『  ある公園で』作者:MH / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角9139文字
容量18278 bytes
原稿用紙約22.85枚


  窓の外では
  あの日みたいに
  風が吹いていた。




ただ何をするわけでもなく、机に向かって座る。
真っ暗な部屋の中、机の電気だけをつけてぼんやりとしているのが私の癖で何かあるとすぐそんな体勢に入る。



今日もそんな日だった。



シン とした静寂が五月蝿い。耳にザワリ とした感触を残して消え、また感触を残し、消える。

窓がガタガタとゆれる。外では風が吹いている。

風が一瞬やむ、隙を突いて、静寂が広がる。
その感覚に嫌気がさして紙とシャープペンシルを取り出した。お気に入りの橙色のドクターグリップ。
別に振るだけでシンが出ることに対して便利なんて思わないけど、愛用している。

特に何も思いつかなかったけどガリガリと描き始める。
冬の冷たくキン とした空気をシャープペンシルと紙ごしの机がぶつかり合う音だけが響かせた。

嫌な感じがした静寂が消え、ゆっくりと胸を落ち着かせる。


少しため息をつき、頬杖をしていた左手でペンをまわす。
思いついたような、や、でも思いつかなかったけれど。
なんとなくペンを握り、机に向き直った。

     『なにもしないでぼうっしてるなんて時間の無駄なのに。』
捻くれたあたしが頭の中で呟いた。
あたしの悪い癖、物事を前向きに考えられない。常にアンダーグラウンドまっしぐら。

そんな自分が大嫌いで、でも直らない。直す気があっても、捻くれた根性はすぐに真っ直ぐになんない。



 そういえばこんな日が前にもあった。
 あの日の夜も、机に向かっていたっけ。
 今日みたいに少し風があって・・
 飼っていた犬のゴロウが死んだとき。
 何も手につかなくて
 何もしたくなくて
 悲しくて
 悲しいから
 出会ったこと後悔して
 楽しい思い出まで悲しく心に残ってしまって。

 明るいアノコなら、きっと、楽しかった思い出とかで、前向きにゴロウの思い出を受け止められるんだと思うけど
 だめなんだ。
 苦しくなって。




だけどそうだ。明るいアノコは前向きで、素直な子だったよね。
だからアイツは


・・・

目を閉じて、息を深く吸った。

ヒンヤリとした空気が肺の中をめぐる。
新しい酸素がぼんやりとしていた頭をハッキリさせてくれた。
ハァ と深く息を吐いて、紙とシャープペンシルを机の中にしまった。

傍のハンガーにかけてあったファーのついたコートを羽織り、キャスケット帽を目深に被り、赤いマフラーをまきつけた。


机のうえにメモをおいて
(もうそろそろ帰ってくるだろう母に心配をかけたくなかったから)
少し薄暗くなった外に向かい玄関の戸をあけた。


冷たい風が頬にいきおいよく吹き付けた。
少し身震いをして、マフラーのなかに顔を埋めると家をあとにした。



*****



行くあてもなく、ただぼんやりと歩いていた。
途中で携帯を家の布団の上に忘れたことに気付いたけど家に取りに帰る気にもならなかったので、そのまま歩き続けた。


別に誰かからメールがきてたって、着信があったってアイツじゃなきゃ意味がなかった。
嬉しくならなかったのに
ドキドキしなかったのに


きゅ と唇を噛み締めた。
チリ と痛みがはしる。そこを舐めてみると鉄の味がする。
乾燥する季節は唇が荒れやすくなる。皮がペロリとむけている。
いつもだっらた常にリップを塗っていたけど今日は塗っていなかった。

