『くしゃみ声  1〜2』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約21.7枚
第1話


さて、何を盗ろうか。


祐輔と小林は1通り店内を見終わると、店の端の本棚に戻った。
今回の「獲物」は今日発売の雑誌だが、
何しろ広い割には汚く黒字の伸びない店だ。
どうやら今回も「獲物」はまだダンボールの中に入っているようだった。
祐輔は本棚の向かい側にあるお菓子を親指で指すと、
小林は右の口元だけ少し動かしてレジに向かった。
お菓子の棚は本棚と向かい合っている。
割と広い二階建ての建物の一階を店としているココは2人の秘密基地だ。
小さな頃大きなトンネルの中を探検するのと同じ、
ワクワクとドキドキが止まらない。
自然と鼓動が速くなる。
このスリル、そして「獲物」を自分で汚していく瞬間。
悪いことをしているという思いが逆にハクをつけるのだ。

ガタンッと何かが床に落ちる音がレジの方向から聞こえる。
それに続き小林が何か喋る声。
祐輔は笑い声を上げそうな口を無理矢理手で抑えると、
急いでお菓子を掴み取ってポケットに突っ込んだ。
そしてそのままレジの向かい側、3〜4m離れている出口に向かう。
後ろから追いかけてきた小林と手を当て合うと、
我慢していた笑い声が腹からどっと出てきた。

「もうボケてんだから閉めればいいのに。赤字が益々増える一方だよな」
小林がお菓子と一緒に盗ったアイスの袋をバリバリと開けながら言う。
「俺らが赤字にさせてんだけどな」
ガムを口の中に入れる。
ミントのキツイ匂いがすると祐輔は言った。
「今日も使用金額はゼロだな」
小林と祐輔は思わず鼻で笑った。

万引き。
世間ではそういうが祐輔達はその行為を「獲物狩り」と言ってる。
獲物は主にお菓子や雑誌。
時にはビデオやゲーム、MDに整髪剤。
一度シャーペンをポケットに入れた瞬間店長と鉢合ったが、
店長は見えてないとも思われる細い目で祐輔達を見てそのまま通過した。
ボケた店長。小さな店。
きっと店長は祐輔達が獲物狩り、世間で言う万引きという行為を
したことに気づいてないのであろう。
赤字を伸ばし続けて何故店を畳まないのかは謎だが。
そしてその獲物狩りのパートナーが小林。
小林誠。
祐輔とは同学年の中学2年生、
小4の時に転校してきたからかれこれ4年の付き合いになる。
カラオケに初めて行ったのもこいつと。
エロ本を始めて読んだのもこいつと。
そして獲物狩りをし始めたのもこいつとである。
つまり小林は祐輔の中で必要不可欠な存在であることは確かなのだ。


今日は水曜日。
冷たい風が頬をかする。「良い子は帰りましょう」の音楽がマイクから鳴ると小林は自転車に跨った。
「お前いつから良い子になったんだよ」
「違げぇよ。今日は親父が帰ってくるんだ」
「そっか。単身赴任だもんな」
小林は何か言ったようだが耳を打つ風のせいで聞こえない。
自転車の姿が小さくなると祐輔はブランコから降りて家路に向かった。


家のドアを開くと中からの暖かい風が体を包む。
「ちょっと! 遅いじゃないの!!」
母のヒステリック交じりの声が聞こえる。
靴が並ぶ玄関に目が行った。
誰のだ・・・?
コンバースの黒い靴で踵がべちゃりと潰れている。
祐輔よりも少し大きなその靴はきちんとそろって並べられていた。
「おい、母さんこれ誰の―」
顔を上げた。
目。
黒い髪。
整髪剤で立たされたと思う黒い髪。
ダボダボのジーパン。
緩いトレーナー。
冷たい、
目。
「俺の」
何秒、いや何十秒?
もしかしたら何分かもしれない。
見つめあっていったがそれはそいつの低い声で遮られた。
「誰だてめぇ」
反射的に出たドスの聞いた声で問う。
一瞬ストップした思考回路を取り戻すと、
祐輔より3、4cm背の高いその男を睨みつけた。
静かな沈黙。
「誰だって聞いてんだよ!!」
「こらっ! もう喧嘩なんてしないでよっ! 弘樹くんも祐輔も挨拶ぐらいしなさいよ、ったくもう」
母に強制的に引っ張られるとリビングに放り込まれた。
並ぶ料理と、どでかいボストンバックが2つ。
一瞬にして冷や汗が体全体に広がる。
そして嫌悪感、並ぶバックを見下ろすと母に「弘樹」と呼ばれた男を見た。
「弘樹。杉山弘樹」
そいつは自分の名前を言うと小さく頭を下げた。
「ほら、祐輔も」
母に急かされ祐輔も小さく頭を下げる。
「早川祐輔」
自分の名前だけを口早に言うと、今から話すであろう母の言葉を予想して肩を落とした。
母が満足そうに笑みを浮かべると弘樹をソファに座らせるような動作をした。
その顔はにこにこと笑っている。
父は野球中継が気になって背を向けていた。
「ねぇ祐輔」
猫なで声がする。やけにどでかいボストンバックが目に入る。
「杉山弘樹くんはこれからここに住むのよ」
祐輔は今度こそ皆にわかるように肩を落とした。


