してくれる。あとで具体的に説明はするが……そういう風に説明すれば意味はつかめるはずだ。実際には少し違うんだが。とにかく意識に反応してより強力な刃が形成されるはずだ。エネルギーは充填されているから……あと、これ。」
 鞄の中から2人分のゴーグルを取り出す。後頭部に当たる部位に黒い直方体がすえられている。耳に当たる部分にはヘッドフォンのようなもので、そこが耳に当たった。にしても、生き物だってぇ?ま、これは亮太に聞こう。
「これで敵の情報はそれまでに調べられた情報を教えてくれる。ある程度は役に立つはずだ。……あ、功の分持ってきてねえ。」
「……あ。」
「ま、いいや、俺は大丈夫だ。それじゃ、いい加減行くぞ?」
「準備OK!」
功と真吾はゴーグルを装着する。黒い直方体にはデータがたっぷり入ってんだな。
 ゴーグルを装着した。カタカタと音がして、3体の敵の横に「ENEMY」の表示が出てきて、視界の端にデータが出てきた。
 
 コードネーム:ヴェステ、陸戦型量産機
 武装:フォトンセイバー、マシンガンetc...
 装甲:ネオ・チタニウム
 その他ごちゃごちゃと……。
「さて、いっちょ行くか!」
 亮太の掛け声に合わせて、フォトンセイバー筒の両端からしっかりした刃が形成された。1つの刃は50cmほど。
 真吾のは真剣に集中してやったら40cm程になってくれた。しっかりと形作られてはいなく、始終モヤモヤしている刃だったが、刃には違いない。
功のは真吾のよりへぼへぼで、2、30cmの刃が途切れ途切れ、消えたり点いたりしている。……大丈夫なのかぁ……?
「なんだこれ、壊れてんじゃねえの?」
「お前のせいなんだよ!」
 セイバーのせいにする功に2人が怒鳴った。
 亮太が先に行った。
「あとからついて来い!」
 って言われてもなぁ……。
 ヴェステたちはびっくりして、いきなり亮太に向かって撃ち始めた。亮太はフォトンセイバーを片手で回転させて盾を形成し、弾を弾き返した。弾き返された弾は1番前にいたヴェステに命中して、そいつは盾で弾を防ぐ。そこに亮太のセイバーが一閃して上半身が飛んで行った。ヴェステ撃破。爆発を避けて飛び退く。
「よし、演習だ、真吾に功、1機ずつやってみろ。」
「えぇ……?」
「よっしゃ!」 
 真吾は早速突っ込んでいき、1機に切り掛かった。セイバーは肩から入り、胸の部分で止まった。やっぱり切れ味が悪い……な……。とりあえず引き抜こうとする。
………抜けない。
ヴェステはチリチリいい始めた。
やばい。たまらなくやばい。
3、2、1、とカウントダウンしようとしたら、2の時点で爆発した。
うわぁ。
目の前に亮太の手があった。が、フォトンセイバーかと思いきや何も持っていない。あの少佐と同じ技か?
「はぁ……ありがと。」
「気にしない気にしない。はい次、功クン。」
「え……あ、はい、教官!」
 びしっと敬礼を決めて残り1機となったヴェステに近づく。
 ヴェステもセイバーを引き抜きやる気満々。功が躊躇していると、ヴェステの方からやって来た。
 セイバーが功の頭を掠める。功はしゃがみ込んでいた。隙を見せた敵の腹に突き刺し、直ぐ引き抜いた。……が、威力不足らしい。ヴェステは動じることなく2回目の攻撃を始めた。上から下まで一刀両断。しゃがみ込んだ功には避ける術はない。
「うわあぁ!」
 と、功の絶叫が始まったか始まらないかの時に、凄い衝撃波が起こり、ヴェステの頭に細い緑色の糸が通過したのが見えた。ヴェステはその場で動きを止めた。その糸が通過した跡が少しずつ広まっていき、次の瞬間、ヴェステの頭は粉々に吹き飛んだ。後ろを見ると、やはり亮太。さっき功が忘れていった銃をもっている。
「はあぁぁぁ……。」
 功はその場に崩れ落ちる。
「お前、案外怖がりなんだな。少なくとも真吾よか見栄えはしたが。芸があったね。」
「……ほっといてくれ!」
 2人は同時に叫んだ。
「さてと……とてもじゃないが、ここに派遣されたヴェステはこれだけとは言えないな……。敵のPTも数人は有りか?まあ、各教室にPTが派遣されるはずだから、学校の事は任せておいて大丈夫かな。」
 と言っている間にメキメキと嫌な音がして天井に亀裂が入った。
「……とも言うわけには行かないみたいだな。このままだとこの学校、崩壊しますぜ。」
 功が言うと、
「……なんだろうな。」
 真吾も同意。
 ここは3階なので、上は屋上だった。
「そうそう、敵もPTは居るのか?」 
 と質問する真吾に、
「当たり前さ。機械だけで勝てると思うほど敵も阿呆じゃない。」
 亮太は当然のように言う。
「……敵って?」
「はは、まだよく分かっちゃいない。ただ、神出鬼没で、我々に敵意を持っていることは証明されている。」
「敵が分からないのになんで大きな攻撃が来ると分かったんだ?」
「さあね。不可解なことが多すぎる。敵の方からご報告を頂いたらしい。」
「なんでやねん。」
「知るかって。とりあえず今の任務はこの学校に攻撃してくる敵の迎撃と一般ピープルの避難の援助だ。分かったな?」
「了解!」
 また敬礼を返す功。なんか敬礼だけにはやる気あんのな。
「よし、じゃあ、いざ屋上へゴー!行くぞ!」
 と、やはり足を引っ掛けこけそうになる。やはり後ろを見ながら階段を一段飛ばしで登れる器用なやつもそうそう居ないものなのだろうか。
 階段を登りきると屋上との間を繋ぐドアがある。今は鍵が閉まっているが、ドアにしきりにどかどかぶつかってくる物が居るようで、少しずつ凹んでいる。いや、正式に言えば、こちら側から見れば少しずつ凸んでいた。
「……ご要望に沿って開けて差し上げます?」
 振り返り、親指でドアを指差して半分呆れ顔で聞く真吾に亮太は肩をすくめた。
「ううん……どうしようかなぁ……。」
 2人してドアを背に腕を組んで大袈裟に考え込む。
「じゃあ、4秒で開けるぞ?」
 人差し指を上げて亮太が提案する。
「なんでそんな微妙な……?」
「3秒じゃ心の準備が出来ないし5秒待つと緊張感がとける。」
「不可解な理論。」
「気にするな……。よしじゃあ行くぞ!4!」
「3!」
「2……」
「……カウントダウンする手間が省けたみたいね。」
 功が真吾たちの後ろを指差す。
「へっ?どういう……」
 「へ」の字を言い終わる前にドアがバンと開き、1機のヴェステが勢い余ってガラガラ派手な音を立てて階段を転げ落ちていき、柱の角に後頭部をぶつけてちりちり言い、カメラの光が消えた。ようするに機能停止した。
「……案外アホだな。一応高性能じゃないのか?」
「……だな。鍵をセイバーで壊せばよかっただけなのに。」
 ヴェステの勇敢な突撃は空しく評価された。
「さて、考える手間が省けた。行くぞ!」
「よし!」
 屋上は……敵がわんさか居た。ヴェステが10機程度……。あと、空をぶんぶん飛びまわってる白いのが4、5機。ヴェステの白いバージョンって感じで、だが補助ブースターが足に着いており、機動性はかなり高いらしい。にしては1mはあるライフルを持っており、攻撃力も高そうだ。が、その分装甲と物資は犠牲とされているのか。でないとバランスが取れない。……と、ガンダムファンの頭で考えてみた。まあ少佐が戦ってたのと比べりゃ少ないか。額に上げていたゴーグルをかけ直すと、詳細なデータが出てきた。

敵の総数:ヴェステ9機、ルフト4機

機体名:ルフト、飛行型量産機
武装:チェーンライフル、ビームポッド
装甲:ネオ・チタニウム
(以下省略) 
 
 だそうだ。
「さて……ルフトにはどう対処する?」
 唸る真吾に亮太が提案する。
「フォトンセイバーは釣竿のように伸縮したりしてある程度はバリエーションがとれる。刃の方はコントロールするには技術が必要だが。フォトンランスの形態は2m程度にはなる。ある程度は対空中に使えるかな。」
「なるほど?で、スイッチとかは?」
「無い。」
「なる、手動か。」
「違う。……言っただろ?精神的に作動するって……。体の一部を動かすように、自然な感じで。」
「あ……そうか。フォトンランスモード、展開!」
「……いちいち声出さなくともよし。」
 フォトンセイバーは伸び、白い長い棒になった。功もランスに形態変更していた。
 亮太は形態変更することなく2mほどの刃を形成した。
「うわ、すごいなぁ……。」
「お前らも慣れれば刃の形は調整できるようになるさ。さて……遠距離攻撃が厄介なルフトから片付けるか?」
「ヴェステだって遠距離も十分強いだろ。あのマシンガンの威力。」
「ルフトは遠距離でかなり強い分近接戦は出来ないようだな。」
「ヴェステ先に片付けたら?」
「やってる間に遠くから遠距離直撃されたらおしまい。」
「だよなぁ……。ってそうかぁ?でもそれじゃあこっから先どうすんだ?」
「やっぱルフトだな。」
「でもルフトと戦ってる間にヴェステが切り掛かってきたら?」
「避ける!」
「無理無理!」
「………なぁ、考えてみればさぁ……、俺たち敵の目の前に居るんだろ?考えてる暇ってあり?」
 功がまだ講義している2人に忠告する間もなく3人は一斉射撃を受けた。
「下がれ!」
 亮太が叫んで1歩前に出る。真吾は3歩、功は5歩下がった。やっぱ臆病?