ああ、ショックで、塗り忘れてたんだっけ。
ああ、だから、机の前に座り込んでいたんだっけ。


あんなにショックうけるとは思わなかった。あまり自覚してなかったんだ。
少し自分の鈍さに項垂れた。

布団の上でアイツからメールがきてて、はしゃいでいた自分が憎くなった。


     『あたしは馬鹿か。阿呆か。』
捻くれたあたしが呟いた。
自分の行動に恥ずかしさを感じ、胃が少しジリジリした。


嬉しかったメール
ドキドキしたメール
ねぇ、あんたからだったからあの着信音だったから。

「あたしは馬鹿か。阿呆か。」
口に出して呟いてみた。
傍からみたら独り言をいった怪しい人にみられてしまうと思い、マフラーに口を隠しペロ と唇を舐めた。

少し早足になりながら、すぐ傍にあった公園に入った。
もう日も暮れかけていたので、誰もいなかった。


童心に戻りブランコに乗る、という気分でもなかったので、あたしは木の傍の青いベンチのうえに腰を下ろした。

ホウ と息を吐くと暗がりの空に白いものが浮かび上がる。
ああ、綺麗だな、と呑気にそんなことを考えた。

冷たい風がびゅう とあたしの頬を撫でた。
風に飛ばされないように、キャスケット帽を手で押さえる。指先が酷く冷たい。

あたしは風が止むのを待って帽子を押さえていた手をポケットの中に突っ込んだ。
あまりあったかくはなかったけど、風を遮られるだけでも充分だった。

ぼう とした瞳で、目の前で風に揺らされるブランコをみつめた。


すると、なんの前触れもなく強い風がびゅう とふいた。


あたしは咄嗟にポケットから手を抜き出したけれど、俊敏に反応できずあえなく帽子は吹っ飛んだ。
はぁ と溜め息をついて帽子をとりにいこうと立ち上がった



その時

「溜め息つくと幸せ逃げるよ」
と背後から声が聞こえた。

びくり として後ろを振り返ると、あたしのキャスケット帽を左右の手で持て余す少年が、今まであたしが座っていたベンチのうえに座っていた。

真っ黒な髪の毛に真っ黒な瞳、小さめの体に、全身真っ黒の服。
でも真っ黒な髪も目の服も、うっすら青味がかったようにも見える気がした。

その少年はもう日が暮れて、ほぼ暗闇の中に違和感なく溶け込んでいた。
いきなりくしゃりと笑った。
つられてあたしも思わずニコ としてしまった。

冷たい風が、またぴゅうとふきつける。


静寂が広がった。でも不思議とあのザワリ とした嫌な感触はおきなかった。


「ねぇ名前は?」

「ナ・・ナツメ」

ニコリ とした笑顔で聞かれて、躊躇いもなくあたしは答えてしまった。
ハ と我に返った。普通に自分の名前を答えてしまった。

でも見ず知らずの人でもちっさい子ならいいかな。いやまてよ。少年が簡単に人を殺す時代よ?
ってまたまたアンダーグラウンドな思考。ああ。


一人悶々していると、その少年はあたしの手をひいた。
小さな手だったけど、何故かほ とするような感覚がひろがる。

そしてポン とその子の隣に座った。否、座らせられた。でも不思議と嫌な感じはしなかった。


「・・キミの名前は?」

キャスケット帽をあたしに返すその少年に問いかけた。

「・・なんて名前だと思う?」

一瞬妙な沈黙が流れた。なんだろうこの子。変な質問をする。
あたしはその子を見つめた。こんなに幼いのに、何処か物凄く大人びている。顔だってあどけないのに、不思議な感覚だった。


「・・名前いえないの?」

その少年は伏せ目がちにあたしを見た。

     『あ、睫毛長い』
という声が頭の中のあたしから発せられた。まったく頭の中のあたしは一体どういうシンケイしているんだ。
まったく不謹慎な。

あたしはマフラーごしに唇がカサカサしてきたのを感じた。またペロリ と舐めた。
その少年のほうを気付かれないように見る。

「・・・」

何も答えない。やっぱり聞いちゃいけないことだったのだろうか。
『あたしは答えたのに』というなんとも馬鹿馬鹿しい台詞が浮かんだ。
捻くれた頭の中のあたしの顔面を思いっきり殴り飛ばしたくなった。

