『ESPで行こう? ―舞台裏―』作者:神夜 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 これは、「ESPで行こう!」であって全く違うようで同じようで違う意味不明な物語です。
 つまりは題名そのまま意味で舞台裏の内容です。
 「ESP行こう!」最終章を読んで、まだ物足りない、又はあんなクソみたいなエンドで腹立だしく納得できない、そう思った時間のある方だけ御読みください。
 新規投稿するのは、あの世界とは違うからです。
 読んでみてくれればわかると思いますが、後悔する可能性もあります。
 その責任は一切問いませんの御了承ください。







「カットォ!! オーケーオーケー!! 御疲れ様!!」
 その声で一気に緊張感が溶けた。
 さっきまでの静寂が嘘だったかのように辺りは喧騒で包まれる。
 拍手する者、叫ぶ者、手を叩き合う者、ビールを飲む者。当たり前だが泣くものはいない。だって、あれで感動できるとは思えないし。
 どこのアホかは知らないが、ロケット花火を撃ち回すヤツがいた。空で弾けたそれに歓声を送る。
 そんな中で、誰よりも早くに舞台に駆け寄る者がいた。
「怜治さん、御疲れ様です」
 真央はそう言って怜治の前に立った。
 片手に持っていた缶ビールを手渡す。
「お、マジで? これ飲んでいいの?」
「もちろんです」
 缶ビールを受け取った怜治はその場でプルトップ開けて口を付け、一気に飲んだ。
 緊張から解き放たれた瞬間に飲むビールは格別に美味かった。
 缶一本を飲み干してから、手の甲で口を拭う。
「やべえ、マジうめえ」
「そうでしょうね。怜治さんずっと出っ放しでしたから」
「まったくだよ。主演ってのも結構大変だな」
 怜治は笑った。
 そしてふと近くを歩いていた人物に声を掛ける。
「西村、小野寺! 御疲れ!」
 声に気付いた二人が近寄って来る。
「御疲れ様です、黒崎さん」
 小野寺はそう軽く挨拶するが、西村はなぜか怒っている。
「どうしたんだよ?」
 そう聞くと西村は爆発した。
「納得できねえんだよ!! なんだよこの終り方!? おれ最後にちょろっと出てきたけど、結局負けのままじゃねえか!!」
 ああそのことか、と怜治は思う。
「仕方ないだろ、そういう台本なんだから」
「そこだっ!! 問題はその台本!! 誰だ台本書いた野郎は!?」
「台本書いたの神夜だろ? どっかにいるんじゃねえの?」
「神夜あっ!! どこい、」
「おう。呼んだか?」
「ぅおおっ!? 脅かすなコラあっ!!」
「そういえば神夜さんのESPって瞬間移動でしたよね?」
「その通りだ小野寺、よく憶えてたな」
「シカトかよテメえ!!」
「んだようるせーな。何怒ってんだ西村?」
「何もクソもねえよ!! なんだよこの台本!? おれ負けのままじゃねえか!!」
「ああそれか。いいじゃねえかよ、別にどうだって。お前サブキャラなんだし」
「サブキャラ!? 言い方代えれば脇役って意味じゃないのかよ!?」
「そうとも言うな。っても当初の予定ではお前なんかいなかったんだから、出してやっただけ有難く思えよ」
「やかましいわボケっ!!」
「ほらほら落ちついて西村さん」
 小野寺が静電気でその動きを止める。
 その横から真央が、
「でも、わたしが最後死んじゃったのはショックでしたよ……」
 そして怜治も、
「ヒロインが死ぬってあんまり受けねえんじゃねえのか?」
「ふむ、その意見は最もだ。受けるのもあるんだろうが、おれはそういう話を書くのは苦手だ。才能がない」
「じゃあどうしてこうしたんですか?」
「聞きたいか?」
「聞きたいな、理由があるなら」
「それでは教えてやろう、それはな、」
 一瞬、その場が静寂に支配される。
「嫉妬だ」
「嫉妬、ですか?」
「嫉妬って、どうして?」
「当初、正確には十一章、『相性抜群』を書いている時には、ラストは怜治と真央がキスして終る、みたいな何とも惚気た物語にしようと思った、思ったけど、」