 すぐさま両手を前にかざし、自分をかばうように顔の前で両手を交差した。
 凄い波動が起き、亮太の両手を中心に緑色の薄い膜が張られた。
 敵の弾丸は全て跳ね返され、あさっての方向に飛んでいった。そのうちの1発は1機のぶんぶん飛んでいたルフトに命中してルフトは墜落していった。そのあと十秒間は攻撃が続いたが、やっとこさ敵も効いてないと思ったらしく、攻撃を止めた。
「へへ、フォトンシールドの威力を見たか!」
 真吾が得意そうにヴェステたちに叫んだ。
「お前が言うな!」
 亮太が振り向いて叫び返す。
「さて……で、結局ルフトとヴェステ、どっちを先に……?」
 功がまた問題を切り出す。
「この場合……。」
「この場合……?」
「両方一気に相手をする!」
「まじで。」
「もちろん。今の攻撃で敵は弾薬を半分は費やしたはず。絶好のチャンスだ!」
「じゃあ、行くぞ!」
「……待った。功クンは少々接近戦に問題が残るので後ろから援護してくれたまえ。ほら、銃。」
「……ちぇ……。」
 銃を受け取り、後ろに戻る。
「防御の面では心配するな、出来る限りフォローする。」
「出来る限りって……。おいおい、フォロー出来なかったら?」
「やばい。」
「な、なんと……。」
「大丈夫だって、この程度の敵、俺の敵じゃなーい。」
「敵は敵だろ。」
「……まあ、そうだな……。でも……そのな……慣用句ってのがこの世の中にはあってだな……。」
 真吾の無知なつっこみに亮太は目に見えてうろたえる。
「だから、お2人さん、敵の目の前だって……。」
「あ……。」
 亮太がまたシールドを張って敵弾を弾き返す。
「だから俺が言っただろ?こんなことやってる場合じゃないって……。」
 真吾が亮太に指を突きつける。
「言ってねえだろ!?」
「まあとにかくやってる場合じゃない。」
「うむ、それには一理ある。さっさと片付けるか。」
 亮太がおもむろに敵のほうを向く。
「だから……。さっきから何回も言ってるじゃないか……。」
 功がガックリと肩を落とす。
 敵の配置は、右前方にヴェステ4機ルフト2機、左前方にヴェステ5機ルフト1機という配置だった。
「よし、じゃあ納得のいくように配分を決めよう。俺が右舷の6機を相手にする。真吾は左舷の6機。功は集中的に真吾を援護。真吾には当てるなよ。」
「げ……。おい、気をつけろよ、功。というよりも、ぶっちゃけ具合悪かったら援護休んでもいいぞ……。」
「残念でした、具合はいいんで援護させていただきます。」
「……よし亮太、後方からの攻撃の防御頼んだ!」
「味方の援護から自分守るために援護頼むやつがいるかあ!」
「まことに残念ながらこの広い世の中にはそのような人も居るわけでしてね、度会クン。例えばね、きみの知り合いの稲葉真吾という人のような。」
「とにかく……とりあえずその通りで行く。いいな?」
「ああ。」
「で?やっと攻撃に出るわけ?結構敵さんもお人よし?」
 功が呆れて言った。
「当たり前だ、でも、『やっと』って言ってもここに来てから5分しか……。」
 真吾が亮太の腕時計を覗き込みながら言う。
「経ちすぎ!」
「よし、いい加減やる気出すか。」
「そんな台詞今日のうちに何回聞いたか……。」
「2回だろ。まだ。」
「あれ、3回じゃなかったか……?」
「いいからいいから……じゃあ行きましょう。」
 亮太が歩き出す。
「ああ。俺は右舷の6機、で合ってるよな!」
 左に向かって歩き出す。
 そこで亮太が本当にその場でずっこけそうになった。半分しゃがみ込む。
「……しっかりしてくれよ、左舷の6機だろ?」
「……あれ?左舷が右で右舷が左だっけ?あれ?いいんだろ?違う?」
「左右の区別もつかないとは……。」
 やっとこさ起き上がりながら亮太が呆れた。
「右舷が右で左舷が左!全く……。とにかくお前は右!右!右!分かる?中が『口』になってる方!『right』だよ!綴りは……。ああもうどうでもいい、こっちの方向向け!」
 功が真吾の向きを正し、
「はい、こっちに真っ直ぐ行く!」
 背中を思いっきり押す。
「あ、そうか……全く……。」
 真吾が頭を掻きながら敵に歩いていく。
「……何が……?」
 不可解な少年、稲葉真吾の背中を見て首をかしげる他ない浦木功であった。
 真吾は5m前に行ってからきっと身構えた。
 敵はさっき確認したとおりヴェステ5機、ルフト1機であった。
「さてと……どう料理するか……?」
 言う間もなく、敵が一気に撃ってきた。げ、まだ弾残ってるのか?横に跳んで何とか避ける。亮太みたいにセイバーを回転させて防ぎたかったが。
 ランスを杖にしてパッと立ち上がり、セイバーを抜き出すヴェステたちにこちらも応戦すべくランスを構え、刃を形成した。先ほどと大して変わらない刃が形成された。また抜けなかったら………全力を振り絞って引き抜く事にしようっと……。ルフトはこちらには何もしてこない。軽い分物資は少ないのか?