 





自転車をこぐ足が速くなる。
早くつけ、早くつけ。
無意識に呟いたその言葉。
小林誠は緊張と喜びが入り混じった顔で家路を急いでいた。
今日は単身赴任で大阪に行った父が帰ってくる日だ。
喧嘩をよくする夫婦だったが、
母も11ヶ月も逢っていないのでこの日を楽しみにしているようだった。
最初の方は父はメールで些細なことを送ってくれたりした。
『こっちのたこ焼きは美味いぞ』『関西弁ってすごいんだな』
しかしそのメールも少し経てばめっきりなくなり、
誠ももう携帯の受信音がなるのをドキドキしながら待つこともなくなったのだ。
自転車を家の前で止めると鍵をとる。
手が悴んで上手く鍵がかからない。
ようやく鍵がかかると祐輔はドアを押して家に入った。
リビングから新聞をめくる音がする。
新聞嫌いの母が夕方から新聞なんて読みやしない。
「ただいま!」
できるだけ大きな声でそう言った。
ストーブの音が聞こえる、小さな沈黙。
「おかえりなさい」
父の優しい変わらない声が返ってくる。
誠は目と口先がくっつくほどの笑顔でリビングにかけていった。
リビングに差し掛かる数歩手前で自分の心臓がやけに音をたてていることに気づく。
誠はリビングに向いた足を階段に向けると、
まだ父の顔を見ないまま階段を駆け上がり自分の部屋に入り鍵を閉めた。
動機が激しかった。
無意識のうちに笑顔が出た。
嬉しい嬉しい嬉しい。
深呼吸をし息を整えるとリビングに下りた。
大きなテーブルには食事の用意がされていた。
あまり笑わない母がにっこりと口元を上げている。
「父さん、いつでかけんの?」
オニオンスープを口に運びながら言う。
「1週間だな。1週間とちょっと」
肩が落ちるのが自分でもわかった。
何ヶ月も我慢していた想いが消えていくのは1週間と少しだけなのか。
そんな悲しみの想いは恥ずかしくて言えなかった。
変わりに出た声は心にもない言葉だった。
「あっそ」
「誠」
そんな言葉には気にせず父が言う。
「焼肉食いにいこう。2人で」
「いつ?」
胸からこみ上げる気持ちを抑える前に言葉がでた。
自然と笑みが浮かぶのをこらえようとする。
「そうだな。前日は用意もあるから24日にしないか」
「めんどくせぇよ」
立ち上がるとガタガタと階段を上った。
嬉しかった。
父と2人で出かけるのが夢だった。
きっとくだらないと皆は笑うだろうけど。
黒い油性のマジックでカレンダーの24日を丸で囲んだ。
冷たい態度をとったことをひどく後悔したが、24日のことを考えるとそれも忘れるくらい胸がドキドキした。