唇をペロリ と舐めた。
キャスケット帽を被り、手をポケットの中に突っ込んだ。
その少年の哀しそうな、でも嬉しそうな、どっちだかわからない不思議な感じの瞳には呆けたあたしの顔が映っている。

傍から見れば不気味だったに違いないあたしたちふたりは、公園の静寂の中ぼんやりとしていた。不思議、やっぱりザワリ としたあの感覚がしない。

「じゃぁ・・」

不思議と心地良かった静寂をやぶったのは、何か思いついたようなあたしの声。
儚く白い息と共に夜空にフワ と散っていく。

何か思いつた訳じゃなかった。別にこの沈黙が嫌だった訳じゃなかった。
ただなんとなく、何か言わなくちゃいけない気になったようなならなかったような。

そんな回りくどい考えがめぐる。脳内プチパニック。
そんななか、ヒトツの閃きが浮かんだ。あまりにも馬鹿らしく、いうことがなんとも愚かしくみえた。

しかしそれを声に出さずに入られなかった。



「ゴンベ」

「ハ?」

あたしは消え入りそうな声でつぶやいた。

「・・名無しの権兵衛」





大きな黒い瞳をぱちくりさせて、少年はあたしを見つめた。
その視線に捉えられないようにあたしは身を捩じらせたがなんの意味もなかった。


「・・っ・・ご・・ごん・・べえ?」

少年は笑いをこらえるような言い方をしてあたしを見る。


     『馬鹿にしやがって。あんたがシッカリ名前を答えてればあたしだって・・』
捻くれたあたしが呟く。
     「まぁまぁ捻くれたあたし。相手はガキンチョだぞ。そんなことでいちいち腹を立ててこれからどうするんだ。」
普通のあたしが呟いた。


 まったく。自分をここまで阿呆と思ったことはない。
 頭の中で捻くれたあたしと普通のあたしが争ってる(?)なんて。
 もしあたしがサトラレだったら今日から変人扱いだ。


あたしは唇を舐めた。
少年は自分の口元を抑えて笑いを堪えるためなのか震えていて、室内よりも冷たい空気を振動させた。
風がふわり とあたしを撫でる。

「・・っは・・いいよ。ゴンベで。」

ゴンベ(早速)はくしゃりとした笑顔であたしにこたえた。
その笑顔が不思議と優しい雰囲気を醸し出していて、風船のようにあたしの怒りはしぼんでしまった。


「じゃ、ゴンベね。」

「ハイハイ。ナツメ。」


あたしとゴンベの間を優しく風が流れた。
ゴンベの黒い髪が綺麗に風に靡いた。瞳は大きく、あたしをみつめる。長い睫毛が表情をつけた。
ゴンベ なんて。なんて不相応の名前。少し見惚れてしまった。

     『ってォィ年上に向かって呼び捨てとはいい度胸じゃねぇか。』
ワンテンポ遅れの捻くれたあたし。
そんなことはどうでもいいけど。自己紹介も終えてすっかり話すこともなくなった。


もう既に真っ暗になった公園の空気を、ゴンベとあたしだけが共有している。

雑音もなく、心地よい静寂が広がった。
なんとも不思議な気分で、でもあたしは嫌じゃない。

冷たく気持ちがいいキン とした風があたしの体にやさしく吹き付ける。
玄関口で吹かれた風とはどこか違う風だった。

目を瞑り、唇を舐めた。

「で、ナツメは何があったの。」

出し抜けに空気が揺れた。
目を見開き、ゴンベをみつめる。口は半開きでそこから「ぇ」とか「・・な」とか声にならない声が漏れ、暗闇を白く染めた。


     『ああ。このあたしの顔きっと2003年面白間抜面大賞をゲットしちゃうわね。』
そんなに酷い顔をしているだろうか、と慌てて顔を戻す。

ゴンベはそんなあたしを見て満足気に笑っている。あ、否、楽しそうな顔で笑う。あれ、いやいや不思議そうな顔で笑っている?ん・・否、困った顔で?
なんとも言葉に表しづらい表情をする。