 ……そうである事を祈ろう。
 ヴェステたちはじわじわと5機横に並んで近寄ってきた。
「……料理されちまったりして。」
 功が撃ったらしきやはり細く弱々しい弾丸が真吾からすれすれの所をあさっての方向に飛んでいった。
「へたくそ!」
「しょうがないだろ!……ああ、だから後ろ向いてる場合じゃないって……。」
「え……?」
 ちらりと後ろを振り向く。
 ちょうど1体のヴェステが切り掛かってくるところだった。
「く……。」
 ランスを両手に構えてセイバーを防いだ。一瞬両断されるのではないかという考えが頭をよぎったが、今この状況では無視するしかない。
 ランスで敵のセイバーを押し返し、ヴェステは突然の反抗に一瞬よろめいた。よろめいたヴェステの頭に思いっきりランスの刃を突き刺した。
 といったら非常に気持ちがいいのだが、失敗したらしい。
 ヴェステはセイバーで受け止め、逆に押してきた。
「く……こ、の!」
 力じゃ勝てないか……。
 1回後ろに飛び退く。
 頭スレスレを勢いよくセイバーが振り下ろされた。
「隙ありっ!」
 無防備になった頭にランスを投げつけた。
 見事に頭を貫いた。
 そのまま一気にランスを引き抜いた。
 が、ランスを引き抜いたらついでに頭まで付いてきた。
「あれ……これってヤバイんじゃ……?」
 うん、実にヤバイな。
 しかし、しごく単純なことに気付いた。
「そうだ、刃を再形成すればいいんだよな。」
 1回形成を解いた。頭はぽとりと床に落ち、プスプスいっていたが、そのうち止まった。
「よし、1機撃破、だな!」
 正確には突き刺した時点で撃破はしていたが。ちらっと亮太の方を見る。
 一気に2機のヴェステを水平に切り裂き、残る敵はルフト1機になっていた。
「あらまー……。で、こっちは……?」
 数えるまでもない。併せて5機だな。ということは、亮太が5機破壊したうちに真吾はやっとこさ1機破壊した事になる。
「戦力の差、5倍……?」
 俺だってこの程度の計算は出来る。
 ま、あいつは凄腕らしいから、OK、と。
 ……何が。
 知るか。
「ああもう、ぶんぶん飛び回ってんじゃねえよ!」
 たまたま上を通っていったルフトにランスを突き刺した。
 そのままランスを下ろし、左にランスを構え、ヴェステたちの方に思いっきり水平に振った。ヴェステたちの目の前にランスが来たところで刃を再形成した。一瞬支えがなくなったルフトはそのまま飛んで行き、ヴェステの群れに直撃した。そのままフェンスを突き抜け、1機のルフトと2機のヴェステが屋上から落ちていった。
「へへ、あと残るは2機か……。俺も亮太ぐらいはやるってこと?なんてったって素質が……。」
 言ってる場合ではなく、足元に威嚇射撃が来た。
で、残りの2機を倒そうとしたら左から何かが凄い速さで通り過ぎ、その2機は両方とも真っ二つになっていた。
「……れ?」
 ちらっと右の方を見ると、亮太が着地しながらVサインをこちらに向けていた。
「こらぁー!俺の獲物を……。」
 功と真吾が同時に落胆した。
「なんだよ、せっかく助太刀したのに……。」
「だってさ、俺なんてさ、1機もやっつけてないぜ?」
「お前の腕じゃムリムリ、せいぜい俺を撃つのがオチだね。」
「なんとぉっ!」
「だってさっきの1発見たか?俺の華麗な身かわしがなかったら……。」
「お前がぼけっと突っ立ってたのをたまたま横を通り過ぎただけだろ。」
 痛いところに亮太が突っ込む。
「まあ、大丈夫だって、まだこれからも敵はわんさか来るから。」
 で、そうとりなす。
「やったぁ……でもないな。とりあえず屋上の敵は殲滅だ。他の場所に行こう。」
「んで、結局PTってのは……?」
 真吾が歩き出した亮太の背中に質問をぶつけた。亮太は一瞬立ち止まってから、振り返らずに答え、また歩き出した。。
「質問はあとあとー……。」
「どうでもいい討論で時間つぶしてるくせに?」
 功の鋭い突っ込みに目に見えて動揺する。
「ぐ、……痛いところを……。と、とにかく、時間がかかるので落ち着いてからー……。じゃあ、とりあえずこの学校の防衛が終わってからにしようか。」
「よし、約束だぞ。」
「それまでに死んでなけりゃな。」
「はぁっ、手厳しい。」
 真吾がおどける。
「じゃあ……、とにかくこの学校の防衛だな。他のところには行かなくていいのか?」
「他のところには他のPTたちが防衛に派遣されているはずだ。俺が受令したのは、とにかく付近にいる人々を守れという内容だけだったから。」
「その守るべき付近にいる人々を戦闘に引っ張り出すわけ?」
「仕方ないだろ、ここを守るためにはそれしかない。1人じゃとてもじゃないが抑えきれない人数だからね。」
「やっぱり、俺たちのおかげ?」
 真吾が調子に乗る。
「たまに足手まといだが。」
 功が茶化す。
「……ぐさってきた。ぐさっと。というよりも、1番の足手まといはお前だろ!?」
「だから大人しく後ろから援護したじゃないか。」
「ああ、そんでもって大人しく弾を当てようとしてくれたな。ホントに感謝に言葉もないよ。」
「まあまあお2人さん、でもまあ、よくやってくれたな。……と言ってもこれからだが。」
「……なのか、やっぱり。」
 真吾がガラになく真剣な顔になる。
「ああ……。で……、やっぱり付いてくるのか?後戻りは……出来るかもしれないが、したいんなら今しといた方がいいぞ。」
 亮太が核心に迫った質問をぶつける。
「もちろんだ……。親父が見つかるかもしれないし……。やっと自分のやるべきことがわかった。これを手放したくは無い。これが俺の進むべき道だ。」
「そうか……。なら……でも、お前乗りやすいタイプだからなぁ……。後悔しないか?」
「今の所するつもりは無いね。」
 真吾が曖昧に微笑む。
「よし……。で、功は?」
 いきなり話の矛先を向けられて功がうつむく。
「……わからないな。……でも、じっとしているぐらいなら……。行く。やられるのを待っているぐらいならね。」
「よし……。じゃあ決まりだな。ここの防衛が終わったら、正式な登録はするぞ。その時説明も全部する。」
「結局この3人か……。縁があるが……なんだか腐れ縁である気がしなくも無いな?」
「腐れ縁にならないよう努力しよう……、な。」
 そこで、3人まとまって吹き出した。
「さてと……大方片付いたみたいだな。他の階に……。」
 亮太がしきりに功が背後を指差しているのを気にして振り向いた。
 数10機のルフトが飛んできたところだった。
 ゴーグルの情報だと、43機。
「あらま……。」
「大丈夫、敵はまとまっている、任せろ!」
 真吾と功は離れて、亮太はしっかりと銃を構えた。
「これを使ったら一気に消耗する……。だが、今はこれしかない。やるぞ!」
 
 亮太は真っ直ぐ向かってくる集団に向かって銃を向けた。
 機械の数10機ぐらい……!
 大きく深呼吸をし、銃の横にある拡散攻撃用のレバーを引き、引き金を思いっきり引いた。
 巨大な半径50cmはある青い光束が真っ直ぐと敵の集団に向かった。
 集団の目の前でばっと光束がばらばらにわかれた。
 1つ1つの弾丸を操作した。
 くらっとは来たが、気にせずに操作を続けた。
 こいつはこっち………あれにはこの弾丸を……。
 一気に散開したルフトの集団に正確無比に1個体ずつに当たり、次々と落ちていった。残った2、3機のルフトは片手で軽々と撃ち落した。
「じゃあ……。他の階にも行ってみるか。」
 亮太が唖然としている2人を置いて先に歩いていく。
「倒し残した敵がいるかもしんないしな。」
 真吾が続く。
「俺は1体は倒すぞ!」
 功が気合を入れて2人に続いた。
 
4章〜ラプス〜  

 ……で、この有様か。
 ヴェステだらけ。要するに。
 廊下に面した窓は全部叩き割られ、外はルフトが見張っているらしい。
「………。」
 亮太が完璧に絶句する。
「何さ、これ。」
 功も完全に唖然としている。
「ヴェステ、だな。」
 真吾がボソっと呟く。
「……まあ。……だよな。」
「『大規模な攻撃』、ねぇ……。ホントに大規模だな。」
「で、どうします?これ。」
 真吾が大群を指差す。
「まず、敵は何体居るか……。」
 功がゴーグルを掛け、真吾も掛けてみた。
 画面が「ENEMY」の赤い表示でいっぱいになり、情報が5秒ほどのカタカタという忙しいゴーグルの計算音の後に出てきた。
 
 敵の総数:113機
内訳:ヴェステ79機、ルフト34機
 
「……あーあ……。」
 真吾が額をぴしゃりと叩く。
「1人……28機ね。余った1機は亮太に任せるとして……。」
 功が得意の暗算を披露するが、誰も驚く様子は無い。
「28……28……冗談……、だろ……?さっきの全部足したやつの2倍を1人で……。俺3機しか倒してないのに……。」
 頭がくらくらしてきた。
「28……2じゅうはち、にじゅうはちにじゅうはちにじゅうはちじゅうにはちじゅうにはちじゅう2……、82!?」
「おいおい……28機だってばよ。……1人当たり。」
 我を失っている真吾を亮太がたたき起こす。
「で?」
「やるしか……ないんじゃないすか?」
「やるしか……ないんじゃないよな。」
「……まどろっこ。」
「やるしかないんじゃないんじゃない、だろ?」
 復活したが、まだうつろな目をした真吾が言った。
「要するに、やるしかないってことだろ。」
「ん、そうだな。」
「それで……教室の中に居るやつらは?」
 功が最もな質問をする。
「まさか全員殺されたんじゃ……?」
 真吾が最悪の事態を予想する。
「一応言っておくが、やつらは人を殺さない。」
「は?なぜ。」
「あとで説明する。」
「あちゃあ、こりゃあ『あとで説明する』リスト作っとかなきゃな、忘れちまいそうだ。」
 真吾が壁に寄りかかる。
「で、まず敵の殲滅、だな。俺もこんな多数と戦ったの初めてだ。」
「やっぱり、か……。」
 そこで信じられない事が起きた。
 今まで113機と表示されていた敵総数が急速に減っていっている。
 何かとてつもなく早い人影が視界を右から左へと行ったり来たりし、機械たちは殆ど残像に攻撃している。
 それで、どさくさに紛れて飛んできた敵弾を避けきれず、(功は亮太の後ろにさっと隠れて無事だったが)やられそうになったところをいきなり目の前に人影が出てきて、一瞬だけシールドを張って防ぎ、また消えた。
 で、数秒後、51機。
「……はい!?」
 この事態には3人揃って唖然とするしかなかった。
 正確な数は知った事じゃないが、次の瞬間、恐らく約60機の敵が1体当たり5片ほどにこま切れにされていた。
 で、凄まじい爆発。
 亮太が促す前に功と真吾が亮太の後ろに構え、亮太はシールドを張った。
 爆発の煙が薄れてくる中を、人影が真っ直ぐこちらに歩いてくるのが見えた。
 背は165cm以上ある。また負けか……。
 で、そいつの顔が見えて来た。
 そいつは亮太に1対のゴーグルを投げ渡し、亮太はそれをかけた。
「ラプスさん!来てくれたんですか?」
亮太が叫ぶのが聞こえた。
「おおリョウ、なんだか新しいPTが2人も発見されてココに敵が集中するらしいって、情報が入ったんでね。助けに来た。まあ元班員を見捨てるわけにもいかないんでな。」
 突然の強者(過ぎる者)が亮太の知り合いである事に功と真吾はまたもや唖然とするしかなかった。
 ラプスは、長い茶髪を束ねた、真吾たちより1つ年上と見られる少年だった。
 手には2mほどのセイバーを携えている。
 アメリカ系らしい。
 英語……だったが、すぅっと頭の中に内容が伝わってきた。日本語を平凡に聞いているような感じだ。だが日本語ではない。とにかく意味だけが伝わってきた。ゴーグルに付いていたヘッドフォンのおかげ?