第2話


馬鹿にしてる。そうとしか思えない。
 
祐輔は黙りこくる弘樹を見てため息をついた。
「お前なめてんだろ俺のこと!」
子機をベットに投げると思いっきり椅子を蹴飛ばした。
くるくると椅子は周り弘樹の足にガタッと当たった。
もう弘樹がこの家に来て1週間経つ。
中1になりやっと手に入った自分の部屋が共同になり、ただでさえ苛々しているのに。
事の始まりは最初に会った日、リビングで挨拶を交わしてからだった。
腹いっぱいに食事し、部屋へ戻った。
別に楽しく話しをしようとも思わなかったが弘樹は1回も口を開かない。
『俺のせいで同室になって悪かったな』『申し訳ないけどこれからよろしく』
苛々を少しはマシにさせる為、祐輔はこんな言葉を期待していたのかもしれない。
しかし弘樹は何も喋らない。
朝は祐輔が起きればもう弘樹はリビングで食事をしているし、
祐輔が食事をしにリビングに下りれば弘樹はその間に髪を整え、
部屋へ戻り着替えてる。
学校が終わると(同じ学校に通わせられたのだ。クラスが違うことが救いだが、
今時のそのツラとナリで女をキャーキャー言わせてるのも気にいらない)、
弘樹は黙ったまま母が弘樹の為に買った2段ベットの上の階で何かをしている。
それかたまにフラリとでかけて6時前にはしっかり帰ってくるのだ。
だが、祐輔は別にそれでも良かった。
黙っていればでかい身長もただの動く人形としか思わないからだ。
今日学校から帰ると祐輔は小林に電話した。
やけに機嫌のいい小林と、クラスの女子の話をしていたところに弘樹が帰ってきた。
祐輔の背後で着替えを済ましいつものようにベットに上る。
クラスの女子の話からエロ話へと変化していき、
それはエスカレートしていく。
はっと思い出し、
祐輔がエロ本に載っていたエロ用語を小林に教えてもらおうと聞いたときだった。
笑った。
弘樹がベットに上半身を乗り出したとき、
たまたま祐輔と目が合い弘樹は笑ったのだ。
鼻で笑った弘樹の目からは『お前そんな低レベルなエロ用語も知らないのか』と
読み取られ急いで電話を切ると、
弘樹をベットから半ば落として右手の拳を弘樹の左頬に喰らわしたのだ。
 
「オイ、聞いてんのか! そんなでかいナリして喧嘩もできねぇのかよ!」
弘樹は黙ったまま突っ立っている。
「てめぇ殺すぞ! ふざけんじゃねぇよ!」
しかし弘樹は口を開かず無表情で祐輔を見つめる。
「……くそがっ!」
祐輔は出口のない苛立ちをどうすることもできず、
弘樹を突き飛ばして2段ベットの上に上った。
とにかく弘樹の弱点が知りたかった。
乱暴に敷布団をめくりあげると、見つけた。
一つのノートとえんぴつ。それと消しゴム。
「なんだこれ」
右手で引っつかんで中を見ようとした、その時
グンッと足が引っ張られる。
そのまま背中から床に叩きつけられ右手に持っていたノートを奪い取られた。
「見んじゃねぇよ!!!!」
一瞬の出来事に驚愕を隠せない。
ポカンと開いた口から言葉がでた。
「なんだよ……」
自分でも怖がっているような口調だと思い急いで訂正する。
「なんなんだよてめぇざけんな!!」
しかし何事もなかったかのように弘樹はベットに上るとノートを枕の下にしまった。
ぽつんと一人取り残された祐輔はベットを一度蹴ると、
携帯を持って家を出た。


何隠してやがんだ。たかがノートで。むかつく。
祐輔はいつもの公園のブランコに座っていた。
腹から出てくる苛々と驚愕は顔からにじみ出ている。
しかしそれよりも気になることがあった。あのノート。
いつもは何をしても怒らない弘樹があのノートを見ようとしたらキレた。
何だ?何が書いてあるんだ?
好奇心が胸をよじる。
どうしてもあのノートの中が見たい。
祐輔は携帯から小林の携帯に電話をした。
『もしもし』
2コールで小林が出る。
「俺。今から公園来てくんね? 俺ん家来いよ」
『あ、悪い今はちょっと……』
小林は少し困ったようにそう言ってから『悪い』ともう一度言った。
「んだよ来いよ待ってるから」
『……わかった。今から行く』
そうして電話は切れた。
数分後小林は自転車に乗って公園に来た。
二人乗りでそのまま祐輔の家に行くと鍵を持っているにも関わらずチャイムを鳴らす。
がちゃっとドアが開き弘樹が出てきた。
二人を見つめると眉を少しひそめてリビングに向かっていく。
「やりっ」
急いで階段を上るとベットの枕をひっくり返す。
後ろからついてきた小林が首をかしげる。
「誰だあいつ。お前兄貴いたっけ」
「居候の男。4組にいるじゃん」
「そうだっけ?」
そうとだけ言うが神経はノートにくぎ付けだった。
青い大学ノートの表紙は何も書いていない。
小林を連れてきたのは作戦だった。
友達を連れてくれば狭い部屋の中に一緒にいる訳にもいかず
気をきかせてリビングに行く。
すると隠したノートは無防備に背中を丸出しという訳だ。
ゆっくりページを開く。