「けど?」
「途中でふと我に返った。なぜ最近彼女と別れたおれがこんな物を書いているんだ、と。どうしてこの二人だけ幸せにならなければならないのか、と。自分がキスできないのに役者にだけさせて何になる、と。そして決めた! いや瞬間にビビっと来た! このラストはヒロインが死んで終ろうとな! ハッハッハ! 怜治に真央! そんなハッピーエンドを望んでいただろうが甘い甘い! テメえらだけ幸せになると思うな! 所詮台本などその時の作者の気持ちだ! 登場人物など一瞬で無に返すことだって思いのままなのだ! ヒロインが死んで感動を呼ぶ、なんてとんでもない小説を書けるのはこの世界でもほんの僅かな人間だけだ! おれにはその才能はない! だから、だからこうやって舞台裏を必死に、必死に……っ! お前等にわかるか!? ええ!? わかるか!? 感動物を書きたいけど書けない作者の気持ちが!! わからないだろ!? わかるわけねーよな、だってお前等役者だし!! これでも頑張ってんだよ!! 読者に少しでも感動を授けようと!! でもそう考えるれば考えるほど感動を伝えられずに軽薄な物語になってしまう!! 後でさっき撮ったVTR見てみろよ!! 書いたおれでさえ全く感動しねえんだぜ!? そんなもんを人様の目に出す作者の気持ち、テメえらホントにわかってんのかよ!? それなら書き直せって顔してるな!! 無理なんだよ!! おれは一度書いた物語を消して最初から書くなんて芸当まず不可能なんだよ! ぶっちゃけた話するとな、十一章の最後の小野寺と西村の話、あれはな、なかったんだよ!! でも十二章書いてたら不手際で消えちまって……それで仕方なく、仕方なく……う、ううっ」
「言うだけ言って泣くなよ……」
「落ち着いてください、神夜さん、ね?」
「うるへー……て、敵の情けは……うけ、受けね、えー」
「ダメだこりゃ。もういいよ、行こうぜ真央」
「え、でも……」
「いいよ、ほっとけって」
「……神夜さん、だいじょうぶですよ、さっきの物語、わたしは感動しました」
「……っ!! え……?」
「だから、負けずに頑張ってください」
「真央……。真央……っ! ありがとう! さすがおれのキャラだ! クソ、なぜ怜治など書いてしまったのか。これもぶっちゃけ、夢に出てきたのは真央だけなんだよな。ぺっ。怜治、テメえ折角書いてやったのに恩をアダで返すたあどーいうことだ? ああ?」
「なんだと?」
「やはりキャラは女子に限りますなあ。無口な娘か敬語で話す娘。うんうん、やはりヒロインはこーでなくちゃ。それにそもそも主人公が二十過ぎてるって時点で間違いなんだよな。せめて高校生で止まっとけよ、物語で仕方なくって書いたけどやはり無理があったなあ。もういいよ、怜治、お前はクビだ。次回から来なくてい、い……って、なに? ちょっとおい、なんか辺りが冷気と化してますがこれは一体……?」
「言い残したことはそれだけか?」
「ちょっと怜治さん? 目が据わってますよ? 何する気だ? おれは作者だぞ? 何かしたら、って氷漬けなんかにしたらもう物語ここで終っちまうよっ?」
「黙れ。そして死ね」
「ま、待て、はな、話しを……ぎゃああああああああああああッ」
 以下中略。
 (なんか意味不明な展開ですいません。今から『ESPで行こう? 〜舞台裏〜』本編を流しますので、そちらを御楽しみください) 
「待て待てえい!! おれの出番は!? 川澄幸一の出番はねえのか!? さっきまでの楽しい空間におれも入れてくれってうわあなんじゃこりゃあ!? 穴が、穴がっ!! うわっ、ちょ、た、たす、助けてえ――――!!」
 以下消去。


     『舞台裏』



 帰路に着くと自然と人はバラバラになって行く。
 怜治と真央は駅まで同じ方向だったので一緒に帰っている。
 時刻はすでに夜中で空に星が瞬いていた。
「にしても疲れた……」