「とはいえ、挨拶はあとだ。こいつらを全滅させよう。」
 と、ラプスのセイバーから垂直に刃が形成された。
 鎌の形だった。
 1mほどの長さで、先端に向かうにつれて細くなっている。
「と、エネルギーが残り少ないんでね。援護頼むよ。」
「はぁ……。どうぞよろしくお願いいたします……。」
 真吾が完全な尊敬のまなざしでラプスを見ていった。
 援護を頼まれてよろしくと返すのもおかしいが。
 ラプスは一瞬きょとんとしてから、ぷっと吹き出した。
「そんなにあらたまらなくていいって、大して年変わんないんだし。」
 その声を残してラプスは消えていた。
 で、敵の大群の前にぱっと現れ、鎌を横に据えて、また消え、次の瞬間に向こう側に着地するのが見えた。
 敵総数:35機。
 1撃で16機。
 唖然としながらもこちらも援護をし始めた。
 真吾はフォトンセイバーの片端から刃を形成する。亮太は両端から形成、功は後ろに下がった。
 でも、そのうちに敵は全滅していた。
 ラプスが戻ってきた。
「まあ、旧型だしね。」
 口が閉じない2人にラプスが照れくさそうに笑った。
「それで……、きみ達が新しいPTね……。名前は?」
「あ、はい……。シンゴと言います。この臆病者がコウ……。」
 隣で意味もなくうなずきを繰り返していた功がはっと真吾をにらみつけるが、なにも言いはしなかった。
「シンゴにコウね……。あ……、自分から名乗らないなんて失礼だったな……。俺はラプス……。ラプス・ストライフ大尉だ。よろしく!」
 手を差し出してきた。
 真吾もその手を握り返す。
「また昇格したんですか?」
 亮太も握手しながら言った。
「まあね……ま、実際には階級なんてお上の偏見の混ざった区別でしかないんだが。さて……。正式な登録は?」
「いや、まだです。ココの防衛が終わったら行くつもりです。」
「他の階の敵はとりあえず全部片付けておいたぜ?」
「……そうですか……。お世話になりっぱなしで済みません……。」
 功と真吾があんぐりと口を開けているそばで亮太が頭を下げた。
 さっきからずっとアホ面ばっかりだ、俺たち。
「いいっていいって……。新しいPTがどんなやつらかも見たかったしね……。なかなかどうして素質のありそうなやつらじゃないか?」
「そうですか……?そりゃどうも……。」
 真吾と功が2人揃って頭を下げる。
「それで……。本部にはどう行くつもりで居たんだ?」
 2人に頭を上げるよう合図しながら亮太に聞いた。
「そりゃあまあ……。ええと……まだ考えてません。」
 亮太が所在なさげに言う。
「ははっ!そうかと思ったこともあって俺はここに来たんだ……。総合本部まで連れてってやるよ。」
「あの……。総合本部って何処なんですか?」
 功が「連れてってやる」という言葉に疑問を持つ。
「アメリカさ。」
 きょとんとした顔でラプスが言った。
「は?アメリカ……?」
「そうさ、トーキョーにあるとでも思っていたか?何故だか被害が1番大きいからな。まあ、単に人口密度が多いということで被害者が多いと言うのも考えられるが。」 
 ラプスが不思議そうな顔をする。
「………。」
 本部が日本にあるとは思っていたワケでは無いが、しかしそんなに遠くにあるとは全く考えていさえいなかった。
「でも……まず装備を整えた方がいいんじゃないですか?」 
 亮太がおずおずとラプスに言った。ラプスは真吾たちの装備を見て、吹き出した。
「はは……確かにセイバー1本、じゃあなぁ……。よし、とりあえず日本本部に行くか!そこで装備は支給されるだろ。正式な登録はアメリカの総合本部でだが。」
「それは……何処なんですか?」
「これは、トーキョー。」
 ラプスが不安そうな顔をしている功に笑顔を向けて言った。
「なあんだ……。」
ここは東京だ。
とはいえ、同じ東京でも東京は広い。
「東京の、どこらへんですか?」
「んなに遠くないよ。歩いて1時間くらいかな。」
 遠くは無いが、近くもない。「んなに遠くない」は適切な表現だ。
 ラプスはすでに歩き始めていた。
 歩き始めて少ししてからラプスが亮太に聞いた。
「で……、リョウ、説明は済んだのか?」
「……あ、まだです……。」
「ふうん……そいつはいけねえや、こういうのは早く説明しておいた方がいいってもんだよ。」
 真吾と功がじっと亮太を見つめたが、亮太はあこぎにも口笛を吹いてごまかした。
「じゃ、うん、適当にどっかで食べながら説明するか……。俺がおごるよ。」
「え?ホントですか?」
 ここでは3人の息がぴったり合った。
「ああ、気にしなくていいって、腹減ってんだろ?」
「そりゃあ……。」
「かなり……。」
 今はもう午後の3時だ。
 昼を食べていない3人は今更になって腹が減ってきた。
 功のはらが思い切り鳴る。
「はは!よし、じゃあそこででも何か食うか!」
 お約束、マクドナルドだった。

第5章〜PT〜

 4人がけのテーブルに片方に真吾と功、片方にラプスと亮太、という形で座った。
「さてと……。何処まで知ってる?」
 ラプスがハンバーガーをそれぞれに配りながら2人に聞いてきた。
「えっと……。PTというのが居る事に、敵の種類にヴェステとルフトが有る事、それに……。」
「そうかぁ……。じゃあPTの役目とかは聞いていない……?」
 ラプスが肩肘をついてストローを口に含みながらもごもごと言った。
「ですね。」
「ふんふん……、で、それ以外には……?」
「殆ど聞いてないも同然ですよ。」
 功が亮太を横目に見ながら講義するようにラプスに言った。
 そこでラプスが笑った。
「まあまあ、そんなにリョウを責めんなって。リョウもちゃんと教える気でいたみたいなんだしさ。それより重要なのは今だ、今。それじゃ……。まずなんでこの戦いが起きているのかを言わなきゃならないな……よく分かっちゃいないんだが。」
 ここで苦笑いした。
「要するに、敵は別世界から来ている……としか考えられないんだな、これが。」
「は……どうしてですか?」
 やっぱ、別世界と来たら違和感を感じる。
「まず、1つに敵のヴェステやルフトといった主力の機械の原料のネオ・チタニウムな、こっちじゃまだ発見されてないんだよ。まあこれはこれから見つかる可能性もあるが。で、今味方に居る機械は敵の金属を回収して作り直した金属なワケ。で、あとやつらはホントにパッと現れて来やがんのな、ある場所にまとまって。どっかに突破口があるに違いないんだが、現れるところの共通点は全くない。時空の穴から浸入してでもいないとあんな芸当出来ないぜ?それに……、まあこれは言い出したらキリが無い。とにかく、別世界から来ている事が、まあ証明というか、そう考えられている。で、その別世界っていうのが、俺たちの世界に攻撃を加えてくるワケ。で、こっちは応戦していると。理由は謎。でも攻撃してくるからには迎撃しなきゃな。で、まあこれが今の俺たちの役目。」
「あの……ちょっと待ってください。人は殺さずに攻撃を仕掛けてくる……ワケなんですよね……?」
 功がワケが分からなそうに聞いた。
「ああ、そうだぜ?」
「それがどうして……。攻撃してくるなら、まあ少なからず占領とかの意識はあるわけでしょう?なら……そんな中途半端な攻撃のしかたは無いんじゃないですか?」
「ああ、それはな、まずコイツの存在を知ってないといけないな。PTの戦闘にも大きく関わる。」
 と、ラプスはポケットから高さ5cmほどの白い、金属の小瓶を取り出した。
「この中には俺の圧縮された非常用のMRPが入っているんだ。」
「MRP?」
「MRPって……?」
 功と真吾が同時に聞いた。
「はいはいはいはい、ちゃんと説明するって……。」
 小瓶を真吾に渡しながらラプスが苦笑した。
「あ、そうそう、リョウは休んでおいた方がいいぞ、疲れただろ?」
「あ、はい、済みません……。」
 半分寝ていた亮太が目を覚まし、また寝始めた。