[  1月17日

 両親が死んで近い親戚は引き取るのを拒んだ。
 だから遠い親戚の早川とかいう家に引き取られる。
 どうやら息子がいるそうだ。
 同い年らしい。
 仲良くなれればいい。俺はこんなやつだから無理かもしれないけど。  ]


[  1月18日

 早川とかいう家にいった。
 挨拶しようとしたら男に怒鳴られた。
 どうやらそれがその息子らしい。         ]



[  中略  ]



[  1月23日


  最初の挨拶いらい一回も話してない。
  学校の奴らとも全然話せてないし。
  女子がキャーキャー言ってるけど悪いことしたのかもしれない。
  なんだか最近よくわからない。
  とくに祐輔とかいう息子が。
  俺と目が合えば睨んでくるし。
  やっぱ無理なのかもしれない                      ]





思わず鼻で笑う。
腹から出てくる笑いに耐えられない。
「・・くくっはははははっっ!!!!」
小林が怪訝そうな目で見てくる。
腹の筋肉がおかしくなるほど笑うとようやく息が落ち着いてくる。
あいつ、日記なんてつけてやがる。
しかも俺と友達になれればとか言ってやがるよ
また笑いの発作が起こる。
ガタガタと階段を上る音がしたが祐輔は日記を手にしたまま、
満面の笑みで立ち上がった。
ガチャッとドアが開く。弘樹がいた。
弘樹は不自然な笑みを浮かべる祐輔を見ると
ゆっくり視線をおろして祐輔が右手に持つ日記を見た。
目がカッと開くのを待ってから祐輔は言った。
「俺とお友達になりたいですか?弘樹くん」
今度は馬鹿にした笑いを目の前で広げた。
腹を抱えて床に座り込む。
小林はどうしたらいいのかわからず部屋の端でうろたえていた。
重いパンチは覚悟していた。
だが弱みを握ったぞという事を伝えたくて仕方なかった。
「…………」
数秒、いや数十秒たったかパンチはこない。
それよかキックさえない。
祐輔は不思議に思い顔をあげる。
弘樹が右手を前に出していた。
「返せよ、それ」
きっぱりとそれだけを言う。
怒った口調ではなかった。
「返せってば」
弘樹が右手でノートの端を引っ張った。
無意識に祐輔も引っ張り真っ二つにノートは裂かれる。
「あ……」
弘樹はかまわず床に落ちたノートを拾おうとする。
それを祐輔は先に取ってまたにっこり笑った。
ひどく優しい笑顔で。
「返してほしい?」
「あぁ。返せよ俺のだ」
「小林」
ノートを小林に投げた。
小林は急な出来事にびっくりしながらもノートをキャッチした。
「裂け」
「え?」
「おいっやめ――」
ビリッと鈍い音が部屋に響く。
続いて数回鳴るとノートはただの無駄な紙切れになって床に落ちた。
「ナイス小林」
にんまり笑う祐輔をよそに小林はちらりと弘樹を見た。
その表情は怒りを感じなかった。
だがなんとなく悲しそうに、困ったような表情が読み取られた。
「おっ俺帰るよ……」
小林が急いで階段を下りていった。

謎だった。
弘樹という奴が謎だった。
しかし弘樹への謎は明日更に深まることは、
ただのゴミになった日記が意味していた。


   





休み時間のチャイムがなる。
首をならすとポキポキと良い音がする。
祐輔の方を見るとすでに数人の男子に囲まれていた。
急いでその後ろにつくと誰かの悪口を言ってるようだった。
「気が向いたからやろうと思ったのに。「やりなさい」って一言でやる気うせる」
「俺の親父もさぁ――」
どうやら親の悪口らしい。
この手の話題はあまり好きじゃない。
というかクラスの奴らはあまり好きじゃない。

誠は小学4年生の時祐輔と同じ小学校に転校した。
その時すでに祐輔はクラスの人気者だった。
しかし誠は何かと引っ込み思案な性格と人に気を使うことで
利用され馬鹿にされる生活が続いた。
ある日どしゃぶりの雨が続き、
クラスの男子がトランプを持ってきたので皆でやることになった。
誠は「俺もやりたい」の一言が言えず机の上でうつぶせに寝た真似をしていた。
嫌でも入ってくる楽しそうな笑い声。
「あれ? 祐輔これ1つ分多いよ」
クラスの男子の疑問に祐輔が言った。
「ばーか、これは誠の分!」
突然自分の名前が出され顔をあげる。
誠の分と言われたトランプを右手に持ち祐輔は笑った。
「早くこいよ誠!」