なんとか取り繕わなければ、と思い、あたしは肩をすくめて、

「子供には解らない話よ。」

と言ってみた。大人ぶっていってみたあたしはさぞかし滑稽だっただろう。
ゴンベはまた笑いを堪えていたから。

「・・っく・・いやいや。知らない子供だからこそ気兼ねなく話せない?ためるのって疲れるでしょ」

笑いながら話した言葉だけど口調はシッカリしてて、最後は真面目な顔だった。
ただの子供なのに。その言葉が嬉しくて。心のツカえがとれた気がした。

ただの子供に。
一瞬躊躇いがあったけれど、このゴンベの不思議と優しい雰囲気に気圧されてしまった。
唇を舐めた。


「えっと、あのね。」

ゴンベはあたしの目をじっと見つめる。や、綺麗な顔立ちで、情けなくもトキメいてしまった。
人の目を見て話すのが苦手なあたしはほんの少し顔が紅潮するのを隠さなければならなかった。




「あ・・あの・・ね」

ゆっくりと口を開く。

「あたし、好きな人がいて・・。ん。K君とします。けど。で、あたしとKは、一年と今の二年、同じクラスだったの、あ、あたしは今中2ね。」

話をするのに緊張してしまい、しどろもどろしてしまったけど、ゴンベはそのままあたしを見つめる。

なぜだか心臓が壊れそうなほど鳴り響く。ゴンベが整った顔をしていることにはもう気付いていたけど、
見つめられて普通で居られる程あたしはカッコエエ人に慣れていない。

このキン とした空気を伝って心臓の音がゴンベに聞こえているのかもしれない。


「喧嘩友達、っていうやつでさ、でもお互い意識持てなくて。つか、あたしは好き、だったんだけど。友達以上にはなれなくて。さ。でも、一緒にいれればいいって思ってたんだよね。Kは彼女、いなかった・・し」


ああやばい。語尾が震えた。風が優しく吹いた。ゴンベはあたしを優しくみつめた。
ああやばい。口からほう と白い息が漏れた。気持ちを言葉にすると、涙に変わってしまいそう。


「で、あたし、いつもKとメールとか、してて。凄い楽しかった。着信音とか実はKだけ変えちゃって、すぐワかるようにしちゃったり・・。うわ、あたし阿呆やね。恥ずかしい・・。あー・・で。今日の、朝も、またメール、きててさ。」


あたしはゴンベをチラ とみた。ゴンベの視線は揺るがない。ちょっとくらい逸らしてくんないかな。息が詰まる。
風で揺れるブランコをみた。震える手で壊れそうな心臓を落ちつけた。
唇をなめた。


「あー・・Kだ、なんて喜んだのも束の間、よんでみたら、さ。写メールつきで、さ。」


声が上ずった。涙を飲み込んだ。目が泳いだ。ブランコがゆれた。キャスケット帽がずれた。マフラーが靡いた。指が冷たい。
ゴンベの目はあたしの目をみつめたまま。


「彼女、できたーって。ハートマークいっぱいで、さ。しゃ・・メールで、、ツーショットおくられ、て。」


風が優しく頬を通る。あたしの髪が揺れる。ゴンベの黒い髪も、揺れた。


「あたし、ばかだーって。何浮かれてたんだろ、て。さ。そのこ、B組のこで、あ、あたしはA組なんだけど、なんか、ね。やっぱあたしとは、全然タイプ、違ってさ。素直で・・前向きで・・かわい・・いこでさ。イイ、コなんだ、よ。」