「で、それでMRPっていうのはMindRewritePhotonの略で、まあ平たく言えば『精神を書き換えちゃう光子ですよ』って言う意味かな。こいつは、使う者の意思に共感して、共感しただけ無限に強くなる粒子で、PTによって1番扱いやすい粒子なんだ。不思議な粒子だろ?みんな普通にフォトン、って呼んでるが。フォトンセイバーの刃とか銃弾はこれだよ。で、コイツは精神無きモノは大抵突き抜けるほどに硬い。ネオ・チタニウムはこれでしか貫けないんだ。それがPTの必要とされている所以だよ。精神のあるモノ、単純に生き物だな、はコイツを食らうとその部位の精神をこのフォトンの特殊な作用によって書き換えられる。このフォトンには+と−と中性とがあるらしくて、敵が使ってくるのは−性。こちら側は+であることが分かっている。一般ピープルは中性だ。で、今までの結果に基づくと、+性の攻撃が−性の敵の脳に命中すると、それを中和させ、その先まで行くと+性になる事が分かっている。この逆もまた然りだ。書き換えるってのはこういう意味だ。要するに、こいつしか敵は使ってこない。もちろん向こうにも普通の火器があるはずだ。なぜMRPにこだわるのか……。それで、こっちは敵にもMRPしか使わない。何でだか分かるか?」
「こっちが火器を使ったら敵も使ってくる可能性があり、敵の場所にどう行くのかも分からない状態では民間人が
とてつもなく危険な状況になるから……という事ですよね?」
 真吾が答えた。
「ご名答!アメリカの総合本部が敵に向かって爆撃だのミサイル攻撃だの仕掛けようとする政府をまるめこむのも大変だったろうなあ。まあとにかく、+と−の違いは性質的にどう違うのかは分からないが、こちらの人間が+なら、+の人間はこちらの世界の人間である、という逆定理も成り立つわけで……。おおい、大丈夫かぁ?」
 眉をひそめて首を75度たっぷり傾げていた2人はとりあえず頷いて見せた。ラプスはジュースの蓋を開けて氷を喉に流し込んでから続けた。
「とにかく、敵の世界から来た今は+の人間は不思議な事に、記憶喪失になったこちらの人間みたいに普通に生活始められるんだよな。で、+と−の人間は相性が悪いと考えてくれればいい。+と−は互いに反発し合う。で、例えばこっちの世界の人間が左腕を敵に撃ち抜かれたとする。中性化で済めばまだ大丈夫だ。少しずつ周りに合わせて+化していくからな。だが、−化まで進むと危ない。−性の左腕は+性の脳の言う事など聞かない。その左腕は周りの+性の人間に攻撃性を表すんだ。でも、強+性も強−性も危険だ。一般の人々にも自分の属性でないことを理由に無意識に攻撃を加えてしまう。まあ、精神の本能的にな。理性で抑えるのが難しい段階になるって考えてくれればいい。ということで、弱+性か弱−性かが1番自他共に安全だな。と、まあ複雑になったが、こっちの人間は+性の精神、あちらは−性、敵がこっちの世界を見つけて攻撃を仕掛けてきたとしても偶然ではないというワケだ。+性の我々は−性のあちらさんとかち合ったら、反発するのもまあ、おかしくはないワケ。全て自分の意識で戦っているように思えても、実際にはある程度は本能的な精神の導きであるんだ。反発せずにはいられないんだ、逆局の2つの属性は。戦う理由も、大きい理由だか小さい理由としてだかは知らないが、理由の1つに含まれるだろう。それだけが理由なのかもしれないが。」
「じゃあ僕たちも本能に導かれて戦っているに過ぎないんですか?」
 功が神妙そうに聞く。
「いやいや、人間はそんなに単純な生物ではない。だからこそ、+性でも、自分の性質を頑固に押し曲げてあっち側についたPTもいるらしい。まあ……、必然ではあるが、人間なら、ことに戦う強い意志を持っているPTならば自分の本能を押し切る事も不可能じゃないってことさ。それほどまでに人間は強い生き物なのさ。それに、PTもそれぞれが戦う意思を持っていたら本能も相まってさらに強くなれる。意思が強ければいきおい精神によって+化されたフォトンとも共感するだろう。意思が強いから大きな刃が形成出来るのはそういうワケさ。集中するのはそこに刃の形に形成させるために力を注ぐためだ。どう?」
 口を半開きにして何度も頷いた。
「ふう……。それで、やつらは少しずつこっちの人民を−化し、あっちに連れ去ろうとしているらしい。それの理由は、恐らくは敵の人間の戦力の増強か。敵でない中性の人間を殺す筋合いは無いからか。殺すくらいなら自分たちに取り込んだ方が有効だと思ったのか……。ただ反発するだけでなく、知的生物の場合はもう1つ奥まで考え込んでいるからなぁ……。でも、+性の世界の滅亡には変わりはあるまいよ。まあ、敵の攻撃してくる理由については俺の予想でしかないがな……。これで、PTの戦う理由は分かったかな、大体。」
「え、でも……、PTは結局は何なんですか?+性なのはこちらの人間のPTだと聞きましたが……?」
 功が今度は首を80度ちょっと傾げて聞いた。
「それはな……、ちょっと見てろ?」
 ラプスは両手を目の前で広げて、目を閉じた。そして、3秒ぐらい静止してからその手を勢い良くしっかりと組んだ。そして、目を開け、
「そのマッチ、取ってくれ。」
 と真吾に言った。各テーブルに灰皿とともに置かれているマッチを取ると、火をつけてくれと目で合図され、火をつけた。
「よし、じゃあそのマッチを俺の両手の上に持っていってくれ。」
 言われたとおりにすると、ラプスがそっと僅かに丁度穴がマッチの火の真下になるように手を開いた。
 すると、ポンという間の抜けた音がした。
 仰天した2人にラプスが笑いかけた。
「空気中にあった水素を俺の手の中に集めてみたんだ。」
「でも……そんなこと……。」
「これが出来るのがPTさ。ParticleTransporter。粒子程度の大きさのものなら念じる事で自由に動かしたり合成したりとか出来る……。ほら……。」
 今度はラプスの手の上に小さな水溜りが出来ていた。
「水素と酸素を結合させれば水が精製できる。MRPはPTが1番扱い易い粒子って言っただろ?PTでないとMRPを弾丸状や刃状にまとめることが出来ない。使おうとしても空気中に一気に拡散してしまうんだ。無論密度も一気に低くなり、効果も無くなる。MRPを形にとどまらせておける時点でPTなんだよ。水素だの酸素だのはMRPのような素粒子が集まった原子であるから、MRPよりも質量が大きいために扱うのが難しいが、要するに大きくは変わらない。」
「ふぅーん……。でも、どうして敵の機械はフォトンが扱えるんですか?」
 ここでラプスが難しい顔になる。
「それがだな……敵方ではモノに仮の精神を取り付かせる事に成功したらしい。一定の生物の放つパルスのようなものもどきを作り、フォトンはそれに騙されて、共感してしまう為にしっかりとコントロール出来る。恐らく取り込んだこっち方の人々にもその技術を応用するつもりだろう。」
「なんとあこぎな……。」
「そうだ、精神の導きが何だろうと、そんな正攻法も出来ずにちょびちょびやって来て、せっせと仲間を作っては突撃させるやつらの気が分からないな。いつか助け出してやれるまで連れていかれたやつらはずっとやつ隷扱いだ。ただでさえ短い他人の人生を踏みにじるようにするやつらなんかロクなやつらじゃないだろう。こちらもこっちの世界が占領されないためには例え元々+性であった人間だとしても容赦せずに相手しなければ、本当にそいつのためにはならないだろう……実はいくら脳が−性になろうと、本能的な精神は残る。で、もともと+性のやつは恐ろしい頭痛に悩まされる事になる、死んだ方がマシってぐらいにな。何があっても乗っ取られないようにな。と、こんな感じだな。どう、参考にはなった?」
「なんだか頭が痛くなってきた……。」
「はは、まとめて覚えろなんて言わないよ。少しずつでいい。ああ、あと、この話は結構俺の想像も入っている。収集した情報を自分で組み立てなおしてみた程度だ。……事実じゃないかもしれないが、別の世界があるというのもな……。でも俺はコレが1番理にかなった説だと思っている。きみたちも時が経つにつれて情報を集め、自分なりの戦いの理由や内容について考えてみて欲しい。……さてと、そろそろ行かないと支部に着くまでに日が暮れちまう。そろそろ行くか……。」
 午後の4時だった。
「おい起きろ亮太……。どうだ?大分気分良くなったか?」
「はい……。」
「一体……?」
 戸惑う真吾にラプスが説明した。