「そうですね、怜治さんは戦闘ばっかりでしたから」
 体中がズキズキと痛む。演技とはいえ、あれは本気で殴り合っていたので痛みは結構なレベルだった。
「これで真央ともしばらく会えなくなるな」
 隣りを歩いていた真央が急に足を止めた。
 それに気付いた怜治は振り返る。真央は下を向いて何かを考えていた。
「どうした?」
 そう聞いてみるが、真央は下を向いたまま動こうとはしなかった。
 疑問に思い、引き返して真央のすぐ前に立つ。
「具合でも悪いのか?」
 そして、真央が顔を上げた。
 切羽詰った、そんな表情をしていた。
「あの、怜治さん!」
 それに気圧されながらも怜治は、
「ど、どうした?」
 と返す。それからしばらく、真央は視線を外して何かを必死に考えていた。
 疑問に思ったが、真央が何かを言い出すまで黙っていようと思う。
 やがて、真央は必死になって考えた言葉を言った。
「そ、そんなことないですよ。わたしも驚いてるんですから」
「……は? 真央、何言ってんだ?」
 しかし真央は何も言わず、真剣な眼差しで怜治を見つめていた。
 そして不思議と怜治の中で納得した。
 真央が何を言っているのかを、理解したのだ。
 だから、怜治はそのまま言葉を口にした。
「じゃあ、ここからはおれのESPの見せ所だな」
 真央はパッと顔を輝かせ、嬉しそうに、
「はいっ!」
 と返した。真央が何をしたのか確信した。
 怜治は続ける、
「終ったら、お前に会いに行く」
 真央も続ける、
「楽しみに待ってます」
「ああ」
「……怜治さん、」
「ん?」
 一度、真央は言葉を切った。
 しかしやがて、真っ赤に染めた顔でこう言った。
「大好きですよ」
 そんな真央を見るとこっちまで照れてしまう。
「お、おう。おれも大好きだ」
 真央の顔がさらに赤くなる、
「き、キスできなかったのが心残りですね……」
 怜治も赤くなっていたと思う。
「何言ってんだ。これ終ってお前に会ったら、キスくらい何度でもしてやるよ」
「ホントですかっ?」
「約束する」
「約束ですからね」
 得意気に怜治は笑った。
「その代わり一つ条件がある」
 不思議そうに真央は首を傾げる。
「なんです?」
「これからは敬語で話すの禁止」
「えっ、どうしてですか?」
「いいから敬語は禁止な」
「よくわかりませんけど……わかりました」
「オーケー、それじゃ言ってみ?」
「えっと……」
「っつてもいきなりは難しいか。少しずつでいいから、敬語は減らしていくこと。それが条件だ」
「わかりました」
 真央が肯き、怜治は拳を作る。
「おっし、決めるか」
 顔を真っ赤に染めて、本当に切羽詰った表情で真央は怜治を見る。
 何度も何度も口を開けては閉じ、そして、真央は怜治を見つめてもう一度、こう言った。
「大好きだよ、怜治」
 怜治は笑う、
「ああ、大好きだ真央」
 それは、台本の台詞だった。
 あの時、真央と通信のESPで言い合った、あの言葉だ。
 それを忠実に繰り返していた。
 そして、ここからは違った。
「それが、わたしの本心です……」
 真央が何を言っているのかわからなかった。
「本心……?」
 真央は真剣な瞳を怜治に向ける。
「わたしは、怜治さんが大好きです。これは御芝居じゃなくて、わたしの本心です」
「それって……」
 理解できたと同時に焦りが生まれる。
「え、ちょ、それって……? つまりその……え? ……マジで?」
 真央は真剣に肯く。
 それが、真央の精一杯だった。
 焦っていた怜治だが、徐々に冷静さを取り戻す。それと同時に今度は別の感情が生まれる。
 それは素直に考えればすぐにわかることだった。
 怜治はため息を吐いた。それを、真央はこう受け取った。
「ダメ、ですよね……」
 その頭に、怜治は手刀を入れる。
「敬語は禁止っつただろ」
 叩かれた頭を押さえながら、真央は怜治を見た。
「敬語禁止の条件、忘れたのか?」
「……い、いいんですか……っ?」