大丈夫。涙は我慢しきれた。堪えきれた。風があたしを宥めるようにくすぐった。
あたしは最後の一息、深く息を吸って、はいた。白い息がぼんやりうかぶ。


「でさ、仲良くなんなかったら、Kと・・仲良くなんて、しなきゃ・・あんな、ツー・・ショット送られてこなかったのにって。」



あ、こんなこと言わなきゃ良かったかな。
後悔してももう遅い。もう空気を振動させて伝わってしまったから。

嫌気がさす。
やっぱりアンダーグラウンド。後ろ向きで、いい思いでも悲しくなって。
出会ったことを後悔して、切なくて苦しくなって。

普段生活していても哀しくても、嬉しくても、どこか冷めた目で何か見る自分が居て、嫌で。
なんでも後ろ向きに考えて、ずっと引き摺ったまま、傷ついたフリしてその場に立ち尽くして。


ゴンベはまだあたしをみつめてる。

涙を飲み込んだ。
唇を舐めて、
指先を擦り合わせた。
ゴンベの視線をさけて
笑って見せた。



びゅう と強く風がふいた。




ゴンベはあたしを見つめたままで。

キャスケット帽は抑えたけど、目にゴミが入ってしまった。
チクリ と痛みがはしった。こすってもなかなかとれなくて、涙がボロ とでてきた。

堪えていたものが プツリ と 音をたてて きれた。

ボロボロボロボロ

     『ああ、折角、我慢したのに』

もうすっかりゴミなんかとれたのに
あとからあとから涙が溢れ零れ流れ落ちた。

真っ暗な夜空に星がチカリと瞬いた。
白い息が不定期に浮かんだ。
風がふわり と頬をなでた。
ゴンベがそっ と頬に触れた。


「ちょっとクサイこといっちゃうけどさ。」


照れ笑いしたゴンベも、やっぱり可愛かった。

「涙我慢して笑うナツメより、泣いてるナツメのが可愛いよ」

ボロボロボロボロ


心が呟く。
     『クサイというよりキモイよ。』
     『っていうかキモイというよりあんたの方が可愛いよ』


フワ と空気が揺れた。冷たい風が暖かい何かに遮られて、ゴンベの気配が近づいた。
ギュ と空気が鳴った。暖かい風に包まれるような、そんな感じがした。


ああ。あったかい。
ああ。静寂が、なんでこんなに心地いいものに変わったんだろう。

まだ少し幼い、でもシッカリした、フワリのものが体にピタリ、とくっついた。


泣いて
泣いて
泣いて
顔なんてくしゃくしゃで、ぐっしゃぐしゃで。

     『あぁ、心のジリジリ とかグラグラ とかポロポロ って 剥がれてく』


     ただたんに失恋したから
     とか、そんなじゃなくて。
     ゴンベがあったかさとか
     ゴンベのやさしさとかが
     なんかすごいうれしくて。


目を瞑った。声が漏れた。ただ泣きじゃくったあたしの声が真っ暗な公園のなかで響いて
消えた。


フワリ

体が離れた。公園の電気がついた。バリバリという音を立て、ついたりきえたりした。

「ソロソロ行かなくちゃ。」


ゴンベの不思議と通る声が空気を優しく振動させた。風があたしの顔を撫でた。風があたしの髪を揺らした。



「・・どこにいくの」

ゴンベは少し困った顔をして、それから思いついたように答えた。

「トオク」


びゅう とキャスケット帽がとんだ。ゴンベのアタマにポスンと乗った。

「これもらってくから」

「まって」

何を言ってるんだろう。あたしは。頭で考えるより先に言葉が口から漏れてしまう。
目の前が白く霞む。


「いかないで」

「・・」



     「あたしは何を言ってるの。今あったばかりの男の子に。」
普通のあたしが心でつぶやく。
     『思うより先に、考えるより先に、溢れて零れちゃうの。涙みたいに。言葉がボロボロに。』
捻くれたあたしが心でつぶやく。