「あんま粒子を動かす力を使いすぎるとこれが疲れるんだ、精神的に。そりゃあ、普通の人に出来ない事をするんだから、不思議じゃあないが。。……コイツ、シールド何回ぐらい張ってた?攻撃とは違ってかなり消耗するからなぁ……。」
「3回です。でかいの。」
 真吾が手で直径1m位を示した。
「ふうん……直径10cmぐらいならずっと張りっぱなしでもある程度は大丈夫だが……。ま、コイツの腕で3回なら大丈夫だろ。リョウ、行けるか?」
「もちろんです。行きましょう。」
 亮太がよっこいしょとばかりに立ち上がる。
「ムリすんなよ?」
「大丈夫です……。」
「よし、それじゃ出発!」
 歩き始めてから少しすると、先に歩いていたラプスがこっちにくるっと向いてきた。
「きみ達、実戦経験は?何機倒した?」
「3機です。」
「……0機です。」
「ふむ……。セイバー1本で3機ね……。初心者にしては十分じゃないか?功は、どうせ亮太に全部とられちまったんだろ?」
「はあ……。まあそうです。」
 功が照れくさそうに言ったが、亮太が聞き捨てならなそうに不満な顔になった。
「さあて……、そんじゃ、亮太も疲れてるみたいだし、横着するか!」
 ラプスが丁度通りかかったタクシーを止めた。
「支部まで!」
 真吾が行き先を指示するが、運転手は目を白黒させるだけだった。
「ええと……。じゃなくて、とにかく言う通りに運転してください……。」
 亮太が助手席に座り、方向を教えながら、車は走り出した。
 功は寝始めていた。
 ラジオが緊急放送を流していた。
「………我々PTは、あなた達を敵の脅威から守るためにここに居ます。PTたちは青と銀の制服を着ています。敵の襲撃が来たらなるべくPTの近くに集まられるのが1番安全であります。PTたちもあなた達を全力で守るために戦っています………」
 どうやらPTの存在を公表するものらしい。
「いいんですか?今まではムリに隠してきたのに……?」
「ああ、こんなでっかい攻撃が来たら消し去れないだろ。全世界に襲撃が来たんだから。隠してる場合じゃないって……。出来る限り一般人を守らないとな。まあ、最初は信じられないだろうが……。隠してるよかましなんじゃないか?」
 10分ほどして車は到着した。
「おい、降りるぞ?置いてくぞー……。」
 ラプスが功を無理やり車から引き摺り下ろし、運賃を払った。
 目の前にあったのは、5階建ての、まあ要するに廃ビルだった。
「………。」
「大丈夫、中は綺麗だから。一目じゃ分からないようにしとかなきゃいけなかったからね。今はもう関係ないが。リフォームした方がいいんじゃないか?」
 まあ、確かに中は外とは打って変わって綺麗だった。
 滅茶苦茶綺麗というワケでもなかったが。
 自動ドアを入って直ぐに普通の会社のようにロビーがあった。
ロビーにはソファーが何組かとテーブルがいくつか置いてあり、あの青い制服を着た、おそらくPTたちがぱらぱらと居た。作戦会議のようなものをしている班も居るらしい。
「やあやあ皆さん、新しいPTが2人も誕生しました!これからどうぞ会う事があったら面倒見てやってください!名前は真吾君と功君です!」
 ロビーの人々から大きな拍手が上がった。
「これから本登録に本部に行く所ですが、その前にここで装備を支給してもらってからです。なんと、ご存知亮太君とたったの3人で1人セイバー1本ずつで数百ものヴェステが集まった学校を被害者1人なく守り抜いた、凄腕のPTたちです!」
 また盛大な拍手。
「ラプスさん……。違うんじゃ……?」
「いいのいいの、第一印象は大きく!必ずその位の腕になれるって!」
 戸惑う2人にラプスがぽんぽんと肩を叩いて囁いた。
「ははは……。」
 こうなったら笑うっきゃない。ヤケだ。
「皆さん!僕たちが来たからにはもう大丈夫ですよー!大船に乗った気でいてください!」
 真吾のヤケになった末の言葉にさすがにPTたちは苦笑した。
「ええと……。ははは、それじゃ!」
 ラプスに続いて3人はエレベーターに向かった。
「装備の支給は3階だ。」
 3階のボタンを押し、エレベーターが動き始める。
「どうしよう……。あんな事言っちまった……。」
「言わんこっちゃない……ノリやすいんだから……。」
 亮太がため息をつく。
「今のはノリじゃない……。ヤケだ……。」
「でも、ああいう前評判があると特権もあるんだぜ?まあ、向こうに着いたらこっちに来て恥じのない位に鍛えてやるから。」
 3階に着いた。
 出てすぐの所にカウンターがあり、そのカウンターの後ろに制服らしき服がびっしり、セイバーもいろいろな大きさの物が置いてあるようだった。
 ラプスと亮太とも顔見知りらしい。3人は軽く会釈しあった。
「やあどうも、装備の支給を受けに来ました。新人のPTが2人と、再支給を望む1人です。」
「そうですか、では新人の方々には制服と防具、それにライフル1本とセイバー1本、MRP1?が支給されます。それ以上は敵から奪うなり買うなりしてください。よろしいですね?」
 カウンターの奥に座っていた事務員が棒読みに言った。
 ここぞとばかりにラプスがカウンターに体を傾ける。
「それがですねぇ……そんじょそこらの実力の持ち主じゃないんですよ……。知ってますでしょう、ここから1時間ほどの距離の中学校に数百のヴェステが襲撃してきたのを……。」
「はぁ……。」
 事務員が曖昧に頷く。
「その学校を、なんとたったの3人で守りぬいたんですよ!3人ともセイバー1本ずつで……。しかも1時間以内に。」
「それは本当ですか?」
 これには事務員も唖然とする。
 げ……、とんでもない話になってら……。
「こいつぁ武装をケチってる場合じゃないですって……。相応する武装を与えたらもう何十人分の働きをすることか……。ああ、ライフル1本にセイバー1本とは……あまりにも3人の実力に失礼ですよ……。」
「………では実力を見せて頂きましょうか……?亮太君の実力は分かっているので新人お二方に……。」
 落ち着きを取り戻した事務員がすらりと言った。
「えっ!?」
 これには4人まとまってヤバイと思った。
「どうかしましたか?最近そういう事が多いもので……。ほら話でごまかして強力な武装を手に入れようとする人々が……。まあこの前あなたが亮太君を連れてきた時は確かでしたが……。全く困るんですよね……。」
 大袈裟にため息をついてみせる。
「よし、それじゃあ、実力を見せてやろうじゃないですか!何をさせりゃいいんです?」
 ラプスが冷や汗をかいているのを無視して見栄を張った。
(う……。これはヤバイぞ……。)
 功と真吾が同じ心境で互いを見合う。
「訓練施設へどうぞ。5分間で2人で30機倒せたら実力は強力な武装を渡せるほどにはあるという事でしょう……。」
(……げっ……。)
が、ここではラプスは余裕、という顔をしていた。
事務員に案内されて着いた5階の訓練施設は、10m四方ぐらいのまっさらな部屋だった。
天井には戸のようなものが付いていて、そこから練習相手が出てくるのだろう。……30機。
「ではどうぞ?」
と言い、事務員はさっさと出て行った。
さて、功と2人きりになった。
「……どうするんだ?」
「さぁ……。やるしかないんじゃないか?」
『ええー……ではこれから訓練を始めます……。練習相手はヴェステの鹵獲機……では始めます……。イカサマをしようとしてもカメラが見ているので……。では開始です。』
 青いヴェステがまず3機投下してきた。
 功が慌てて1発撃つ。
 敵が一気に3機粉々に吹き飛んだ。
「……。あれ?どうなってん……?」
 また3機敵が出てきた。
 真吾が敵に近づくと、またもや3機ともあっさり消え去る。
「……???」
 その調子でワケも分からず戦っていたら、2分も経たないうちに敵が全滅していた。
 今度は揃って首を80°たっぷり傾けて出てきた2人を、亮太が驚嘆の眼差しで迎えた。
「お前ら、やればできるじゃないか!」
「いや……、俺たちにも何がなんだか……。」
 おそらく顔に「?」と書いてあってもおかしくないぐらいにワケが分からなかった。
「全く謙虚だなぁ……。さっきとはまるで違って……。まあいいや、3階で装備を支給してもらおう。」