 
思い出される鮮明な記憶に笑顔が戻る。
それから誠は祐輔と一緒にいても劣らないよう笑顔を作り、
おしゃれになり6年生からは整髪剤で髪をたてるのに苦労した。
なるべく話題に同感したふりをしてはひどく悲しくもなったが、
そんなことどうでもよかった。
なんなら他の奴らに嫌われたっていい。
でも祐輔とだけは友達でいたい。
キングコングと称されるクラスのでかい男子が笑いながら誠の裾を引っ張る。
「わ、なっ何」
「誠は親父のことどう思うんだよ」
俺も気になるーと周りからも問われる。
祐輔が冷たい目で見ていた。
誠は馬鹿にした笑いを広げて言った。
「あんな親死ねばいいんだよ」
終わりのチャイムがなった。
席に戻ると誠は俯いたまましばらく顔をあげなかった。




24日の朝が来た。
急いで仕度をするとリビングに向かった。
父が苦いコーヒーを飲んで新聞を読んでいる。
「はよう」
「おはよう」
軽い挨拶を交わすと朝飯をいっきに口に入れ家を出た。
足は数時間後の夜に向かっていた。
学校が終わったらまず仕度をしてそれから焼肉・・
考えるだけで嬉しくなる。
久しぶりに見る朝の空は驚くほど綺麗だった。
家に帰ると父はソファで寝ていた。
今日の約束を忘れてしまったんじゃないかと不安になったが、
机の上にはちゃんと焼肉屋のサービス券が置かれているのを見て、
ホッとする。
2階にあがろうとすると電話がなった。
「もしもし」
『あ、小林?俺。祐輔』
「あぁ祐輔。どうした?」
2階にあがり鞄を置いて机に座る。
時間にはまだ余裕があったのでくだらない女子の話に付き合った。
『あっそうそう。―ってどういう意味?エロ本載ってたけど意味わかんねぇんだよ』
『え?あぁそれ。それ―』
ピー、ピーと電話の切れる音がする。
かけなおした方がいいのかなと思ったが短針は5時を指していたので、
電話を置いてクローゼットを開けた。
コンッ、となったあと数回ノックの音がする。
「何?」
ドアは開けずドア越しから父が言う。
「あと10分で仕度できるか?」
「あぁ。仕度できたら下行くから」
そうとだけ言うと学生服を脱いだ。
しばらくして父がリビングに戻る音がした。
髪を整えてからポケットに財布を突っ込むと着信音が鳴る。
今度は携帯からでトップ画面に祐輔と出ていた。
最初出ようか出ないか迷ったがボタンを押した。
『俺。今から公園来てくんね?俺ん家来いよ』
機嫌の悪そうな声がする。
「あ、悪い今はちょっと・・・」
それからもう一度「悪い」と付け足した。
『んだよ来いよ待ってるから』
今度はドスの聞いた声がした。
誠は時計を見る。10分で下に下りると言ってから9分経過していた。
頭に父と祐輔の顔が思い出された。
肩を落とすと、
「・・・わかった。今から行く」
そうとだけ言って電話を切った。
頭に残る父の顔が段々小さくなっていく。
「祐輔に嫌われたら終わりなんだ・・」
言い聞かせるようにそういうとばれれないように公園に向かった。


2004-03-30 16:10:09公開 / 作者:春
■この作品の著作権は春さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
いつも中途半端なところでやめてしまうので、
今度こそは完結できるように頑張ります。(ぇ
宜しくお願いします!!
文体や構成、内容へのアドバイス、感想など待ってます。
この作品に対する感想 - 昇順
一話だけ読ませていただきました。小林、裕輔と言う具合ですが、思惑が特にないのであれば、苗字か名前のどちらかに統一した方が読みやすくなると思いますよ♪また、黒字が伸びるという言葉は恐らくないかと思われます。結果を表す言葉ですし、何分自分が営業なもので笑 内容自体はまずまずのスタートを切れたのではないでしょうか。続きを期待しております。
2004-04-01 20:54:54【★★★★☆】石田壮介
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。