「いかないで。」

「消えないで。」



風が優しく吹き抜ける。

そっ と風が頬に触れた。
そっ と風が唇に触れた。



「いかなくちゃ」




「・・なんで」


思いもよらない言葉を口走る。なんで、なんて、無粋な言葉。


「・・」


ほら、ゴンベの困った顔。
涙でぬれた頬が風に吹かれて痛い。

「理由なんてないけど、行かなきゃいけないんだ」


「・・・・どうして」

風が強く吹き抜けた。










「だって僕は風だから。」







びゅう と音を立ててあたしを風が包み込んだ。

またそっと唇に触れた、風。というか、ゴンベ。。。?
くしゃり とした笑顔であたしの顔を見て


またびゅう と音を立てて風が強く吹き付ける。思わず目を閉じた瞬間に









風が、
ゴンベが
消えた。





残されたあたし
唇にふれた。
ペロリ と舐めた。

キャスケット帽も奪われて
ついでに唇もうばわれて


ついでに心も奪われた。




ぼんやりしていた意識を夜の冷たい風がハッキリさせた。
あぁ。

無気力感が溢れ零れ流れ落ちた。





大きく息を吸い込み
大きく息を吐き出した。


風で乾かされた頬を拭う。



前を向き、マフラーに顔を埋め
寒空の中、冷たくキン とした空気を肺いっぱいに吸い込み
風を浴びて


ゆっくりと歩を進める。






*****



だいぶ暗くなってきた。風はすっかりやんでいた。

あたしの目の前にはゴロウのお墓がある。

どうしようもなく涙がこぼれたけれど、

涙、乾いて。



ゆっくりと風がふいた。
おずおずと、しっかりと、風が、あたしをつつむ。


ゴロウ、ゴロウ、
あたし、後悔しないよ。





あたしはゆっくりと立ち上がり、暗闇の中白い息を吐き出しながら
ゆっくりと家路に向かった。


2004-03-25 10:03:35公開 / 作者:MH
■この作品の著作権はMHさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめてここにかかせていただきます、MHと申します。
これは前にぱらちゃっとというところでかかせていただいたもののリメイクみたいなもんで・・
もしよんでいただければ光栄です。
この作品に対する感想 - 昇順
よかったですwすてきでしたー!自分もぱらちゃっとにはよく行ってますw
2004-03-25 01:18:21【★★★★☆】あかね
わーありがとうございます!!自分でも長いの読む気しないのに読んでいただけて!嬉しい言葉もありがとうございます!ぱらちゃっと仲ですねホホ!
2004-03-25 10:06:24【☆☆☆☆☆】MH
ぱらちゃっとってなに??っていうかよみずらい。(すんません
2004-03-25 17:00:10【☆☆☆☆☆】DQM出現
ま・・マイナス50ですか・・すんませんなにがわるかったでしょう?>布良さん  ぱらちゃっとっていうHPです読みづらかったすか・・すみません!レスありがとございます。>DQM出現さん
2004-03-25 18:30:36【☆☆☆☆☆】MH
詩的な感じはしますけど、別にマイナス付くような違反はしていないような…。
2004-03-25 20:46:33【★★★★☆】霜
ホ、よかったマイナス50がきえてる・・。あ、やっぱ詩的なかんじですか・・?「小説」をしっかりかけるように頑張ります!レスありがとうございました!>霜さん
2004-03-25 22:18:01【☆☆☆☆☆】MH
はじめまして★とっても素敵な小説で気に入ってしまいました!
2004-03-30 10:18:23【★★★★☆】麗
kya-
2004-04-03 23:56:22【☆☆☆☆☆】MH
ご、ごめんなさい!!ていうかレスありがとうございます!!すっごく嬉しいです!レス遅くなってスミマセン・・では!
2004-04-03 23:58:09【☆☆☆☆☆】MH
計:12点
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