「いやそうじゃないんだって……。あれ、ラプスさんは?」
「そういえば見当たらないなぁ……。トイレじゃない?」
「俺を呼んだか?」
 ラプスが後ろに居た。結構疲れた顔をしている。
「……ラプスさんがやったんですか?」
「まあね……。今回は特別だ。武装がいいのと悪いのとでは大きな違いだからね……。」
 さらりと言ってくれる。
「でも、部屋の中には居なかったですよ?」
「まあこれにはちょっとした仕掛けがあってね。きみたちも上達したら分かる日が来るさ。じゃ、武装取りに行こう。」
 ちゃっちゃとエレベーターに歩いていった。
 ……凄すぎだ。
 少なからず真吾には彼に対する憧れのような物があった。彼のようになりたいと、強く思った。が、そのためには努力せねば……。
「おおい、置いてくぞぉ……。」
 ドアが閉まり始める前に飛び乗った。


本当に仰天している感じだった、事務員も。
「え、ええと、とにかく……。はは、失礼しました……。ココにある1番強い武装を支給します……。ええと、3人分でしたね。」
 完全に動転した動作で装備を取りに行く。
「やっりぃ!」
 カウンターの奥のドアの向こうに事務員が消えた瞬間、4人は歓声を上げた。
「なにがですか?」
 ひょっこりとドアの奥から事務員の顔が出てきた。
「いや……。なんでもないんですよ……はは……。」
 ラプスが適当にごまかす。
 事務員が、ホントにこんなやつらに強い装備を支給してよいのか、という顔で首を傾げながら奥に引っ込んだ。
 1分も経たぬうちに、事務員が段ボール箱を2つ抱えて戻ってきた。
「ええと、これらがココにある1番強い武装となっています。制服は全員一緒なので……。」
 と、どっかりと段ボール箱をカウンターに置き、サイズの合う制服を3着持ってきた。
「亮太君も今日からこれを着てください。目立たなくてはならないので……。あ、あとラプス君は、アメリカで指示がありますから。」
「はいはい、分かりました。」
 武装を受け取って、エレベーターに乗る。
「6階は宿泊施設だ。まあ綺麗では無いが、今更止まるトコを探すわけにも行かないだろ。いいだろ?」
「あ、勿論です……。」
 着いたのは、病院のような長い廊下だった。両側にドアが並んでいる。
 ラプスがそのうちの1つを開け、荷物をぶち込んだ。
 4人部屋だった。2段ベッドが2つ。
 ラプスが鍵を閉めた。
「さてと……。どんな武装なんだ?日本の支部で1番強いのって……。」
 わくわくした様子でダンボールを開ける。
「うわぁー……。」
 開けた中身を並べてみると、白いツメのような武器が1対、70cmぐらいのセイバーが1本、砲身の異常に長いライフルに小型のセイバー、白いシールドらしき分厚い板にマシンガンらしき銃、1対のセイバーがあった。
「すっごいなぁ……、特にコレ!」
 白いツメのようなものを取り出してラプスが感嘆した。
「ストライククローだ!純粋なネオ・イリジウムだぜ?贅沢しすぎちまったかな?」
「それはどういう武器なんですか?」
 ラプスにわたされた1つを眺めながら真吾が聞いた。
 手首にしっかりと固定するようになっているようだった。ツメのようなものが3つ、装着したときに上になる部分に2つ、下に1つ、1つのクローについている。先のツメの部分が取り外し出来るようになっているようで、取り外したあとは上側と本体とがそこについている糸巻きのようなものから出るリード線のようなものでつながるようになっているようだった。
「これはだな、ホラ、ここに糸巻きみたいなもんが付いてるだろ?このネオ・イリジウムメッキされているリード線の中にMRPを通して、内部のMRPの膨張の勢いによってこのツメが真っ直ぐ敵に飛んでいくんだ。凄く便利な武器だぜ、応用も利くし……。引き寄せたり一気に近づいたりも出来るしな。装填したまま格闘武器としても使えるし。それに、両方にハンドガンまで装備されてるぞ。あ、シールド発生ユニットも……、小さいが。」
「おおお……。それで、ネオ・イリジウムってなんなんですか?」
 真吾がまた新しい単語に混乱しかけながら聞く。
「ああ、ネオ・イリジウムってのは、MRPとともに発見された特殊金属だ。ネオ・チタニウム以上に硬い金属で、MRPにもそう簡単には壊されない。少なくとも、機械が使うMRPならシールド張るよりもこのクロー自体で守ったほうが安全なほどだ。」
「うわぁ……そいつは凄いですね……。」
 功が感嘆する。亮太はもう寝入っていた。
「だろ?でもこいつは生産量が少ないんで、機械には応用できない。こんなふうに武装に転換して、PTたちに細かく分け与えるしかないんだ。それで……誰の武装にするのが最適か……。もちろん真吾君、きみだ!」
「え……?僕ですか?」
「ああ、しっかり見てたぜ?ランス形態でルフトを突き刺してヴェステ2機と一緒に屋上から叩き落したのを……。」
「見てたんですかぁ?」
 功が唖然とする。
 恥ずかしい1面を見せたと思ったのだろう。
「ああ、どのぐらいやるのかね、って見たかったからさ。」
「でも……そのうちに3階の生徒がやられていたかもしれないのに……。」
 真吾が微かに怒りを見せる。
「きみたちが出て行ったあとに俺が誘導して生徒たちの無事を見届けてから戻ってきたんだが?」
「……、さすがベテランですね。」
「慣れてるのさ。」
 びっくりする功にラプスが謙虚に答える。
「さてと……、よしじゃあ真吾君、試しに付けてみたまえ……。」
「え、あ、はい……。」
 クローを両手に装着してみた。使わない時は外側に2つ折に出来るようだった。
「ちょっとだけクローが動くようにMRPを動かしてみ?いいか、ちょっとだけだぞ?」
 動かす、という意味は分かっていた。もう1つのダンボールに入っていた圧縮されたMRPのカートリッジ1つをクローの後ろから差し込み、クローの先端に集中した。2つ折りになっていたクローが手の甲を覆うように装填され、派手な音がして、壁に穴が開いていた。次の部屋に廊下を経由せずに隣の部屋にいける道が出来た。戻ってくるよう念じるとクローが凄い勢いで戻ってきて、がしっと元の2つ折りの状態に戻った。肩が痺れた。
 一瞬沈黙が落ちた。
「……どう?」
「反応速度が良すぎです。ついでに、反動も……。凄いですね……。」
「でも、壁はどうする?」
 2人に功が尋ねる。
「ううむ……見つかったら弁償の金は俺が受け持とう。」
「毎回毎回済みません……。」
「いいんだって、やらせたのは俺なんだし。あと、しっかりと肩から腕を真っ直ぐにした状態でやったほうがいいぜ?」
 謝る真吾をラプスが止めさせる。
「あ、分かりました……。」
「さて、続きだ。コイツは2つ折りの状態から発射するのが普通だが、装填された状態だと……。」
 と続け、真吾の右手のクローを装填させた。右側と左側、両端についていたボタンを同時に押すと、音がしてホッチキスの針の形をしたグリップが出てきた。スライドさせることが出来るようで、真吾にグリップを握らせた。
「トリガーが付いてるだろ?」
 人差し指に当たる部分に引き金のようなものがあった。
「おっと、押すなよ……。それが射撃武器となるハンドガンだ。両腕についている。連射力が高いが、まあ出力は不足しているな。使い勝手は非常にいいはずだ。まあ慣れるまでは換装に時間がかかるだろうが、慣れりゃ問題ない。」
 左腕のクローも同じようにしてグリップが出てきた。
「よしと……あとはセイバーだな、ほれ。ランスの使い方が上手かったからな、これだな。」
 長いセイバーを渡してきた。
「形成してみ?」
 刃を形成してみると、また先から柄の半分ほどの長さの太い薄い刃が形成された。言ってみれば、両刃の大剣の刃を槍の柄に取り付けた感じだ。
「ほう、こりゃまた珍しいタイプだな。まあ、槍と言ったところか。でも、切りにも使えるな。まあいいや、形態変更は出来ないみたいだ。形態変更の機構を出力機関に換装しているらしい。」
 なるほど、要するに槍……かぁ?まあいい。でも、良く見てみれば青竜刀のような感じだ。ラプスさん、アメリカ人だから青竜刀なんて見たこと無かったんだな。考えてみりゃ当然かもしれない。