「おう、こっちからも是非願う」
 真央の瞳が潤み始める。
「あ、おい、泣くなよ? 泣かれると対処に困る」
「ご、ごめんなさい……でも、でもっ……」
 潤んだ瞳から涙が溢れる。
 まさかこんな状況になろうとは思いもしなかった。
 でも、それは嬉しいことだった。
 泣いている真央を抱き寄せる。
「もう一つ約束があっただろ?」
「え……?」
「それはお前の台詞だろ?」
 やがて、怜治の腕の中で真央は肯いた。
 すっと怜治の背中に腕を回し、真央はつぶやくようにこう言った。
「……ずっと、一緒にいてくれますか……?」
「おう、約束する。ずっと一緒だ」
 微かな真央の笑い声。
「それ、台詞と違うじゃないですか」
「るせー」
 腕に力を込める。素で赤くなった顔を、見られたくなかった。
 そのまましばらく二人で抱き合っていた。空に瞬く星が、静かに二人を照らす。
 先に口を開いたのは真央だった。
「ねえ怜治?」
「お、条件飲んだな」
 くすくすと、真央は笑った。
「条件飲んだんだから、約束守ってよ」
「約束?」
「キス」
「はあっ!? ここでか!?」
 肯く。怜治は腕の中にいる真央を見て、一瞬悩んでから答えを導き出した。
 真央から手を離し、そして踵を返す。
 わざとらしく夜空を見上げ、
「今日は冷えるなあ。さて、帰るか」
「あーっ! ずるい! 怜治さん約束守ってくださいよ!」
「あ、ほれ、条件違反したからまた今度な」
「ずるいです! それに敬語で話すのは元々なんですからいいじゃないですか!」
「ダメだ。また次回まで御預け」
「怜治さんのバカ! もういいです、もう知らないです、これでもくらえです!」
 気付いた時には頭に水が振り注いでいた。
「冷てえ! 真央! 何しやがる!」
 しかしそこに真央はいない。先回りして怜治の遥か前で笑っていた。
「待て真央! 氷漬けで冷凍庫入りにしてやる!」
 そう言って怜治も走り出す。
 夜空の下での追いかけっこはいつまでも続く。
 いつまでも真央と一緒にいられるように、怜治は追いかける。
 後者の約束は、守ろうと思う。
 前者の約束は……またいつか、守ろう。
 そして、物語は続くのである。
 『ESPで行こう』の続編だ。


  



「カットォ!! オーケーオーケー!! 御疲れ様!!」
 ってことはないでのご安心願えます。
 それでは、また別の物語でお会いしましょう。



                           END
2004-03-31 23:02:15公開 / 作者:神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ふむ……。読んでくれた方、本当にすいません……。
どうせだからこれもUP(ぇ殴
この作品に対する感想 - 昇順
超大作ですごかったです!今度の話も期待してます!
2004-03-31 14:08:31【☆☆☆☆☆】ニラ
本編も合わせて、とてもよかったです。次の作品もがんばってくださいね
2004-03-31 14:52:46【☆☆☆☆☆】紅い蝶
クソ、最後の最後に誤字を発見するとはなんたる不覚……しかも二作同時に……(ォ 紅い蝶様、ニラ様、こんなものを読んでくれてホントにありがとうです!
2004-03-31 23:09:22【☆☆☆☆☆】神夜
ESPで行こうの裏事情。テンション高っ! でもこういうの好きです(笑)
2004-04-01 00:36:08【☆☆☆☆☆】緑豆
作者様の魂の叫びっつーものがひしひしと伝わってきました
2004-04-01 17:02:11【☆☆☆☆☆】グリコ
かなりおもしろかったデス。次の作品も期待してます!ガンバッテクダサイ。
2004-04-15 18:06:33【☆☆☆☆☆】雷電
計:0点
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