「よしじゃあ真吾はこれで決定だな。着替えな。」
 制服を投げ渡してきた。
 ロビーで見た通り、上下で青がメインだった。
 制服を着込んだら防具が渡された。
 青いヘルメットに、おそらく関節の部分につけるであろう防具がそれぞれあった。すね当てやひざ当ての類だろう。
「ああ、ネオイリジウムの生産量は少ないんで部分的な防具しか作れないんだ。守られていない場所はシールドで防ぐしかないわな。メットには、まあゴーグルと同程度の機能が付いてはいる。ただのゴーグルよか便利なはずだ。かぶってから頭の右のところのボタンを押すとバイザーが出る。ゴーグルと同じ要領だな。戻す時も同じボタンね。頭は1番大事だからな、脳やられたらちょっとやそっとじゃ戻れない。」
  バイザーを展開してみた。目の前に薄い画面が出てきて、ラプスの横に「Friend」の表示が出た。うん、確かにゴーグルとは変わらない。
「……で、功君は……。これでいいんじゃない?」
 銃身の長いライフルを功に手渡す。
「え……?ちょっと、まずいんじゃあ……?」
「大丈夫だって、スコープもついているから命中精度は抜群だ。」
 戸惑う真吾にラプスが安心させた。 
「あとは、遠距離で強い分近距離ではナイフで十分だろ。」
 と小型のセイバーを渡した。
「それで……、これは制服のポケットにでも入れておくんだな。」
 白い直径5cmほどの球形のものを数個渡してきた。
「これは……?」
「まあ、手榴弾のようなものだ。MRPの弾幕を張って、逃亡を助けたり敵の足止めに使ったりするんだ……。」
「なるほど……。」
「それで……、今寝ているリョウは1番上手だし、余った物で十分だろ。よし、じゃあそろそろ今日はここまでにしておくか?」
「……そうですね……。」
 11時だった。
「あ、そうそう、きみたちの家族居るだろ?きみたちについての記憶消しておくかい?……もちろんあとから復活させる事も出来るが。」
「ええ、よろしくお願いします。」
 2人とも同時に言った。
 母に心配かけているのを承知で戦い続けは出来ない。功も、
「絶対やめろ、と言うでしょうから……。」
 だそうだ。
「よし、じゃあ明日申請しておこう。それじゃ、寝るぞ……。」
 功と真吾はそれぞれベッドに潜り込み、ラプスも電気を消してからベッドに入った。
「じゃ、おやすみー……。」
「はい、ではまた明日……。」
 功は寝ていた。
 ヘルメットだけ外し、横になった。
 眠くはなかったはずだが、そんなことはおかまいなしに意識が薄れていった。

第6章〜疑惑〜

 寝ていたはずが、ぱっと目が覚めた。
 なにか、部屋の中で動いたような気がしたのだ。
「……誰だ?」
 わけの分からない言葉が返ってきた。
 ラプスだった。
 腕時計を見る。
 3時を回っていた。
 手探りでベッドの横においてあったゴーグルをかけた。
 ……ヘルメットかぶるわけにも行かないので。
 ラプスもかけたようだ。
「今までずっと起きていたんですか……?」
「ああ……ちょっと気になる事があってな。」
「なにがです?」
「ほら、昨日ちっとした試験の時があったろ、ヴェステを何体どうのこうのってやつ。」
「はい……。」
「あんときに降りてきたヴェステは機械にしては強すぎだった……。」
「というと……?」
「もしかしたら……ううん……あんまり言いたくないんだが、その……きみたちを殺していた可能性だって有り得たんだ。テストにしてはやりすぎだった。」
「え……でもMRPじゃあ人は殺せないんじゃ……。」
「言ったかもしれないが、MRPも極度の強さに達すると、精神を書き換えるどころか精神崩壊に陥らせてしまう場合もあるんだ。あの強さだったら、きみたちは2人とも精神崩壊していた可能性が低くはなかった。」
 少し沈黙が落ちた。
「……なにが目的だったんでしょう?」
「ううん……きみたちに対する殺意の表れか……しかし、それの原因が分からないな……。それか、ただのたんに噂を聞きつけてこの程度なら大丈夫だろうと強いやつらを投下した可能性もある。でもまだ分からないんだよな……。」
「なにがです……?」
「今までの俺の知識やら経験やらを併せても、思うにヴェステほどの容量であそこまで強くなれるはずは無いんだよな……。新しいジェネレーターでも開発されたのかねぇ……。まあ、ありえなくはないか、一応……。」
 頭をくしゃくしゃとかく。
「しかも、俺をばっちり閉め出さなかったのもおかしい。ホントに気付いていなかったのか……。いや、PTなら俺が手助けできることも予測は出来たはずなんだが……。」
「なんだか……、匂いますね……。」
「ああ……ちょっと不審だな。全く、敵が居なくても後ろを警戒しなくちゃならなくなるかもな……。」
 いつ味方に裏切られるか分からない、ということだろう。
 昨日の功のやったことを思い出して、場違いながらも吹き出した。
「ん、どうかしたか?」
「いや、思い出し笑いです……。」
 あまりにもラプスが言ったことと功のやったことが近かったからだ。
「なんだ……。まあ今気にしても仕方が無い……。今は寝るとするか……。」
 言って直ぐに、ラプスは横になった。
 真吾はまだ自分のベッドの中で考えていた。残念ながら、弱い頭で。PTを統率している組織は、自分らを殺していた可能性もあった。いや、殺そうとしていたのかもしれない。あの時出てきたテスト用のヴェステは自分たちに攻撃してきたことからすると、−性だろう。
……どうして、組織は−性のヴェステを持っているんだ?テスト機だとしてもだ。鹵獲して直ぐに+性にしないと危険なんじゃないか?テスト用にしては強かったと、ラプスさんも言っていた。……大体、敵からしか取れない貴重なヴェステなんだろ?テストに使うか?やっぱり真吾たちの−化や殺害を図っていたのか?
 ……なんの為に?
 俺は……恨まれるようなことは……してないわけでもないけど、殺されるようなことはした覚えは無い……と思うぞ?
 待て待て、第一、貴重な+性のPTを−化したり殺害したりしてどうするつもりだったんだ?
 ……皆目見当が付かない。
 少なくとも、PTたちは皆+性だろう。ロビーに居たPTたちは全く敵対心を見せはしなかった。やっぱり、−性なら本能的に敵対心を隠せはしないはず……なのか?……わからない、正直全く。
 敵は……別世界から来ているらしい。
 証拠は……ええと、ネオ・チタニウムの件と、いきなりパッと出てくること……。
 ううん……今の科学じゃあ、証明できはしないだろうな……。
 待て待て、科学なんて信じちゃあいけないな。
 今の状況を見てみましょうって、これで「まだ科学は正しい」とほざくのは、ちょっとタガが外れているでしょう。
 だがしかし、とてもじゃないが、すくなくとも真吾の頭では何も考え付かない。
 でも、これは言えるかも知れない。
 日本支部の人間は既に−化されている可能性がある。
 それで、+性の人間の消去をたくらんでいるのかもしれない。
 うんうん、なかなかいい線いってない?
 以後、日本支部には気をつけよう、と……。
 ……あれ?じゃあ、なんで俺たちに強い武装を?
 ……謎だ。
 ……あ、だんだん眠くなってきたな……。 
 今日はこの辺までにしておこう……。
非常に歯切れの悪い思考を残し、いつものように、あっさりと夢に落ちた。
2004-04-04 03:49:22公開 / 作者:ラプス・ストライフ
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■作者からのメッセージ
初投稿です!
ジャンルとしてはSFとアクション、ミステリーがくっついた感じでしょうか。
最初の方はつまらないかもしれませんが、あとから面白くなると自分でも思います。
何か指摘する点があれば、よければ教えてください。
この作品に対する感想 - 昇順
粒子送還師...w 一応、マルチポスト?
2004-04-04 11:07:24【☆☆☆☆☆】粒子送還師
計:0点
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